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7.『欲望を偽るなかれ』(2)
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カザルが屋敷から姿を消した、とオウライカが聞いたのはいつもより早く戻れた夕刻だった。
使用人から中央宮の方へ向かったようです、と聞いて、やっぱり大人しくしてなどいなかったかと苦笑したが、ブライアンに、屋敷からではひょっとして『飢峡』にかかりませんか、と尋ねられてひやりとした。
カザルにはあの夜から触れていない。
時折見せる媚びというか色気にはかなり辛いときもあるが、繰り返し抱いてしまえば離し難くなるのは目に見えているし、今のところはカザルに殺されてやるつもりもないから、ここは事情をわかっているほうが大人になるべきだろうと我慢していた。
カザルはそれほど抱かれることを望んでいない、そう思っていたのも一因だ。
だが、気になって『飢峡』に来てみれば、半裸に剥かれたカザルが花の群れに貪られている。朦朧とした視線を彷徨わせながら、甘い声を上げて身悶える身体には蔓が巻き付き、花に犯され涙を零しながら反り返る姿は強烈な艶かしさで。
カザルに吸い付く花々を、カザルの苦痛からではなく自分の欲望から引き剥がしたいと思ってしまって、オウライカは心底うんざりした。
同時に、カザルが抱かれることを望んでいるとわかって、無性に抱きたくなったせいもある。
だが途中で様相が変わったのは花々がカザルの在り方、『塔京』の匂いに気づいたせいだろう。
快楽を引き出し、ただひたすらに獲物を酔わせて弄ぶはずの動きが、カザルが悲鳴を上げて蒼白になるようなものに変わって、さすがにオウライカも煩悩に浸っているわけにはいかなくなった。
火炎を使ったのは、嫉妬だ。
情けなくとんでもないことだが、カザルを弾けさせて啜り取った存在を許したくなくなったせいだ。
「反省だな」
開いていた本を閉じて唸ると、ソファに寝そべっていたカザルがびくりと振り返った。
今までなら、何なに、何のこと、と屈託なく聞いてきただろうに、白い顔になってじっとこちらを見つめたまま無言だ。
「……どうした?」
「……う、ううん」
頼りなく笑う顔に気力が戻っていない。まるで借りてきた猫のように大人しくなってしまって、それはそれで扱いに困る。
今までのカザルなら、冗談半分に床に誘って、勢いで啼かせてしまえもしたのだが、どうも不安そうで脆そうで、手を出せなくなってしまった。
抱かれたいと思っているとわかって、抱きたいと自覚した矢先にこれか。
ややこしいことになったな、と眉を寄せて本を開く。
それに、あの時。
ブライアンのスーツにしがみついていたカザルがひどく小さく可愛らしく、安心しているように見えた。
血を滴らせて、炎をぶっ放すような得体の知れない男などより、寛がせ休ませてくれるような男の方がいいのかもしれない………たとえばブライアンのような。
ふぅ、と思わず吐息をついた。
「オ…オウライカさん」
「ん」
「いつ……街へ行くの」
「は?」
思わず振り返ってしまった。
「街へ……行きたいのか?」
あんなに怖い目にあったのに。そう続けようとしたら、みるみるカザルが泣きそうになってぎょっとする。
「駄目…なの?」
「いや……大丈夫なのか?」
「え?」
「………体は大丈夫なのか?」
「あ、うん、元からいろいろ平気、だし」
にこ、と笑った瞳が潤んだままで酷く可愛い。
街へ行かずにこのまま寝室へ行かないか。
「っ……」
煮詰まった誘いを思いついてオウライカは眉を寄せた。
「駄目……」
「いや、そうだな、君が大丈夫なら、街へ行こう」
幸い、素材が揃ったとも聞いたから、ついでに首のそれも仕立て直そう。
そう言うと、まるで日が差し込んだ部屋のようにカザルの瞳が明るくなって、オウライカはかなり長い間見愡れてしまった。
使用人から中央宮の方へ向かったようです、と聞いて、やっぱり大人しくしてなどいなかったかと苦笑したが、ブライアンに、屋敷からではひょっとして『飢峡』にかかりませんか、と尋ねられてひやりとした。
カザルにはあの夜から触れていない。
時折見せる媚びというか色気にはかなり辛いときもあるが、繰り返し抱いてしまえば離し難くなるのは目に見えているし、今のところはカザルに殺されてやるつもりもないから、ここは事情をわかっているほうが大人になるべきだろうと我慢していた。
カザルはそれほど抱かれることを望んでいない、そう思っていたのも一因だ。
だが、気になって『飢峡』に来てみれば、半裸に剥かれたカザルが花の群れに貪られている。朦朧とした視線を彷徨わせながら、甘い声を上げて身悶える身体には蔓が巻き付き、花に犯され涙を零しながら反り返る姿は強烈な艶かしさで。
カザルに吸い付く花々を、カザルの苦痛からではなく自分の欲望から引き剥がしたいと思ってしまって、オウライカは心底うんざりした。
同時に、カザルが抱かれることを望んでいるとわかって、無性に抱きたくなったせいもある。
だが途中で様相が変わったのは花々がカザルの在り方、『塔京』の匂いに気づいたせいだろう。
快楽を引き出し、ただひたすらに獲物を酔わせて弄ぶはずの動きが、カザルが悲鳴を上げて蒼白になるようなものに変わって、さすがにオウライカも煩悩に浸っているわけにはいかなくなった。
火炎を使ったのは、嫉妬だ。
情けなくとんでもないことだが、カザルを弾けさせて啜り取った存在を許したくなくなったせいだ。
「反省だな」
開いていた本を閉じて唸ると、ソファに寝そべっていたカザルがびくりと振り返った。
今までなら、何なに、何のこと、と屈託なく聞いてきただろうに、白い顔になってじっとこちらを見つめたまま無言だ。
「……どうした?」
「……う、ううん」
頼りなく笑う顔に気力が戻っていない。まるで借りてきた猫のように大人しくなってしまって、それはそれで扱いに困る。
今までのカザルなら、冗談半分に床に誘って、勢いで啼かせてしまえもしたのだが、どうも不安そうで脆そうで、手を出せなくなってしまった。
抱かれたいと思っているとわかって、抱きたいと自覚した矢先にこれか。
ややこしいことになったな、と眉を寄せて本を開く。
それに、あの時。
ブライアンのスーツにしがみついていたカザルがひどく小さく可愛らしく、安心しているように見えた。
血を滴らせて、炎をぶっ放すような得体の知れない男などより、寛がせ休ませてくれるような男の方がいいのかもしれない………たとえばブライアンのような。
ふぅ、と思わず吐息をついた。
「オ…オウライカさん」
「ん」
「いつ……街へ行くの」
「は?」
思わず振り返ってしまった。
「街へ……行きたいのか?」
あんなに怖い目にあったのに。そう続けようとしたら、みるみるカザルが泣きそうになってぎょっとする。
「駄目…なの?」
「いや……大丈夫なのか?」
「え?」
「………体は大丈夫なのか?」
「あ、うん、元からいろいろ平気、だし」
にこ、と笑った瞳が潤んだままで酷く可愛い。
街へ行かずにこのまま寝室へ行かないか。
「っ……」
煮詰まった誘いを思いついてオウライカは眉を寄せた。
「駄目……」
「いや、そうだな、君が大丈夫なら、街へ行こう」
幸い、素材が揃ったとも聞いたから、ついでに首のそれも仕立て直そう。
そう言うと、まるで日が差し込んだ部屋のようにカザルの瞳が明るくなって、オウライカはかなり長い間見愡れてしまった。
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