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18.『拘束』(1)
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「カーク」
扉を開けて静かに閉めようとした、その背中に呼び掛けられた。振り返ると窓際のデスクについて書類を繰る手を止めないまま、シュガットは淡々と続けた。
「今夜来い」
「……わかりました」
一瞬答えが遅れたのを感じ取って、すう、と上げられた瞳がカークを射抜いてくる。
「身体が辛いか」
嘲笑うようにレグルのことを揶揄された。
「薬漬けだそうだな」
「……お答えしかねます」
「いつだ?」
「……一昨日です」
「まだ跡が残っているだろう」
「……」
「見てやろう、浅ましい姿をな」
低く嗤ってすぐに笑みを消した。
「多少寝てこい」
扉を閉めようとした矢先にまた言われた。背中に走った痺れに目を閉じる。
「眠れると思うな」
「承知しました」
静かに応じて扉を閉めた。
薬で無理矢理犯し続けるレグルと、シュガットのやり方は180度違う。快楽は快楽だが、カークはそれを極められたことは一度もない。
『……あなたが……いい…』
自分の声を耳に蘇らせて、カークは暗く嗤う。
確かにそういう意味ではレグルの方がまだましかもしれない。
言われた通りに仮眠を取り、シュガットの居室に向かう。同じような地位にあるレグルはカークの執務室で弄ぶのを望むのが、シュガットは自分の部屋に招き入れるのを好むあたりも対照的だ。
「入れ」
「失礼します」
部屋に入ると微かな香の匂いがした。
レグルは直接薬を呑ませてくるが、シュガットはこうして五感を研ぎすまさせて責め立てる。
「……」
奥の寝室のベッドの上には見慣れたベルトが投げ出されていた。黒い革で幾つも留め具がついている。
それを横目に、ベッド近くの椅子に座ったシュガットの目の前で、カークは上着を脱ぎ、ネクタイを抜き、シャツを脱いだ。スラックスを落とし下着を引き降ろす。靴下も脱ぎ捨てる。もちろん股間のものはまだ全く反応していない。
じろじろと無遠慮な視線で眺めたシュガットが顎をしゃくった。くるりと回って背中を向け、カークはゆっくり身体を前に倒す。ベッドに両手をついて俯けば、シュガットの目に脆いところが晒される。
「……すいぶん可愛がられたようだな」
「………」
「そこら中に噛み跡か? ……下衆が」
吐き捨てたシュガットが立ち上がり、ベッドの上の革ベルトを手にした。横目で見るカークに薄笑いを浮かべながら、それをゆっくりと首に巻きつけ、腕を通し、背中で締める。
「…っ」
ぎり、と締めつけられてカークは微かに仰け反った。いつもよりきつい。
「…う」
「本当に一昨日か?」
なおも仰け反るように締め上げられて呻いた。その微かに上向いた顔を覗き込んでシュガットが問うてくる。
「はい」
「にしては跡が濃いな」
「執拗でしたから」
「他のやつが重ねたということは」
「は…」
喉を掴み上げられて乱れた髪にカークは笑った。
「確かめてごらんなさい」
「む」
ぎらりとシュガットの目の奥で光った色にほくそえむ。
シュガットは大人しい男には興味がない。抵抗し反抗し同意しない男を力づくで屈服させる、それはシュガットの中の根強い不安に由来している。
だからこそオウライカが怖くて、オウライカをずっと狙っていた。この真っ黒なベルトだって、オウライカのために設えていたのを知っている。
あの揺らがない瞳をいつか懇願させてやる。この身体を好きなように扱ってくれ、と跪かせ啼かせてやる。
そう嗤った声を聞いた途端に目が眩むほどの怒りが襲った。
そんなことはさせない。何があってもオウライカにそんな卑劣な手など触れさせない。
どうせ掌中に握る存在だ。
カークはさっさとシュガットを訪ねて自分で誘いをかけた。
『最近眠れないんです、不安で』
『ほう、お前に不安などあるのか』
『あなたが私よりオウライカさんを大切にされているのではと』
微かに媚びを含めて見上げれば、ふん、と鼻で笑われる。
『ことば通りに受け取れるか、カークの息子だろう』
『父とは違います』
ことばを引き受けて悔しそうに唇を噛んで見せる。
『ダグラス・ハイトの支配下に屈した男です』
『……私に従いたいのか』
ハイト、の名前を出したとたん、シュガットは欲望も露にカークをねめつけた。
『あなた次第です』
『何』
『あなたに私が御せますか』
薄笑いを浮かべてやると、後は簡単だった。
『脱げ』
無言で衣服を脱いだカークの身体にはレグルの蹂躙の跡が残っている。それを丹念に指で触れて確認していきながら、シュガットは熱い息を吐いたカークににやりと笑った。
『これで感じるのか』
『……』
『ずいぶん仕込まれたもんだな……よかろう』
オウライカのためにと用意されたベルトをシュガットが取り上げて首に絡めてくるのに、カークは満足して目を閉じた。
