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26.『挑発』(2)
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「ライヤーです」
「ライヤー?」
「『斎京』の刺客ですけど」
「げっ」
隣でファローズが蛙が踏み潰されたような声を上げた。きょとんとしたエバンスがライヤーとファローズを見比べ、次の瞬間吹き出す。
「くくっ……検索終了、該当者なし。冗談のセンスは認めるよ」
エバンスが軽く肩を竦めて、ファローズが僅かに顔色をなくす。うろたえた顔でライヤーを振り向くのに、ライヤーはにこりと笑ってエバンスを見上げた。
「やっぱりそう?」
「自分の顔確認してきた方がいいよ、その抜けた顔で刺客はないだろ」
「エバンスさん、歳幾つ?」
「はぁ?」
「雰囲気若いよねえ」
「どういう意味」
「僕より年下かな」
「はぁ?」
「エバンスくんって呼んでもいい?」
「……」
「僕のことはライヤーさんでいいよ?」
「……ファローズさん」
エバンスが目を据えてライヤーを見た。
「何なの、こいつ」
「だから、『斎京』の刺客だって」
くす、とライヤーは笑った。
「それにファローズさんはもう僕に逆らえないんだ、答えられないこと、聞かないでやって?」
「はぁ?」
「あ、何ならエバンスくんにも力貸してあげていいよ?」
「……付き合ってられない」
きりきりした表情でエバンスは背中を向けた。
「おい」
「はい」
「怒らせたぞ?」
不安そうにファローズが突いてくる。
「これじゃ紹介も何も」
「怒らせたんですよ」
「は?」
「ファローズさんにはファローズさん用の、エバンスくんにはエバンスくん用のアプローチ」
ファローズが複雑な顔になる。
「見てて下さい。数秒で振り返ってくるから」
「へ?」
「3、2、1」
ライヤーのカウント終了とほぼ同時にエバンスが振り返った。
「……ファローズ」
「ねえ、エバンスくん!」
言いかけたエバンスのことばを遮って呼び掛ける。
「僕は役に立つと思うんだ、たとえばネフェルさんとのこととかに!」
「っ!」
びく、と明らかに体を震わせてエバンスが目を見開いた。
「ネフェル? なんだ、そりゃ?」
ファローズが不審そうに呟くと、はっとしたようにエバンスは我に返った。ライヤーを凝視して、固い表情で唇を動かす。
「……」
馬鹿にするな。
冷たい目で睨み付けて、くるっと背中を向けて急ぎ足に階段を上っていく。
「行っちまうぞ?」
「ですね。今日は諦めて帰ります」
「何……考えてんだよ」
「………『時計』」
「え?」
「エバンスくんは『時計』だな、と」
またくすくす、と笑って、胸の中でイメージを確かめる。
「『時計』?」
「精密できちんと動いている優秀な『時計』……でも」
「……でも……なんだ?」
「いいえ、じゃあ、帰ってますね」
首を捻るファローズを残して、ライヤーは元来た道を帰りながら微笑む。
そうだ、エバンスは思っていたよりうんと綺麗で性能の高い『時計』だ。
「だから……狂わせるのも簡単だけどね」
ライヤーは胸の中できらきら光る金色の懐中時計を撫でてみた。
「ライヤー?」
「『斎京』の刺客ですけど」
「げっ」
隣でファローズが蛙が踏み潰されたような声を上げた。きょとんとしたエバンスがライヤーとファローズを見比べ、次の瞬間吹き出す。
「くくっ……検索終了、該当者なし。冗談のセンスは認めるよ」
エバンスが軽く肩を竦めて、ファローズが僅かに顔色をなくす。うろたえた顔でライヤーを振り向くのに、ライヤーはにこりと笑ってエバンスを見上げた。
「やっぱりそう?」
「自分の顔確認してきた方がいいよ、その抜けた顔で刺客はないだろ」
「エバンスさん、歳幾つ?」
「はぁ?」
「雰囲気若いよねえ」
「どういう意味」
「僕より年下かな」
「はぁ?」
「エバンスくんって呼んでもいい?」
「……」
「僕のことはライヤーさんでいいよ?」
「……ファローズさん」
エバンスが目を据えてライヤーを見た。
「何なの、こいつ」
「だから、『斎京』の刺客だって」
くす、とライヤーは笑った。
「それにファローズさんはもう僕に逆らえないんだ、答えられないこと、聞かないでやって?」
「はぁ?」
「あ、何ならエバンスくんにも力貸してあげていいよ?」
「……付き合ってられない」
きりきりした表情でエバンスは背中を向けた。
「おい」
「はい」
「怒らせたぞ?」
不安そうにファローズが突いてくる。
「これじゃ紹介も何も」
「怒らせたんですよ」
「は?」
「ファローズさんにはファローズさん用の、エバンスくんにはエバンスくん用のアプローチ」
ファローズが複雑な顔になる。
「見てて下さい。数秒で振り返ってくるから」
「へ?」
「3、2、1」
ライヤーのカウント終了とほぼ同時にエバンスが振り返った。
「……ファローズ」
「ねえ、エバンスくん!」
言いかけたエバンスのことばを遮って呼び掛ける。
「僕は役に立つと思うんだ、たとえばネフェルさんとのこととかに!」
「っ!」
びく、と明らかに体を震わせてエバンスが目を見開いた。
「ネフェル? なんだ、そりゃ?」
ファローズが不審そうに呟くと、はっとしたようにエバンスは我に返った。ライヤーを凝視して、固い表情で唇を動かす。
「……」
馬鹿にするな。
冷たい目で睨み付けて、くるっと背中を向けて急ぎ足に階段を上っていく。
「行っちまうぞ?」
「ですね。今日は諦めて帰ります」
「何……考えてんだよ」
「………『時計』」
「え?」
「エバンスくんは『時計』だな、と」
またくすくす、と笑って、胸の中でイメージを確かめる。
「『時計』?」
「精密できちんと動いている優秀な『時計』……でも」
「……でも……なんだ?」
「いいえ、じゃあ、帰ってますね」
首を捻るファローズを残して、ライヤーは元来た道を帰りながら微笑む。
そうだ、エバンスは思っていたよりうんと綺麗で性能の高い『時計』だ。
「だから……狂わせるのも簡単だけどね」
ライヤーは胸の中できらきら光る金色の懐中時計を撫でてみた。
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