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5.『ことばを侮るなかれ』
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駅からそれほど離れていない場所に、そのあたり一帯を占めるような大きな屋敷が一つあった。
ブライアンが周囲に気を配りつつインターホンに帰還を告げると、車数台横並びに入れそうな門扉がゆっくり開く。
家の前は緑豊かな前庭で、細かい玉砂利を敷き詰め石畳を配した通路が奥まで続き、それを踏んでいくと緩やかな傾斜の色鮮やかな緑の屋根と赤い柱、白壁を持つ木造の建物に辿りつく。
途中のどこからかブライアンは姿を消し、オウライカは無言のまま従ってくるカザルを連れて玄関を入り、出迎えた女性達に鞄や上着を渡す。
「腹は減ってるか」
「………」
問いかけたが、後ろのカザルは思いつめた顔をしてこちらを睨んで応じない。
「長旅で疲れたろう。部屋を用意させるから少し一緒に待て」
「………殺してやる」
「ん?」
自室に入って、カザルを促すと入り口で立ち竦んだまま、きつい口調で唸った。
「……馬鹿にしやがって」
「何が」
「……じゃあ、俺のことなんか、始めっからわかってたんじゃん」
ほう、ライヤーの意味が通じているらしい、と目を細めた。
金の瞳は燃えあがらんばかりの怒りに満たされている。さっきより数段激しいその炎は煌めきを増して美しい。
欲しいな、これは。
同情や憐憫でなく、オウライカはそう思ってカザルを見つめた。
「だって………さっきのことが本当なら、あんたをログ・オウライカだと知ってる奴なんていない……『塔京』のカーク、以外に………カークの手先以外に」
「そうなる」
「じゃあ、俺に聞くまでもなく、俺が敵だって知ってたはずだ! なのに、知らんふりして、俺が必死に嘘ついてんの、黙って見てて、腹の底で笑ってやがったんだ」
「……そんなつもりはない」
「じゃあ、どんなつもりさ! 俺をこんなとこまで引きずり込んで! よっぽど自信があるんだろうけどさ、ああ、ちぇっ、馬鹿見た、俺、もう少しであんたが凄くいいやつだって思っちゃうところだった!」
きりきりした声で喚きながら、くるりとカザルが身を翻す。
「何処に行く」
「帰んのっ。あんたにむかついてんの! 顔も見たくねえの!」
「カザル」
「あんたなんか、最低なんだからっ。力づくでも出てくからねっ!」
「…………じゃあ、力づくでも止めるか」
「え……?」
「カークがどんな男か知ってるだろう、失敗を許してくれるようなやつじゃない」
「……それでも」
翳りを帯びて琥珀の輝きを宿した瞳が冷ややかに見返す。
「あんたの顔見てるぐらいなら、さっさと帰って、死んだ方がましっ」
ぐい、と顔を背けたカザルがびくり、と仰け反った。
「あ……っ」
「残念ながら、私は君が気に入った」
「え……あっ……あっ」
はっとして首輪を掴んだカザルが手足を不器用に揺らせ、人形が振り向くように向きを変える。背後から見えない力に押し出されるように、一歩、また一歩と部屋に入って、背中で自ら扉を閉めた。
「やだ………オウライカさん……何……してんの……」
恐怖に白くなった唇を震わせて、ニ本指をたてて唇にあてて呪文を唱えるオウライカを凝視する。がたがた震えながら、首輪を掴んだ指を離して、ゆっくりとスーツの上着を脱ぎ落とした。そのままシャツのボタンに指をかけて、一つずつ外していく。
「やめ…て……なんで……なんでこんな……こと…俺…」
赤く染まっていく頬を緊張で強ばらせて、シャツも脱ぎ捨てる。腰のベルトを外し、スラックスのチャックを降ろす。足下に落ちたスラックスを同じように落ちた下着が追う。
「何……なんだよ……これ……何で……」
半泣きになって、そのままのろのろと、部屋の中に敷かれた長い毛足の白いラグの上に素肌のまま寝転がる。両手を膝の裏に当て、そのまま下半身を晒すように脚を開いて持ち上げた。
股間で不安そうにうなだれたものも、柔らかな膨らみも、微かに蠢く後ろもオウライカに見せつけるように身をくねらせ、呼吸を弾ませる。オウライカの視線に全てを晒すと、ゆっくりと片足だけを抱えてなお開きながら、もう片方の手で喉から胸へ、誘うように指を滑らせる。
部屋の明りに淡い光を反射させながら、艶やかな肌が指に辿られ優しくうねる。早くなっていく呼吸の音、まるで自ら欲情していくような。
それは目を奪うほど鮮やかな媚態、けれど、カザルの顔は反対に怯え切って、色を失った唇を噛み締め、瞳には涙が一杯に溜まっている。
「オウ…ライカ……さん……」