『快楽が何か教えてやる』
扉を開けて静かに閉めようとした、その背中に呼び掛けられた。振り返ると窓際のデスクについて書類を繰る手を止めないまま、シュガットは淡々と続けた。
「今夜来い」
「……わかりました」
一瞬答えが遅れたのを感じ取って、すう、と上げられた瞳がカークを射抜いてくる。
「身体が辛いか」
嘲笑うようにレグルのことを揶揄された。
「薬漬けだそうだな」
「……お答えしかねます」
「いつだ?」
「……一昨日です」
「まだ跡が残っているだろう」
「……」
「見てやろう、浅ましい姿をな」
低く嗤ってすぐに笑みを消した。
「多少寝てこい」
扉を閉めようとした矢先にまた言われた。背中に走った痺れに目を閉じる。
「眠れると思うな」
「承知しました」
静かに応じて扉を閉めた。
薬で無理矢理犯し続けるレグルと、シュガットのやり方は180度違う。快楽は快楽だが、カークはそれを極められたことは一度もない。
『……あなたが……いい…』
自分の声を耳に蘇らせて、カークは暗く嗤う。
確かにそういう意味ではレグルの方がまだましかもしれない。
言われた通りに仮眠を取り、シュガットの居室に向かう。同じような地位にあるレグルはカークの執務室で弄ぶのを望むのが、シュガットは自分の部屋に招き入れるのを好むあたりも対照的だ。
「入れ」
「失礼します」
部屋に入ると微かな香の匂いがした。
レグルは直接薬を呑ませてくるが、シュガットはこうして五感を研ぎすまさせて責め立てる。
「……」
奥の寝室のベッドの上には見慣れたベルトが投げ出されていた。黒い革で幾つも留め具がついている。
それを横目に、ベッド近くの椅子に座ったシュガットの目の前で、カークは上着を脱ぎ、ネクタイを抜き、シャツを脱いだ。スラックスを落とし下着を引き降ろす。靴下も脱ぎ捨てる。もちろん股間のものはまだ全く反応していない。
じろじろと無遠慮な視線で眺めたシュガットが顎をしゃくった。くるりと回って背中を向け、カークはゆっくり身体を前に倒す。ベッドに両手をついて俯けば、シュガットの目に脆いところが晒される。
「……すいぶん可愛がられたようだな」
「………」
「そこら中に噛み跡か? ……下衆が」
吐き捨てたシュガットが立ち上がり、ベッドの上の革ベルトを手にした。横目で見るカークに薄笑いを浮かべながら、それをゆっくりと首に巻きつけ、腕を通し、背中で締める。
「…っ」
ぎり、と締めつけられてカークは微かに仰け反った。いつもよりきつい。
「…う」
「本当に一昨日か?」
なおも仰け反るように締め上げられて呻いた。その微かに上向いた顔を覗き込んでシュガットが問うてくる。
「はい」
「にしては跡が濃いな」
「執拗でしたから」
「他のやつが重ねたということは」
「は…」
喉を掴み上げられて乱れた髪にカークは笑った。
「確かめてごらんなさい」
「む」
ぎらりとシュガットの目の奥で光った色にほくそえむ。
シュガットは大人しい男には興味がない。抵抗し反抗し同意しない男を力づくで屈服させる、それはシュガットの中の根強い不安に由来している。
だからこそオウライカが怖くて、オウライカをずっと狙っていた。この真っ黒なベルトだって、オウライカのために設えていたのを知っている。
あの揺らがない瞳をいつか懇願させてやる。この身体を好きなように扱ってくれ、と跪かせ啼かせてやる。
そう嗤った声を聞いた途端に目が眩むほどの怒りが襲った。
そんなことはさせない。何があってもオウライカにそんな卑劣な手など触れさせない。
どうせ掌中に握る存在だ。
カークはさっさとシュガットを訪ねて自分で誘いをかけた。
『最近眠れないんです、不安で』
『ほう、お前に不安などあるのか』
『あなたが私よりオウライカさんを大切にされているのではと』
微かに媚びを含めて見上げれば、ふん、と鼻で笑われる。
『ことば通りに受け取れるか、カークの息子だろう』
『父とは違います』
ことばを引き受けて悔しそうに唇を噛んで見せる。
『ダグラス・ハイトの支配下に屈した男です』
『……私に従いたいのか』
ハイト、の名前を出したとたん、シュガットは欲望も露にカークをねめつけた。
『あなた次第です』
『何』
『あなたに私が御せますか』
薄笑いを浮かべてやると、後は簡単だった。
『脱げ』
無言で衣服を脱いだカークの身体にはレグルの蹂躙の跡が残っている。それを丹念に指で触れて確認していきながら、シュガットは熱い息を吐いたカークににやりと笑った。
『これで感じるのか』
『……』
『ずいぶん仕込まれたもんだな……よかろう』
オウライカのためにと用意されたベルトをシュガットが取り上げて首に絡めてくるのに、カークは満足して目を閉じた。
『快楽が何か教えてやる』
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