『DRAGON NET』

segakiyui

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112.『四天』(2)

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 寄り添って去っていくカークとライヤーの後ろ姿を見送って、オウライカは中庭へ入り込む。
 緑溢れる木々に囲まれ、いくつかの瀟洒なベンチが置かれ、後は瑞々しい芝生だけのこの公園の中央に座る姿があるからだ。
「えーと…この建物は、こちらじゃ要らないよね」
 光を浴びながら、茶色の髪が風に靡く。両手を空中に絵を描くように動かしながら、時折首を傾げる姿は、いつかの刺々しさこそなくなったものの、相変わらず隙がない。
「こっちのシステムは、こことやりかえて」
 指先が空中を滑ると光が走る。輝く瞳は楽しげだ。
「カザル」
「、オウライカさん!」
 声をかけると振り返って笑い返して来た。
「また『呼ばれた』のか」
「うん。夜中に急に思いついたって言うんだ、困っちゃうよ」
 カザルの中で都市を作り上げる過程で消えていったと思われた『黄金竜』は、実はカザルの深くに根を下ろしてしまった部分があったようで、時々カザルのエネルギーを使い、新しい都市のシステムやアイディアを伝えて来ては実現しろと迫るらしい。
「まだかかりそうか?」
 隣に腰を下ろすと、首を傾げて見返して来た。その首に、ついいつぞやの首輪を思い出して苦笑する。
「何?」
「いや、初めての頃を思い出した」
「ああ、無理やり襲われた時ね」
「そっちが誘惑したんだろうが」
「知らない、覚えてないから」
 ぷいと背ける横顔は薄赤い。
「もうちょっとかかるから待ってて」
「わかった」
 今日はリヤンが何か美味いものを食わせてくれるらしいぞ、と誘う。
「ふうん、楽しみ」
 忙しく指を空中で動かして、何かを尋ねるように胸に手を当てた。
「どうだ?」
「良いって」
「じゃあ帰るか」
「うん」
 立ち上がるオウライカにいそいそと従う相手の匂いに煽られる。
「今夜は『斎京』で良いだろ」
「……うん」
 カザルが一瞬困った顔になって、けれど少し嬉しそうに頷く。帰れなくするんでしょ、と詰られて。当たり前だろ、と言い返す。
「…オウライカさん」
「ん?」
「……俺……今、全部良かったって思ってる」
「…何が」
「……いろんな思いしたけど……辛かったり、苦しかったりしたけど……それが皆、あんたに繋がってるんだから、良いやって」
「…ばかなことを言うな」
 オウライカは嗜める。
「俺はしまったと思ってる」
「え」
「生まれた時から、側にいてやりゃ良かったって」
「……そんなの、居たかどうか、わかんないじゃん…」
 ぼそぼそ反論しながらしがみついて来たカザルを、オウライカは強く引き寄せた。

 黄金都市『月下の桜』は、四都市の長たる『四天』の竜によって選ばれた『王樹』と呼ばれる長のもと、この世界の過去と未来を学び続ける研究機関だ。
 ここでは全てのものの意味が探られ、在り方を問う。未来を育むにふさわしいか、過去を癒すのに必要か、各都市の施策も全て検証され、再提案が為される。
 それはいつしか『DRAGON NET』と呼ばれるシステムとなった。
 未曾有の崩壊の一歩手前まで進んだ世界が、何かもを失った世界からのメッセージを如何に生かしていくか、考え続けるシステムだ。

「あ、オウライカさん」
 カザルが不意に空を見上げた。
「ん?」
「蝶が渡ってく」
「…ああ、そうだな」
 誰かが次の世界へ旅立っていく。
 余人には見えない魂の離床が見えるようになってから、二人はこうして祈るように見送るようになった。
「新しい物語を作ってくれるのかな」
「俺たちを越える場所へ届いてくれれば良い」
「…最後の一人まで見送れればいいなあ」
 カザルが両手を差し伸べ、大きく振った。
「行ってらっしゃい! 頑張ってね! 俺達ずっと、君を見守ってるから!」

 空は無限に広がり、人の熱を待ち続けている。
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