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13.『想いを閉ざすなかれ』(2)
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「カザル?」
「、はい」
我に返ると、オウライカが机を立って側まで来ていた。
「どうした?」
「え…?」
「何があった?」
「……何も……ない、です」
にこ、と変わらず笑った。笑ったはずだった。けれどオウライカがそっと手を伸ばして頬に触れてくれ、指先につい目を閉じて擦り寄せた。
「……わけ、わかんなく、なっちゃって」
噛み締める。
「ん?」
「わけ、わかんなく、なった。俺は、今、何をしたらいいのか、わけ、わかんないんだ。何で、俺、ここに居るのか、何で………」
目をそっと開く。真っ黒なオウライカの瞳に囁くように呟いた。
「あんたを殺さなくちゃいけないのか、わかんなく、なって」
「……そうか」
「うん………けど……殺さなくちゃ………殺さなくちゃ……帰れない」
「帰りたいのか?」
「……え…?」
静かにオウライカが尋ねてきて、またもう少し目を開く。
「『塔京』に帰りたいのか?」
「……俺……」
『塔京』に? 『処理』することと踏み付けられることを繰り返し、男や女や数知れない人間の中をゴミのように漂う夜に? 任務を遂行することは楽しい、自分の力を確認するのは気持ちいい、けれど、それもまたすぐに次の仕事に埋もれていく日々に?
「俺……」
「私はまだ殺されてやるわけにはいかない」
オウライカが目元で微かに笑った。それがフランシカやリヤンに向けた微笑と似ていて、カザルはどきりとする。
「だが、そのうちチャンスが来るかも知れないぞ?」
「……え?」
「君は自分に与えられた任務が遂行できないから、疲れてるんだろう」
「……違う……」
オウライカの指が当たっているところがじんわりと熱を帯びてくる。
キスしてよ。
「ここにいるとさ」
そのまま引き寄せて、俺にキスして。
「抱いてもらえないじゃん、ずっと」
胸の中のことばが零れないように、目を閉じて口先で言った。
「俺だって健康な男で、枯れてもいないしさ、いい加減うんざりで」
ぴく、とオウライカの指が震える。
「へたに飛び出すと、わけわかんないところに突っ込むし。だからあそこならさ、俺が欲しいだけ抱いてくれる人もいるだろうし」
ゆっくり目を開いて、こちらを見つめるオウライカの目を見返した。
「……抱かれたいのか?」
「……うん……むちゃくちゃに」
「そっか」
ふぅ、とオウライカは深い息をついた。指先がそっと離れていくのに、顔を引きつらせてカザルは続けた。
「それに」
「ん?」
「どこへ行ってもいいって言ったでしょ? ガード設えたら、好きなところ行ってもいいって」
行くな、って言ってよ。ここに居ろ、って言ってよ。危ないから、不安だから、大切だから、側に居ろって。むちゃくちゃに抱いてやるから、ここに居ろって。
胸の中で叫んでいる自分が震えている。
だが、オウライカは微かに苦笑いして指を降ろした。くるりと背中を向けて、
「そうだな」
一言同意して机の向こうに戻っていく。
「じゃあ、リヤンに話しておこう。『華街』はリヤンの範囲だから、逆らうなよ?」
「うん……わかってる」
ためらいもしないオウライカの背中がぼやぼやと滲んでいく。
「リヤンさんの怖さはもうよっくわかってますって」
震えかけた声を、カザルは笑いながら俯いてごまかした。
「、はい」
我に返ると、オウライカが机を立って側まで来ていた。
「どうした?」
「え…?」
「何があった?」
「……何も……ない、です」
にこ、と変わらず笑った。笑ったはずだった。けれどオウライカがそっと手を伸ばして頬に触れてくれ、指先につい目を閉じて擦り寄せた。
「……わけ、わかんなく、なっちゃって」
噛み締める。
「ん?」
「わけ、わかんなく、なった。俺は、今、何をしたらいいのか、わけ、わかんないんだ。何で、俺、ここに居るのか、何で………」
目をそっと開く。真っ黒なオウライカの瞳に囁くように呟いた。
「あんたを殺さなくちゃいけないのか、わかんなく、なって」
「……そうか」
「うん………けど……殺さなくちゃ………殺さなくちゃ……帰れない」
「帰りたいのか?」
「……え…?」
静かにオウライカが尋ねてきて、またもう少し目を開く。
「『塔京』に帰りたいのか?」
「……俺……」
『塔京』に? 『処理』することと踏み付けられることを繰り返し、男や女や数知れない人間の中をゴミのように漂う夜に? 任務を遂行することは楽しい、自分の力を確認するのは気持ちいい、けれど、それもまたすぐに次の仕事に埋もれていく日々に?
「俺……」
「私はまだ殺されてやるわけにはいかない」
オウライカが目元で微かに笑った。それがフランシカやリヤンに向けた微笑と似ていて、カザルはどきりとする。
「だが、そのうちチャンスが来るかも知れないぞ?」
「……え?」
「君は自分に与えられた任務が遂行できないから、疲れてるんだろう」
「……違う……」
オウライカの指が当たっているところがじんわりと熱を帯びてくる。
キスしてよ。
「ここにいるとさ」
そのまま引き寄せて、俺にキスして。
「抱いてもらえないじゃん、ずっと」
胸の中のことばが零れないように、目を閉じて口先で言った。
「俺だって健康な男で、枯れてもいないしさ、いい加減うんざりで」
ぴく、とオウライカの指が震える。
「へたに飛び出すと、わけわかんないところに突っ込むし。だからあそこならさ、俺が欲しいだけ抱いてくれる人もいるだろうし」
ゆっくり目を開いて、こちらを見つめるオウライカの目を見返した。
「……抱かれたいのか?」
「……うん……むちゃくちゃに」
「そっか」
ふぅ、とオウライカは深い息をついた。指先がそっと離れていくのに、顔を引きつらせてカザルは続けた。
「それに」
「ん?」
「どこへ行ってもいいって言ったでしょ? ガード設えたら、好きなところ行ってもいいって」
行くな、って言ってよ。ここに居ろ、って言ってよ。危ないから、不安だから、大切だから、側に居ろって。むちゃくちゃに抱いてやるから、ここに居ろって。
胸の中で叫んでいる自分が震えている。
だが、オウライカは微かに苦笑いして指を降ろした。くるりと背中を向けて、
「そうだな」
一言同意して机の向こうに戻っていく。
「じゃあ、リヤンに話しておこう。『華街』はリヤンの範囲だから、逆らうなよ?」
「うん……わかってる」
ためらいもしないオウライカの背中がぼやぼやと滲んでいく。
「リヤンさんの怖さはもうよっくわかってますって」
震えかけた声を、カザルは笑いながら俯いてごまかした。
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