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56.『竜を起こすなかれ』(1)
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ひんやりと冷えたカザルの額はいつかのライヤーを思わせる。
人の絶望がこれほど深いのかと思わせるほど、『夢喰い』に持っていかれた体は一瞬ごとに生気を失っていく。
オウライカは静かに集中する。
ファンロンの開発したこの方法が、命を賭けるようなものと言われるのは、こうやって直接人の心の紋章目指して降りていくことが、いわば肉体を遠く離れることであると同時に、自分の紋章を無防備に晒してしまうということからだ。
どんなに親しい相手でも紋章に直接触れられるのは脅威だ。よほど気をつけて心を開いていても無意識の防御が働いて、入り込んできた存在を排除しようとする。
入る場所がただの『人間』ならばまだいい。
カザルはその心の底に『龍』を抱えている。
もう覚えているものはレシンぐらいになってきているだろうか。
昔各都市には、その地底に潜む『竜』を制御できる一族が居た。
見た目は普通の人間と変わらない。体が特別変わっているわけでもない。日常生活に特殊な能力を発揮するわけでもない。『斎京』では、その一族が紋章として『龍』を抱えていることが確認されているが、紋章を認識する文化のない他都市では血族という生理的要因で把握されている程度だ。
唯一の特徴をあえてあげれば、やたらと人に求められ望まれ愛される、ということか。
カリスマ性というには余りにも執着心を刺激するその気配は、種類こそ様々だが、周囲の人間を巻き込み侍らせ従える部分が共通している。しかも、大抵は本人に自覚がなく、むしろ望まれることによる束縛を嫌うことが多くて、それゆえに都市間抗争に発展したことも多い。
ただ、その存在は『竜』にも愛される。
だからこそ人々は憧れ望み欲しながらも、その一族の背後に控える巨大な破壊力の前に沈黙した。『人間』は誰も得ることができない、ただ『竜』だけが囲い込める宝玉なのだ、それならよかろう、と。
だが、時にその一族も、まるで運命に定められるかのように強く『人』を欲することがあった。次世代を残すための種の本能なのか、それとも『竜』と一生を共にして孤独に生きるということに、『人間』の心が耐えられなくなるからなのか、それはわからないけれど。
『竜』に愛され『竜』を制御する彼らは、各都市の未来にかけがえのない至上の存在だ。その一族はそれほど『人』に望まれながら、自らが『人』を欲することはほとんどない。
けれど、一旦望まれれば、彼らは我が身と同等にその『人』を守ろうとする。そして、自分が死ぬときには次世代を『竜』に引き継ぐと同時に、欲した『人』を他の誰にも渡してはならない、と『竜』に命じる。
つまり、『人』から言えば、一族を得ることは、その背後にある巨大な破壊力とも一生を共にすること、ありていに言ってしまえば、彼らを得たものは代償として自分の命を『竜』に差し出すことになるのだ。
一族はやがて人々の嫉妬と羨望に晒された。
強圧的に一族を確保し、薬や檻や拷問で意志を奪い従わせようとする動きが何十年も続いた。愛するがゆえ、欲するがゆえ、とはいえ、それは何と虚しい結果を導いたことか。
彼らはあっという間に数を減らしていき、ついには各都市には『竜』がふとかつての愛しい存在を思い出して荒れ狂う時、つまりそれが目覚めたとき、ということなのだが、その時に人身御供を差し出す習いだけが残された。
それでも都市は片端から荒れた『竜』に破壊され『竜』とともに壊滅していった。
今この世界にあるのは『斎京』と『塔京』だけだ。
『人間』がこの世界に生き残るためには、できるだけ両都市とも保たせる必要がある。
だが、そのために贄として捧げられる『人間』は、愛した一族を失った『竜』の強い願いを映して、かつての一族に極めて近い存在ばかり選ばれる。
