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17.『掌握』(2)
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「………気がついた?」
「………」
ファローズの部屋、身体の始末をした後寝かせていた横で寝転がっていたライヤーは、ごそりとファローズが身動きしたのに顔を向けた。
「苦しいですか?」
「……信じられ……ねえな……」
「え?」
「そんな……抜けた顔…してんのに……ひでえ抱き方しやがって……」
「抜けた顔はひどいですよ」
へらんと笑ってやると、ファローズはゆっくり瞬きした後、眠くてたまらないと言った顔で目を閉じた。
「………いいや……満足……した」
「そう」
「………なんか……少し眠れそうだ」
「……やっぱり眠れてなかったんですか」
「ああ……」
ファローズの声に相手を覗き込む。ぐたりとした目元には疲労の色が濃い。
「『斎京』が仕掛けてくるから警戒しろって……んなの……どこからどう来るのかわからねえし…」
「そうですよね」
まさかそいつが隣に寝てるとかも想像しませんよね、とライヤーが胸の底で苦笑したとたん、
「……お前だって……わかんねえよな」
低い声で呟かれて口を噤んだ。
「なんだよ……お前『斎京』なのか…?」
「そう見えます?」
「いや……普通に見える」
『斎京』の人間を化け物だと思ってるんだね、この人は、と思いつつにこ、と笑ってみせた。
「よかった」
「……安心してんじゃねえよ……バカヤロー……」
お前みたいなやつが狙われやすいんだから気をつけろよ、と心配するのに、はいはいと頷く。
「けど」
「……ん?」
「なら、ファローズさんはどうして僕を拾ったんですか?」
「……どうしてって…」
今さら何だよ、と眉を顰めてファローズが見上げてきた。
「僕だって十分怪しいでしょう?」
「けどよ、俺が車で轢きそうになったんだから」
ファローズはわけがわからないと言った顔で瞬きする。
「もっと早くルインのやつが止めりゃよかったんだ、それをほっときやがるから」
疲れが溜まってた俺はついうとうとしそうになってだな、路地から出てきたお前を避けきれなくてだな、てっきり轢いたと思ったら、倒れただけだっていうからふざけてるよなあ。
ぶつぶつ言うファローズの肩にライヤーはそっと手を回して引き寄せた。
「感謝してますよ」
「ほんとか……?」
「ええ、感謝してます。いつか御恩を返しますからね」
そうとも感謝している。
ファローズでなければ、こうもやすやすと『塔京』の中に紛れ込むことをよしとさせてくれなかっただろう。ルインなどは一瞬『斎京』のオウライカさんに似てますね、とか言い出してひやりとしたのだが、ファローズが『斎京』のオウライカがこんな間抜け面かよ、と笑い飛ばしてくれたから、事務所の雑用係として入り込めた。
もっともファローズの事務所の雑用係が『斎京』へ物見遊山に出掛けたのは偶然ではないし、賭けで勝ったつもりのその大金は同席していたライヤーがわざと吐き出したものだったけれど、そんなこんなもファローズの人の良さがなければブルームの耳に届いていて、話がややこしくなっただろう。
そうだ、いつか恩を返さなくてはね、とライヤーは寝入り始めたファローズの髪に軽くキスして微笑む。
ファローズの紋章はもうライヤーの掌握するところとなった。彼の命はライヤーの掌の中にある。身体をただ繋げただけではなく、その意識の底に自分の気配を刻印したから、万が一ばれて抵抗されても、紋章を媒体に操れる。
そんなことは思いもしていないだろうが。
「そういうのはできればナシにしておきたいなあ」
だってファローズさんいい人だものね。
もし『塔京』が『斎京』と全面戦争になっても、ファローズを始めとするこの事務所は何とか外してやりたい。
思いながら、ライヤーも浅い眠りについた。
「………」
ファローズの部屋、身体の始末をした後寝かせていた横で寝転がっていたライヤーは、ごそりとファローズが身動きしたのに顔を向けた。
「苦しいですか?」
「……信じられ……ねえな……」
「え?」
「そんな……抜けた顔…してんのに……ひでえ抱き方しやがって……」
「抜けた顔はひどいですよ」
へらんと笑ってやると、ファローズはゆっくり瞬きした後、眠くてたまらないと言った顔で目を閉じた。
「………いいや……満足……した」
「そう」
「………なんか……少し眠れそうだ」
「……やっぱり眠れてなかったんですか」
「ああ……」
ファローズの声に相手を覗き込む。ぐたりとした目元には疲労の色が濃い。
「『斎京』が仕掛けてくるから警戒しろって……んなの……どこからどう来るのかわからねえし…」
「そうですよね」
まさかそいつが隣に寝てるとかも想像しませんよね、とライヤーが胸の底で苦笑したとたん、
「……お前だって……わかんねえよな」
低い声で呟かれて口を噤んだ。
「なんだよ……お前『斎京』なのか…?」
「そう見えます?」
「いや……普通に見える」
『斎京』の人間を化け物だと思ってるんだね、この人は、と思いつつにこ、と笑ってみせた。
「よかった」
「……安心してんじゃねえよ……バカヤロー……」
お前みたいなやつが狙われやすいんだから気をつけろよ、と心配するのに、はいはいと頷く。
「けど」
「……ん?」
「なら、ファローズさんはどうして僕を拾ったんですか?」
「……どうしてって…」
今さら何だよ、と眉を顰めてファローズが見上げてきた。
「僕だって十分怪しいでしょう?」
「けどよ、俺が車で轢きそうになったんだから」
ファローズはわけがわからないと言った顔で瞬きする。
「もっと早くルインのやつが止めりゃよかったんだ、それをほっときやがるから」
疲れが溜まってた俺はついうとうとしそうになってだな、路地から出てきたお前を避けきれなくてだな、てっきり轢いたと思ったら、倒れただけだっていうからふざけてるよなあ。
ぶつぶつ言うファローズの肩にライヤーはそっと手を回して引き寄せた。
「感謝してますよ」
「ほんとか……?」
「ええ、感謝してます。いつか御恩を返しますからね」
そうとも感謝している。
ファローズでなければ、こうもやすやすと『塔京』の中に紛れ込むことをよしとさせてくれなかっただろう。ルインなどは一瞬『斎京』のオウライカさんに似てますね、とか言い出してひやりとしたのだが、ファローズが『斎京』のオウライカがこんな間抜け面かよ、と笑い飛ばしてくれたから、事務所の雑用係として入り込めた。
もっともファローズの事務所の雑用係が『斎京』へ物見遊山に出掛けたのは偶然ではないし、賭けで勝ったつもりのその大金は同席していたライヤーがわざと吐き出したものだったけれど、そんなこんなもファローズの人の良さがなければブルームの耳に届いていて、話がややこしくなっただろう。
そうだ、いつか恩を返さなくてはね、とライヤーは寝入り始めたファローズの髪に軽くキスして微笑む。
ファローズの紋章はもうライヤーの掌握するところとなった。彼の命はライヤーの掌の中にある。身体をただ繋げただけではなく、その意識の底に自分の気配を刻印したから、万が一ばれて抵抗されても、紋章を媒体に操れる。
そんなことは思いもしていないだろうが。
「そういうのはできればナシにしておきたいなあ」
だってファローズさんいい人だものね。
もし『塔京』が『斎京』と全面戦争になっても、ファローズを始めとするこの事務所は何とか外してやりたい。
思いながら、ライヤーも浅い眠りについた。
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