オウライカは伏せていた目を上げた。その視線に貫かれたようにびくりとカザルが震える。零れ落ちた涙に掠れた声で訴える。
「や…だ……やめて……これは……や……っあ」
自分の意志とは無関係に手が股間に伸びて動きだし、カザルが首を振った。
「あっ…あっ………あ……や、……や、あっ」
自分の指先に弄ばれるように仰け反りながら喘ぐ。驚きに見張った目にまた次々涙が溜まっていく。
「………カザル」
「っは……あっ」
指を唇から離して静かに声をかけた。へたっ、といきなり力が抜けてだらりと寝そべったカザルが茫然とした表情でオウライカを見上げている。
その全身が細かく震えているのに、さすがにやり過ぎたと気がついた。シャツを拾って近寄り、抱き起こしながら上半身を包んでやると、慌てたふうに袖を通して前をかき寄せ、半勃ちになった股間を押さえながら、ばしり、と激しい勢いで頬を殴られた。
「………すまない」
「……っっ」
そのままくるっと背中を向け、身体を竦め膝を抱えて丸くなってしまったカザルが声を殺して泣いている。そのひどく小さく見える背中に静かに告げる。
「わかっただろう? 今のは君の首輪が与えた拘束だ。ここはそういう力が実在する。君が無防備に外へ飛び出したら、おそらくすぐにそういう力に掴まる」
「………」
ひくっ、とカザルが啜り上げるのに跪き、もう一度そっと背中から抱きかかえた。今度は抵抗しないで、じっと抱かれたままになっているのにほっとして、ことばを続ける。
「私は君が殺されるのは嫌だ。かといって、君がここで負担になるなら自由にしたい。だが、できればもう少し居てくれ。その間に、もっとちゃんとしたガードを設える。それができたら、どこへでもいっていい」
「……ほんと?」
くすん、と洟を啜ったカザルが肩ごしに見上げてきた。濡れた瞳に必死さに胸を突かれて、ゆっくり頷く。
「本当だ」
「…………うん……わかった」
「待ってられるか?」
「うん……待つ」
「よし」
「待って……できたら、あんたを殺して『塔京』に帰る」
きらりと光った目で嬉しそうに笑った。
「そうだな」
あまり楽しそうなのに、ついつられて笑うと唇を尖らせた。
「ほんとに悪いと思ってる?」
「思ってる」
「じゃあ、こういうときはキスするもんじゃない?」
「そうか」
「俺、傷ついたんだよ?」
「ああ」
「お詫びするもんでしょ?」
「すまない」
「じゃなくて」
「据え膳は嫌いなんだ」
「…………頑固もん」
「っん」
唇を寄せてきたカザルの肌の匂いにくらくらしたが、今襲うと今度はもっと泣かせそうで、オウライカは大人しく我慢した。
ブライアンが周囲に気を配りつつインターホンに帰還を告げると、車数台横並びに入れそうな門扉がゆっくり開く。
家の前は緑豊かな前庭で、細かい玉砂利を敷き詰め石畳を配した通路が奥まで続き、それを踏んでいくと緩やかな傾斜の色鮮やかな緑の屋根と赤い柱、白壁を持つ木造の建物に辿りつく。
途中のどこからかブライアンは姿を消し、オウライカは無言のまま従ってくるカザルを連れて玄関を入り、出迎えた女性達に鞄や上着を渡す。
「腹は減ってるか」
「………」
問いかけたが、後ろのカザルは思いつめた顔をしてこちらを睨んで応じない。
「長旅で疲れたろう。部屋を用意させるから少し一緒に待て」
「………殺してやる」
「ん?」
自室に入って、カザルを促すと入り口で立ち竦んだまま、きつい口調で唸った。
「……馬鹿にしやがって」
「何が」
「……じゃあ、俺のことなんか、始めっからわかってたんじゃん」
ほう、ライヤーの意味が通じているらしい、と目を細めた。
金の瞳は燃えあがらんばかりの怒りに満たされている。さっきより数段激しいその炎は煌めきを増して美しい。
欲しいな、これは。
同情や憐憫でなく、オウライカはそう思ってカザルを見つめた。
「だって………さっきのことが本当なら、あんたをログ・オウライカだと知ってる奴なんていない……『塔京』のカーク、以外に………カークの手先以外に」
「そうなる」
「じゃあ、俺に聞くまでもなく、俺が敵だって知ってたはずだ! なのに、知らんふりして、俺が必死に嘘ついてんの、黙って見てて、腹の底で笑ってやがったんだ」
「……そんなつもりはない」
「じゃあ、どんなつもりさ! 俺をこんなとこまで引きずり込んで! よっぽど自信があるんだろうけどさ、ああ、ちぇっ、馬鹿見た、俺、もう少しであんたが凄くいいやつだって思っちゃうところだった!」
きりきりした声で喚きながら、くるりとカザルが身を翻す。
「何処に行く」
「帰んのっ。あんたにむかついてんの! 顔も見たくねえの!」
「カザル」
「あんたなんか、最低なんだからっ。力づくでも出てくからねっ!」
「…………じゃあ、力づくでも止めるか」
「え……?」
