『DRAGON NET』

segakiyui

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107.『化身』(3)

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「…ライヤー?」
 染みに向かっていくはずなのに、速度が落ちてカークは声をかけた。
「もう私がひこうか?」
 『白竜』を同化させれば、エネルギーは数倍になるだろう。
「ごめんなさい、まだ待って」
 我に返ったように、ライヤーが口走る。
「この空間はまだ『塔京』中央庁の範囲だけど、あそこから先は異空間に繋がっている。……僕の力じゃ飛べなくなる」
 巨大な黒い竜となって、カークを抱えているライヤーが戸惑うように呟く。
 確かに、今でもかなりの速度で追いすがっているが、染みはじりじりと小さくなり、収縮して行く。
「あそこに入ったら、今度はカークさんに引いてもらわなくちゃならないんです」
 いつの記憶かわからないんですが、あれが『宇宙』で、そこを一人で飛ぶのは辛くて苦しいことだと体が勝手に竦んでしまう。
「あの先には誰も生きていないんだって……そんな風に思ってしまう」
「……その記憶は…わかる」
 カークは閃いた感覚に頷いた。
「自分が何か、違う人間だったような?」
「はい…とんでもない失敗をしたような」
 そうしてかけがえのない相手を何度も失ったような。
「…間違わない人間なぞいない」
 カークはオウライカのことを思い出す。
 『斎京』へ送ったのがそもそもの間違いたったのか。磔刑にするために追い詰めただけだったのか。
「…きっと」
 思い直した口調でライヤーが呟く。
「全ては、繋がっている」
 過ちも正義も真実も嘘も。
「僕達にはわからない、けれど動かしがたい流れがあって、寸分狂いもなく、その場所へ導かれて行っている…」
 染みが広がり出した。
 認識し自覚すること、それだけが唯一無二の推進力のように。
「…で、ます!」
「…任せろ」
 急速に背後の気配が縮み、くたくたと柔らかく存在を失って剥がれ落ちそうになる瞬間、カークは内側の『白竜』に呼びかける。
「……喰らえ……『白竜』…っ!」
 ざう、と耳元で風が鳴る。視界が紅に覆われる。竜の眼なのか、それとも屠り啜った獲物の血潮か。肌が弾けて膨れ上がり、背中のライヤーを軽々と掴み取り、大きく頭を振った瞬間、黒い染みの中へ飛び込み、躍り出る。
「…カーク…っ」
 ライヤーの悲鳴が上がった。
 目の前を巨大な炎が吹き上がる。
 惑星一つを飲み込むような大きさの、紅蓮の朱赤を纏った黄金の柱。先端は輝く青白い一条の矢のような光、視線が追いつく前に月まで奔り、一点に突き刺さり、月がゆらりと揺れた。
「あれは『うさぎ』の…っ」
 ライヤーが息を呑む。
「地割れ、か…っ」
 見下ろしたカークも呼吸を止める。
 地上はひび割れるような裂け目に覆われていた。『塔京』が波打ち蠢いている。周囲に走った閃光が今にも四方に破裂しそうに裂け目を広がらせる。『斎京』もまた上下に振動していて膨れ上がったり縮んだりしている。他にも恐らくはかつての都市だろう場所が、激しく揺れて震え、その各部をつないでいく光の裂け目が全土を覆っていく、その中心部から月へと巨大な架け橋となる黄金の柱。
 いや、それは今や金色に輝く天翔ける竜と見えた。
「……黄金竜…か、あれが…」
「…エネルギーが…放出されていく…?」
 月の周囲が熱量に霞むように見えた。月そのものが光に焦がされ膨らむようにも見えた。同時に地上が黒ずみばらばらと砕け散っていくようにも見えた。
「あのままでは…」
「待ってください、あれ!」
「あの、光は」
「カザル……?」
 月を崩しそうな光の槍の切っ先に小さな煌めきが宿った。少しずつ大きく強くなり、やがて宇宙に生まれた雫のように黄金の光を飲み込み食い込み進み始める。
「蒼銀の、光だ」
「……ああ」
 カークは思わず吐息を漏らした。
 清冽な、透明な、潤いのあるその光が、猛々しく輝く黄金の切っ先を静かに押し返し始めている。
 よく見れば、黄金の柱は青い雫に触れると、粉々に砕けて四散していくようだ。しかも四散した光は翻るように空中を舞い、地上の方へと流れていく。
「……蝶……黄金の蝶……カークさん…っ?」
 堪えかねたように吐き出すライヤーのことばを耳に、カークは大きく体を波打たせて進み始めた。
「何?」
「このままでは地上が破壊される」
「え…?」
「見ろ、黄金柱が変形していくぞ」
「あ…っ」
 空間の三分の一まで進んだ雫に遮られて、柱は奇妙な形に膨れ上がりつつあった。はみ出し広がり、雫を逆に包み返すように回り込んでいく。巨大な一匹の竜が正面からの敵に数十、いや数百の竜に分かれて飛びかかっていくようだ。地上に戻された蝶達が、無理やり再び黄金の柱に引き摺り込まれていく。
「どうする気ですか」
「黄金柱を包み込み拡大を抑えて、雫に最後まで壊させる」
「どうやって」
「この体を使う!」
「カークさん!」
 ライヤーの悲鳴を背後に放り捨て、カークは意識を内側に向けた。無数の骨で構成されている体の繋がりを、一瞬にして全て解き放ち、ちぎれ飛びそうな意識を黄金柱に向ける。
「…造作もない…今まで多くの逸物を喰ってきたのだからな…」
 痛みを堪えて冷ややかに笑った。
「そのエネルギーは私のものだ、オウライカ」
 返してもらうぞ。
 銀の流れが黄金竜に絡みつき、締め上げていく。
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