カリスマ性があり、人望と機知に長け、感情豊かで麗しく、なおかつ紋章が極めて清浄であること。
そのような『人間』は少ない。『竜』は飢える一方だ。
人の絶望がこれほど深いのかと思わせるほど、『夢喰い』に持っていかれた体は一瞬ごとに生気を失っていく。
オウライカは静かに集中する。
ファンロンの開発したこの方法が、命を賭けるようなものと言われるのは、こうやって直接人の心の紋章目指して降りていくことが、いわば肉体を遠く離れることであると同時に、自分の紋章を無防備に晒してしまうということからだ。
どんなに親しい相手でも紋章に直接触れられるのは脅威だ。よほど気をつけて心を開いていても無意識の防御が働いて、入り込んできた存在を排除しようとする。
入る場所がただの『人間』ならばまだいい。
カザルはその心の底に『龍』を抱えている。
もう覚えているものはレシンぐらいになってきているだろうか。
昔各都市には、その地底に潜む『竜』を制御できる一族が居た。
見た目は普通の人間と変わらない。体が特別変わっているわけでもない。日常生活に特殊な能力を発揮するわけでもない。『斎京』では、その一族が紋章として『龍』を抱えていることが確認されているが、紋章を認識する文化のない他都市では血族という生理的要因で把握されている程度だ。
唯一の特徴をあえてあげれば、やたらと人に求められ望まれ愛される、ということか。
カリスマ性というには余りにも執着心を刺激するその気配は、種類こそ様々だが、周囲の人間を巻き込み侍らせ従える部分が共通している。しかも、大抵は本人に自覚がなく、むしろ望まれることによる束縛を嫌うことが多くて、それゆえに都市間抗争に発展したことも多い。
ただ、その存在は『竜』にも愛される。
だからこそ人々は憧れ望み欲しながらも、その一族の背後に控える巨大な破壊力の前に沈黙した。『人間』は誰も得ることができない、ただ『竜』だけが囲い込める宝玉なのだ、それならよかろう、と。
だが、時にその一族も、まるで運命に定められるかのように強く『人』を欲することがあった。次世代を残すための種の本能なのか、それとも『竜』と一生を共にして孤独に生きるということに、『人間』の心が耐えられなくなるからなのか、それはわからないけれど。
『竜』に愛され『竜』を制御する彼らは、各都市の未来にかけがえのない至上の存在だ。その一族はそれほど『人』に望まれながら、自らが『人』を欲することはほとんどない。
けれど、一旦望まれれば、彼らは我が身と同等にその『人』を守ろうとする。そして、自分が死ぬときには次世代を『竜』に引き継ぐと同時に、欲した『人』を他の誰にも渡してはならない、と『竜』に命じる。
つまり、『人』から言えば、一族を得ることは、その背後にある巨大な破壊力とも一生を共にすること、ありていに言ってしまえば、彼らを得たものは代償として自分の命を『竜』に差し出すことになるのだ。
一族はやがて人々の嫉妬と羨望に晒された。
強圧的に一族を確保し、薬や檻や拷問で意志を奪い従わせようとする動きが何十年も続いた。愛するがゆえ、欲するがゆえ、とはいえ、それは何と虚しい結果を導いたことか。
彼らはあっという間に数を減らしていき、ついには各都市には『竜』がふとかつての愛しい存在を思い出して荒れ狂う時、つまりそれが目覚めたとき、ということなのだが、その時に人身御供を差し出す習いだけが残された。
それでも都市は片端から荒れた『竜』に破壊され『竜』とともに壊滅していった。
今この世界にあるのは『斎京』と『塔京』だけだ。
『人間』がこの世界に生き残るためには、できるだけ両都市とも保たせる必要がある。
だが、そのために贄として捧げられる『人間』は、愛した一族を失った『竜』の強い願いを映して、かつての一族に極めて近い存在ばかり選ばれる。
カリスマ性があり、人望と機知に長け、感情豊かで麗しく、なおかつ紋章が極めて清浄であること。
そのような『人間』は少ない。『竜』は飢える一方だ。
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