25 / 213
13.『想いを閉ざすなかれ』(2)
しおりを挟む
「カザル?」
「、はい」
我に返ると、オウライカが机を立って側まで来ていた。
「どうした?」
「え…?」
「何があった?」
「……何も……ない、です」
にこ、と変わらず笑った。笑ったはずだった。けれどオウライカがそっと手を伸ばして頬に触れてくれ、指先につい目を閉じて擦り寄せた。
「……わけ、わかんなく、なっちゃって」
噛み締める。
「ん?」
「わけ、わかんなく、なった。俺は、今、何をしたらいいのか、わけ、わかんないんだ。何で、俺、ここに居るのか、何で………」
目をそっと開く。真っ黒なオウライカの瞳に囁くように呟いた。
「あんたを殺さなくちゃいけないのか、わかんなく、なって」
「……そうか」
「うん………けど……殺さなくちゃ………殺さなくちゃ……帰れない」
「帰りたいのか?」
「……え…?」
静かにオウライカが尋ねてきて、またもう少し目を開く。
「『塔京』に帰りたいのか?」
「……俺……」
『塔京』に? 『処理』することと踏み付けられることを繰り返し、男や女や数知れない人間の中をゴミのように漂う夜に? 任務を遂行することは楽しい、自分の力を確認するのは気持ちいい、けれど、それもまたすぐに次の仕事に埋もれていく日々に?
「俺……」
「私はまだ殺されてやるわけにはいかない」
オウライカが目元で微かに笑った。それがフランシカやリヤンに向けた微笑と似ていて、カザルはどきりとする。
「だが、そのうちチャンスが来るかも知れないぞ?」
「……え?」
「君は自分に与えられた任務が遂行できないから、疲れてるんだろう」
「……違う……」
オウライカの指が当たっているところがじんわりと熱を帯びてくる。
キスしてよ。
「ここにいるとさ」
そのまま引き寄せて、俺にキスして。
「抱いてもらえないじゃん、ずっと」
胸の中のことばが零れないように、目を閉じて口先で言った。
「俺だって健康な男で、枯れてもいないしさ、いい加減うんざりで」
ぴく、とオウライカの指が震える。
「へたに飛び出すと、わけわかんないところに突っ込むし。だからあそこならさ、俺が欲しいだけ抱いてくれる人もいるだろうし」
ゆっくり目を開いて、こちらを見つめるオウライカの目を見返した。
「……抱かれたいのか?」
「……うん……むちゃくちゃに」
「そっか」
ふぅ、とオウライカは深い息をついた。指先がそっと離れていくのに、顔を引きつらせてカザルは続けた。
「それに」
「ん?」
「どこへ行ってもいいって言ったでしょ? ガード設えたら、好きなところ行ってもいいって」
行くな、って言ってよ。ここに居ろ、って言ってよ。危ないから、不安だから、大切だから、側に居ろって。むちゃくちゃに抱いてやるから、ここに居ろって。
胸の中で叫んでいる自分が震えている。
だが、オウライカは微かに苦笑いして指を降ろした。くるりと背中を向けて、
「そうだな」
一言同意して机の向こうに戻っていく。
「じゃあ、リヤンに話しておこう。『華街』はリヤンの範囲だから、逆らうなよ?」
「うん……わかってる」
ためらいもしないオウライカの背中がぼやぼやと滲んでいく。
「リヤンさんの怖さはもうよっくわかってますって」
震えかけた声を、カザルは笑いながら俯いてごまかした。
「、はい」
我に返ると、オウライカが机を立って側まで来ていた。
「どうした?」
「え…?」
「何があった?」
「……何も……ない、です」
にこ、と変わらず笑った。笑ったはずだった。けれどオウライカがそっと手を伸ばして頬に触れてくれ、指先につい目を閉じて擦り寄せた。
「……わけ、わかんなく、なっちゃって」
噛み締める。
「ん?」
「わけ、わかんなく、なった。俺は、今、何をしたらいいのか、わけ、わかんないんだ。何で、俺、ここに居るのか、何で………」
目をそっと開く。真っ黒なオウライカの瞳に囁くように呟いた。
「あんたを殺さなくちゃいけないのか、わかんなく、なって」
「……そうか」
「うん………けど……殺さなくちゃ………殺さなくちゃ……帰れない」
「帰りたいのか?」
「……え…?」
静かにオウライカが尋ねてきて、またもう少し目を開く。
「『塔京』に帰りたいのか?」
「……俺……」
『塔京』に? 『処理』することと踏み付けられることを繰り返し、男や女や数知れない人間の中をゴミのように漂う夜に? 任務を遂行することは楽しい、自分の力を確認するのは気持ちいい、けれど、それもまたすぐに次の仕事に埋もれていく日々に?
「俺……」
「私はまだ殺されてやるわけにはいかない」
オウライカが目元で微かに笑った。それがフランシカやリヤンに向けた微笑と似ていて、カザルはどきりとする。
「だが、そのうちチャンスが来るかも知れないぞ?」
「……え?」
「君は自分に与えられた任務が遂行できないから、疲れてるんだろう」
「……違う……」
オウライカの指が当たっているところがじんわりと熱を帯びてくる。
キスしてよ。
「ここにいるとさ」
そのまま引き寄せて、俺にキスして。
「抱いてもらえないじゃん、ずっと」
胸の中のことばが零れないように、目を閉じて口先で言った。
「俺だって健康な男で、枯れてもいないしさ、いい加減うんざりで」
ぴく、とオウライカの指が震える。
「へたに飛び出すと、わけわかんないところに突っ込むし。だからあそこならさ、俺が欲しいだけ抱いてくれる人もいるだろうし」
ゆっくり目を開いて、こちらを見つめるオウライカの目を見返した。
「……抱かれたいのか?」
「……うん……むちゃくちゃに」
「そっか」
ふぅ、とオウライカは深い息をついた。指先がそっと離れていくのに、顔を引きつらせてカザルは続けた。
「それに」
「ん?」
「どこへ行ってもいいって言ったでしょ? ガード設えたら、好きなところ行ってもいいって」
行くな、って言ってよ。ここに居ろ、って言ってよ。危ないから、不安だから、大切だから、側に居ろって。むちゃくちゃに抱いてやるから、ここに居ろって。
胸の中で叫んでいる自分が震えている。
だが、オウライカは微かに苦笑いして指を降ろした。くるりと背中を向けて、
「そうだな」
一言同意して机の向こうに戻っていく。
「じゃあ、リヤンに話しておこう。『華街』はリヤンの範囲だから、逆らうなよ?」
「うん……わかってる」
ためらいもしないオウライカの背中がぼやぼやと滲んでいく。
「リヤンさんの怖さはもうよっくわかってますって」
震えかけた声を、カザルは笑いながら俯いてごまかした。
0
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる