『DRAGON NET』

segakiyui

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70.『人を失うなかれ』

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 ん、と微かな吐息が額にあたって、カザルはゆっくりと目を開いた。
「ま…ぶ…」
 呟いた声が枯れていてほとんどことばにならない。
 めちゃくちゃ、されちゃったもんなあ。
 ぼんやりと思って微かに笑い、日射しの中、隣で静かに眠るオウライカの顔を見つめた。
 何があったの、オウライカさん。
 口を閉じたまま微笑んで、胸の中で問いかける。左目の眼帯が外れている顔を見るのは久し振りな気がする。
 ずっと俺を放っておいたのに、なんで急にあんなに激しく。
「…んっ…」
 ずくりと疼いたのは腰の奥、オウライカの切っ先で貫かれたところ。
「…った…っ」
 痛くて重くて思わず眉をしかめながら、その底に蕩けるような甘さを感じて切なくなる。
 抱いて、くれた。
 胸の中で呟いて、また微笑む。
 俺を抱いてくれた。
 一番始めの時のように、カザルを嬲って翻弄するような抱き方ではなくて、夢の中のようにカザルを壊そうとするような執拗さでもなくて、けれど逃れる隙も与えられずにひたすら求められ続けて。
 まるでかけがえのないもの、失ってしまえば自分が死ぬような切羽詰まった熱さで。
「なん…で…?」
 尋ねながらそっと擦り寄り、身体の痛みを堪えつつ起き上がった。明るい光を跳ねているオウライカの滑らかな身体を見下ろす。腕に薄い傷跡。カザルがつけたものだろうか。堪え切れずに噛みついた歯形もどこかにあるはず、そう思ってさすがに顔が熱くなる。
 大事な人。
 愛しい人。
 もう触ってさえもらえないと諦めて、諦め切れずに居た人は、カザルを抱き尽して今疲れ切って眠っている。
 その眠りを妨げたくはないけれど、でももう一度横になる前に、夢ではないと確かめたくて、微かに開いている口元へそっと唇を降ろそうとして。
 あれ?
 動きを止めて、カザルはオウライカの内側に集中した。
「左……がわ…」
 何か、妙なもので満ちている。この間までの虚ろで空っぽな状態ではなくて、何かたゆとう紅の波のようなものが、オウライカの左半身に今にも溢れそうに波立って蠢いている。
「なに…」
 見たことのない、鮮やかで華やかで、何より妙に怖いもの。
 まるで、オウライカの半分だけが、人間以外のものを宿しているような。
 これは一体何だろう。
 ぞくりと身を竦めながら手を伸ばした瞬間、
「…あ」
 ふいにオウライカが目を開けて、まっすぐカザルを見つめ返し、左胸に触れようとしていた手を握られた。
「オウラ…さ…」
 見開かれたオウライカの両眼は澄み渡っている。いや、単に澄んでいるだけではなくて、特に左側の眼は真っ黒で奥深くて、覗き込むとそこに落ち込みそうだ。
 人じゃない、みたい。
 そう感じて、それでも必死に微笑みかけようとしたとたん、思いきり引き寄せられてカザルはぎょっとする。咄嗟に殺人機械としての本能で蹴りをいれかけたほど殺気立った気配、すうっと操り人形が起き上がるような重力に縛られない動きでオウライカが背中に回る。
「なに…っ」
 思わず上げた声が掠れて怯えているのに気付き、カザルは唇を噛んだ。竦んだ身体を容赦なく布団にうつぶせに押しつけられて、跳ね起きる前に背中からのしかかられ、ひたりと載った肌の熱さに気を取られている間に首筋に噛みつかれた。
「っあ」
 ぞくんと震えて身体を反らせると、それをいいことに喉を掴まれ、開いた口を塞がれて貪られる。
「っふ、んっんっんっ」
 のたうつ舌に口の中を舐め回された。零れた唾液が顎へ伝う。浮いた胸を指先が虐める。
「っ、あ、あっ」
 何?
 何?
 口を離されたと思ったら、そのまま頭を押さえつけられ、腰を引き上げられて、戸惑うまもなく背後に指を差し込まれて凍りつく。
 まだやんの?
「っ、い…っ」
 やめて、オウライカさん、俺今もうそんなこと。
「っあ……っっあああっ」
 振り向いて懇願しようとした矢先、脚を開かれ一気に奥まで突き込まれた。乱暴ではない、けれど手加減一つもない切っ先が夕べ散々嬲られた場所を一つ一つ辿るように入ってきて、カザルはがたがた震えた。
「オ…っオウ……ライっ……」
 喘ぎながら名前を呼ぶと、入ってきたものの質量が数倍になったような気がして、悲鳴を上げる。身体を支えていた腕が堪え切れずに折れて、より深く入られて啼いた。
「っい、あ、あああああっ」
 揺さぶられる。突き上げられる。その度ごとに奥に炎のような熱を注がれて、ただひたすらに声を上げてオウライカの動きを耐える。
「はっ、はっ、は、あああっ」
 顔を歪めて身もがいた。肩を押さえつけている手の力は緩まない。強姦されているような錯覚に襲われて、物理的な刺激で勃っていたものが萎えてくる。けれどすぐにそれをまた煽り立ててくる強烈な衝撃。
「オ、ウ、……さ…っ」
 駆け上がる速度は夕べの比ではなかった。身体を痙攣させながら弾けて崩れ、そこをなおも責められてカザルは狂ったように叫び続けた。
 奔流。
 身体を貫く真紅の槍に砕かれる。
「…っ、あ、あ…っああ…ー…っ」
「…っっ」
 ぐ、と重く息を詰めたオウライカが中いっぱいに満たしてきて、カザルは震えた。一倉に抱かれるような強制感はない、なのに、身体中の知覚がそれを感じることしか許されない。
 暴かれて、注がれる、オウライカしか存在しなくなる。
 ああ、こういうのを、犯される、って言うんだ。
 ぼんやり思いながら布団に寝そべると、ようやく抜き去られて、背中から重みが消えた。同時に、
「………カ……ザル…?」
「は…い」
 身動きできなくて視線だけを上げると、オウライカが驚いた顔で覗き込んできている。
「私が……抱いたのか…?」
「何…言ってんの……今さら……っ」
 苦笑しかけて突然溢れだした涙に自分も戸惑ったが、オウライカは一気に青ざめた。それを見ると、ほっとした、疲れた、怖かった、なんだか不安、そんなこんな一切合切が押し寄せてきた。
「オウ…ライカ…さん……っ」
「す、すまない、大丈夫か、酷くしたのか、辛いのか」
「ば…かっ…」
「そんな無茶をしたのか」
「……ば…かぁ…っ」
 泣き出したカザルを抱き寄せてよしよしと撫でてくれる手に思う存分甘えて、カザルは生涯初めての大声で泣きながら強くしがみついた。
 
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