「カークがどんな男か知ってるだろう、失敗を許してくれるようなやつじゃない」
「……それでも」
翳りを帯びて琥珀の輝きを宿した瞳が冷ややかに見返す。
「あんたの顔見てるぐらいなら、さっさと帰って、死んだ方がましっ」
ぐい、と顔を背けたカザルがびくり、と仰け反った。
「あ……っ」
「残念ながら、私は君が気に入った」
「え……あっ……あっ」
はっとして首輪を掴んだカザルが手足を不器用に揺らせ、人形が振り向くように向きを変える。背後から見えない力に押し出されるように、一歩、また一歩と部屋に入って、背中で自ら扉を閉めた。
「やだ………オウライカさん……何……してんの……」
恐怖に白くなった唇を震わせて、ニ本指をたてて唇にあてて呪文を唱えるオウライカを凝視する。がたがた震えながら、首輪を掴んだ指を離して、ゆっくりとスーツの上着を脱ぎ落とした。そのままシャツのボタンに指をかけて、一つずつ外していく。
「やめ…て……なんで……なんでこんな……こと…俺…」
赤く染まっていく頬を緊張で強ばらせて、シャツも脱ぎ捨てる。腰のベルトを外し、スラックスのチャックを降ろす。足下に落ちたスラックスを同じように落ちた下着が追う。
「何……なんだよ……これ……何で……」
半泣きになって、そのままのろのろと、部屋の中に敷かれた長い毛足の白いラグの上に素肌のまま寝転がる。両手を膝の裏に当て、そのまま下半身を晒すように脚を開いて持ち上げた。
股間で不安そうにうなだれたものも、柔らかな膨らみも、微かに蠢く後ろもオウライカに見せつけるように身をくねらせ、呼吸を弾ませる。オウライカの視線に全てを晒すと、ゆっくりと片足だけを抱えてなお開きながら、もう片方の手で喉から胸へ、誘うように指を滑らせる。
部屋の明りに淡い光を反射させながら、艶やかな肌が指に辿られ優しくうねる。早くなっていく呼吸の音、まるで自ら欲情していくような。
それは目を奪うほど鮮やかな媚態、けれど、カザルの顔は反対に怯え切って、色を失った唇を噛み締め、瞳には涙が一杯に溜まっている。
「オウ…ライカ……さん……」
オウライカは伏せていた目を上げた。その視線に貫かれたようにびくりとカザルが震える。零れ落ちた涙に掠れた声で訴える。
「や…だ……やめて……これは……や……っあ」
自分の意志とは無関係に手が股間に伸びて動きだし、カザルが首を振った。
「あっ…あっ………あ……や、……や、あっ」
自分の指先に弄ばれるように仰け反りながら喘ぐ。驚きに見張った目にまた次々涙が溜まっていく。
「………カザル」
「っは……あっ」
指を唇から離して静かに声をかけた。へたっ、といきなり力が抜けてだらりと寝そべったカザルが茫然とした表情でオウライカを見上げている。
その全身が細かく震えているのに、さすがにやり過ぎたと気がついた。シャツを拾って近寄り、抱き起こしながら上半身を包んでやると、慌てたふうに袖を通して前をかき寄せ、半勃ちになった股間を押さえながら、ばしり、と激しい勢いで頬を殴られた。
「………すまない」
「……っっ」
そのままくるっと背中を向け、身体を竦め膝を抱えて丸くなってしまったカザルが声を殺して泣いている。そのひどく小さく見える背中に静かに告げる。
「わかっただろう? 今のは君の首輪が与えた拘束だ。ここはそういう力が実在する。君が無防備に外へ飛び出したら、おそらくすぐにそういう力に掴まる」
「………」
ひくっ、とカザルが啜り上げるのに跪き、もう一度そっと背中から抱きかかえた。今度は抵抗しないで、じっと抱かれたままになっているのにほっとして、ことばを続ける。
「私は君が殺されるのは嫌だ。かといって、君がここで負担になるなら自由にしたい。だが、できればもう少し居てくれ。その間に、もっとちゃんとしたガードを設える。それができたら、どこへでもいっていい」
「……ほんと?」
くすん、と洟を啜ったカザルが肩ごしに見上げてきた。濡れた瞳に必死さに胸を突かれて、ゆっくり頷く。
「本当だ」
「…………うん……わかった」
「待ってられるか?」
「うん……待つ」
「よし」
「待って……できたら、あんたを殺して『塔京』に帰る」
きらりと光った目で嬉しそうに笑った。
「そうだな」
あまり楽しそうなのに、ついつられて笑うと唇を尖らせた。
「ほんとに悪いと思ってる?」
「思ってる」
「じゃあ、こういうときはキスするもんじゃない?」
「そうか」
「俺、傷ついたんだよ?」
「ああ」
「お詫びするもんでしょ?」
「すまない」
「じゃなくて」
「据え膳は嫌いなんだ」
「…………頑固もん」
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