『DRAGON NET』

segakiyui

文字の大きさ
104 / 213

58.『快感を貪るなかれ』

しおりを挟む
 中身がないせいでばたばたと煽られる左袖を右手で引き抱えながら、風を巻いて降下していくオウライカの眼下で、行列は警戒したように歩みを止めた。行列の中央あたりで屈強な男達に支えられて運ばれていた朱塗りの輿が、台を用意されてゆるゆると降ろされる。
 輿の囲っていた薄い垂れ幕を中から引き開けるようにして顔を覗かせたのは、他ならぬカザル、オウライカを認めるとはっとしたように慌てて出てくる姿に思わず舌打ちした。
 なんて格好をしている。
 薄青の半分透けた衣を素肌に一枚、下に何もつけていないのは、輿から降りてきた時に翻った裾から伸びやかな脚が晒されたのでもわかる。腰には艶のある黒帯を締めているが、へたにそこだけきっちり締められているのに、胸元も足下もまるで誰かに乱されたように弛んだ衣が余計にあやうい。驚いたように見張った瞳は薄闇の中でも微かに光を帯びて宝石のように輝いて見えた。
 行列の先頭に立っていた男が脇へ控え、道に降り立ったオウライカに軽く頭を下げる。振り返りもせずに輿に近付こうとしたオウライカを、輿の前を歩いていた女達の一人が進み出て遮った。
「無体なことをされますな」
「どちらがだ」
 オウライカはじろりと大きな一つの眼を見返した。
「私のものに手を出すなと言ったはずだぞ」
「『飢峡』は確かに伺いました、が」
 女はゆっくりと眼を細める。
「我らは聞いておりません。守りの札もなかったものを」
「何?」
 訝しく眉を寄せてカザルを見遣ると、確かにいつもまとめていた髪がほどけて乱れ落ち、簪が抜け落ちている。オウライカの視線にうろたえた顔でカザルが首の後ろに手をやって、僅かに青くなった。
「落としたのか」
「あ…」
 直接カザルに問いかけると、相手は唇を噛んで顔を背ける。滑らかな首筋が柔らかく光を跳ねてオウライカの目を引いた。
「……外すなと言ったのに」
「…っ、だってっ」
 思わず零れた声にぐ、と詰まった顔でカザルが振り向く。
「だって、オウライカさん、何も…っ」
 苛立ちを浮かべて振り返った瞳が苦しそうに揺れた。
「何も……言ってくれなかった……」
 今にも泣き出しそうに潤んだそれに見愡れていると、いきなりそのカザルの腕を側に居た男が背後から羽交い締めにする。
「えっ」
「おい」
「既に竜王はこちらの手の中」
 女がにっこりと笑み綻ぶ。
「しかも、あなたさまはこの方に悦びをお与えではない」
「あ、っ」
 羽交い締めにされた腕を振り解こうともがくカザルがますます強く拘束され、微かに仰け反って胸を張った。弛んだ胸元を、もう一人の男が前からなおぐいとくつろげる。滑らかな肌が晒され、感覚に敏感な実が警戒に固く尖る。その尖った先を、男の武骨な指が爪をたてるようにきつく摘む。
「ぁあっ」
 驚いたカザルが目を見開いて声を上げる。オウライカが険しく眉をしかめたその前で、男の口が摘んだ部分に吸いついていく。
「い…っ」
 ひくり、とカザルが身体を震わせて息を引いた。見張った目がオウライカの視線を捉え、みるみる涙を溜める。
「い、やっ……や、…だっ」
 切なげな声を放ってカザルが身悶えた。男が片方の胸を舐めねぶりながら、もう片方を指先で摘み上げる。いつものカザルならたじろぎもしないで蹴りの一つも食らわせているだろうに、じたばたと半端にもがくだけで男の拘束から逃れらない。そのうちに、上気し始めた身体を波打たせて、カザルが喘ぎながら腰を揺らせた。
「あ…っあ……」
 衣が割れて勃ち上がり始めたものが顔を覗かせる。絡みつく衣の感覚も甘いのだろう、呼吸を乱しながらカザルが涙を零れさせた。
「はっ……ああっ…」
「………薬盃を使ったな」
 オウライカが低く唸るのに、女がくすくすと衣の手で口元を押さえながら笑う。
「使うまでもなく、この方は愛情に飢えておられる」
「ひ…っ」
 男がふいに胸への愛撫を止めた。崩れかけたカザルの脚を掴み、一気に広げて抱え込み、中心に顔を伏せていく。
「ぁあああっっ」
「相手が誰でもこれほど甘く啼かれるほどに」
 男の唾液に濡れた胸を頼りながるように、カザルは男に股間を含まれながら仰け反った。掴まれた足の爪先が反る。きつく絞りあげるような呻きを上げて駆け上がり、そのまますぐに愛撫を重ねられて、震えながら声を上げる。
「あぅ…っ…うっ……」
 びくん、とまた大きく身体を跳ねさせてカザルが達した。荒い呼吸を繰り返しながら、ぼんやりと見返してきた瞳がふいに焦点を結ぶ。
「オウ……っ」
 突然、まるで血が広がっていくような激しい紅がカザルを染めた。顔から胸からみるみる赤くなって、がたがた震えながら首を振る。
「いや…………いや……だ…っ……見ない……で…っ」
「今さら、何を」
 女が嗤ってカザルが震えた。
「今もそうして貪っておいでになるのに。それこそ、我らが竜王の証」
「っひ…ぃっ」
 男がこれみよがしに育ったカザルのものを口から引き出し、舌で嬲るのを見せつけた。弱いところを掠めたのだろう、カザルが啼きながら男の口を追うように腰を突き出す。それを待っていたように、揃えられた男の指がカザルの背後に突き刺さり、カザルが高い声を上げて喉を反らせた。身体が裏切るのを拒んで食いしばった口から呻き声を漏らしながら、それでも自分で男の口と指に腰を押し付けるように脚を絡めていく。
「う、うっ、く、んっ」
 やがて男の口に深く銜え込まれ、束ねた指を十分に呑み込むと、カザルは微かに息を吐いて力を抜いた。拘束されていた腕が背後の男の頭を抱くようにしなる。突き出した胸の実がふっくらと色づき濡れている。引き締まった腹がひくひくと揺れながら、男の指が動くのを待ち望むように柔らかく溶けた。
「あ…っん……」
 掠れた声を漏らし、カザルは腰を揺らし始める。煽られたように腕を抱えていた男が開いた唇に舌を差し込むのを事もなく受け入れて、カザルは指を動かし始めた男に微笑む。
「あなたさまも御存じのはず、竜王は快楽の塊」
 二人の男に身を委ねて喘ぐカザルを凝視するオウライカの耳に、女は静かな声で呟いた。
「磨かねば壊れ、崩れ自らを食い尽すもの。あれほど飢えさせて、あなたさまにこの方を所有するどんな資格がありましょうや」
「は……、ぁあっ……んっ……ん」
 唇を解放されたカザルが喘ぎながら男に縋った。心得たように口で扱く速度を上げていくもう一人に、身体を震わせて眉を潜め、腰を押し付け自分でも揺れていく。
「い……い…っ……っも…っと……も……っ……ああっ」
 男の指がさらに増やされ、蕩けた顔でカザルが目を見開いた。
「は…っ……あぁ」
 カザルが朦朧とした顔でこちらを振り向く。虚ろな焦点のあわない視線で甘えるように笑う、けれど。
 その瞳から唐突に大粒の涙が一つ、快楽に滲んだものとは違う強さで伝い落ちた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...