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SSS82『古池や』
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老婆は、縁側にあちこち継ぎはいだ座布団を持ち出し、いつものようにじっと表を見ている。薄闇が迫る中、老いた体を座布団の上にまとめ、戦争から帰ってくるはずの息子を待っている。闇がひたひたと、小さな植木鉢と愛らしい花に満ちた小さな庭に押し寄せる。やがて月が昇ってくる。どこか物憂い光が、庭のもう幾年も使っていない手水鉢の鏡にゆらりと跳ね返る。老婆は待つことにまだ慣れていない。早く慣れたいと思いながら、20年を待って過ごしてきた。ポチャン。蛙が手水鉢を小さな池と間違えたのか、その体を投げ込んだ。月は幾つもの波の同心円に区切られてばらばらになる。老婆は蛙の飛び込んだ中に、深く重い闇を見つける。細かな光が手水鉢の宇宙に輝いている。その中で老婆の息子が笑う。だが、老婆はそこへ行けない。まだ待ち足りないのだ。飛び込んだはずの蛙は月を引きずってその闇へ消えたのだろう。波紋が消えても月は映らなかった。
終わり
終わり
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