『segakiyui短編集』

segakiyui

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SSS84『雨宿り』

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 京都の大枝という所をご存知ですか? え、知らない。まあ辺境ですからご存知ないのも無理はないんですが……困りましたな、話が進まない……そうだ。鬼と言えば思い出しませんか、そら……羅生門の鬼伝説。ご存知? やれやれ、助かった。何せ、これから話そうとすることには、あの辺の雰囲気をわかってもらってないとねえ。竹と旧家と田んぼと、そしてお誂え向きの薄曇り。いえいえ、鬼の話じゃありません、ほら、このぐらいの、そうそうあなたの腰ぐらいの、小さな女の子の話。
 座敷わらしというのを……その顔じゃ、ご存知ですな。そうそう、覚えてなくても、小さい時に一回は会ってるもんです。そう、私の場合は鬼ごっこでしたな。追っかけてると、すぐ目の前に変な着物を着た子がいる。変だな、と思ったけれど、そこは子ども、夢中で飛びついて捕まえると、一緒に転んでしまって、その子、わんわん泣くんです。慌ててオロオロしていると、仲間が集まってきて、どうしたってことになる。ところが誰もその女の子を知らないんです。どこらの子かもわからない。
 子どもっていうのは残酷なものでね、気味が悪いから仲間はずれにしちゃおうとすると……また、泣きかけるんですな。私も弱りました。何せ捕まえたのは私ですからね。仕方なしに私一人で遊び相手になろうとすると、フイと向こうを向いて「帰る」って言うんです。内心ほっとして、それじゃあって言うと「ありがとう」ってね。いや、なんとも可愛い照れ臭そうな顔でしたっけ。懐かしいなあ。
 それっきり会うこともなかったんですが、ひょんな時に会いましてね。ついこの間なんですよ。ほら、大雨が降って……そうそう、あの日、私は大枝にいたんですよ。友人のところへ訪ねて行ってね、夕飯、ご馳走になって、少々酒を過ごして……あいつが送るって言ったけど、子どももぐずついてましたし、なあに、大丈夫だよって出てきたんです。それでもやっぱり飲み過ぎだったんでしょうかね、どこをどう歩いたのか、我に返ってみると、山と田んぼの境にいるんですよ。あたりを見ても遠そうな人家の明かりが二つ三つ、道はどうなってるのかもわからない。
 困ってると、向こうから灯りが一つ、ゆらゆらやってくるんです。それも、ひどく低い所を来るから、人魂じゃあないだろう………そしたら、それがね、ちょっと止まってはゆらゆら、私を呼ぶように動くんですよ。おやっと思って、その灯りをよく見ると、灯りに照らされてぼうっと小さな女の子の顔が浮かび上がって……そうあの子なんですよ。「ーーちゃん」てね、私の名を呼んで、「こっちよ」って言うんです。恐る恐る近づいて行ったら、昔のまんま、顔も服も何もかもね。灯りを持ったまま、道がわかるところまで連れて行ってくれたんです。
 どうしてこんな所にいるのかって尋ねると、「今まで宮野の家にいたけれど、あの家はもうだめだから、今から坂田の家へ行く」って言うと、あの照れたような恥ずかしそうな笑みを見せてねえ……一度に数十年を飛び越えた気がしました。その子が、昔話の座敷わらしらしいなと気づいたのは、それからうんと後のことで……。
 おや、雨が上がりましたね。これからどこかへ? ははあ、恋人と待ち合わせ。それじゃあ、早々に退散するとしましょう、つまらない話をお聞かせして………いえいえ、あなたのような若い人と話すには歳をとりすぎましたからな、それじゃあ、これで………。

              終わり
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