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78.『竜夢』(3)
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「っ!」
見開いた目に真っ白な巨大な空間が映った。
(ここは…どこだ)
落ちている。
凄まじい速さで落ち続けている。
なのに、周囲に見える空間の位相がほとんど変わらない。
(ハイトは……父はどこへ…)
何よりも、カークはあの魔窟でくびられて事切れたのではなかったのか。
それともこれが「死」なのだろうか。刻々と生命反応を失っていくことを内側から見ると、こんなに静かで穏やかで明るいものなのだろうか。
「ああ…」
思わず溜め息が漏れたのは、真下にようやく待ちかねていたものが見えたからだ。
真っ白い光に溢れ輝く真珠色の空間の、漏斗状になっている足元に、薄くクリームがかった体がゆっくりと蠢いている。
それもそのはず、よく目を凝らせば、その体は無数の白骨から成っていた。ぐるり、ぐるりと緩やかに回り続ける骨の波が、巨大な長々しい体を作り、その先が緩やかに伸び上がってカークを迎えるように近づいている。きらきらと輝く二つの瞳は血膿をたたえて濡れていた。静かに開かれるあぎとは、ぶつかることなく蠢き続ける骨のせいで閉塞した空間には繋がらず、その下に続く骨の体を透かしている。
「間違ったんだ…」
ふいに気づいた。
「ハイト……あなたは…間違った…」
白竜は餓えている。
父を喰らっても、これほどまで体を失うほどに餓えている。
簡単なことだ、父は白竜の贄には相応しくなかったのだ。
「、待て…っ」
思わず両手を差し伸べた。伸び上がってきた白竜の顔を形作っていた骨が、見る見る砂になって崩れ落ちていく。
「待て……待ってくれ…っ!」
これほど速く落ちているのに、未だ竜の髭先にさえ達せない。
このままでは白竜は自分の体を失って一面の砂になってしまうだろう。
「……ああ……そう、か」
ふいにカークは笑った。
「そういうことか」
脳裏に過ったのは金色の砂漠、立ちすくむライヤーとその砂漠に降る自分。
「ならば、私は知っている」
砂と化していく骨の白竜を、一体どうやって甦らせるのか。
歯を剥いて自分の手首に噛みついた。肉を裂き骨まで届けと噛みしめると、じわりと口の中に温かな液体が溢れる。啜らず口を離し、そのまま既に砂山となりつつある白竜に、惨めに転がり落ちていく二つの紅の水晶に、血が滴る手首を差し伸べ命じる。
「…来い、ライヤー」
何をぐずぐずしてる。
次の瞬間、いきなり地上から吹き上げて来た嵐のような砂粒に叩かれて、カークは血を撒き散らしながら跳ね飛んだ。
薄れる視界に真っ黒な、鋼鉄を思わせる竜が現れる。
(カークさん!)
「…遅いぞ」
響いた声にカークは微笑んだ。
見開いた目に真っ白な巨大な空間が映った。
(ここは…どこだ)
落ちている。
凄まじい速さで落ち続けている。
なのに、周囲に見える空間の位相がほとんど変わらない。
(ハイトは……父はどこへ…)
何よりも、カークはあの魔窟でくびられて事切れたのではなかったのか。
それともこれが「死」なのだろうか。刻々と生命反応を失っていくことを内側から見ると、こんなに静かで穏やかで明るいものなのだろうか。
「ああ…」
思わず溜め息が漏れたのは、真下にようやく待ちかねていたものが見えたからだ。
真っ白い光に溢れ輝く真珠色の空間の、漏斗状になっている足元に、薄くクリームがかった体がゆっくりと蠢いている。
それもそのはず、よく目を凝らせば、その体は無数の白骨から成っていた。ぐるり、ぐるりと緩やかに回り続ける骨の波が、巨大な長々しい体を作り、その先が緩やかに伸び上がってカークを迎えるように近づいている。きらきらと輝く二つの瞳は血膿をたたえて濡れていた。静かに開かれるあぎとは、ぶつかることなく蠢き続ける骨のせいで閉塞した空間には繋がらず、その下に続く骨の体を透かしている。
「間違ったんだ…」
ふいに気づいた。
「ハイト……あなたは…間違った…」
白竜は餓えている。
父を喰らっても、これほどまで体を失うほどに餓えている。
簡単なことだ、父は白竜の贄には相応しくなかったのだ。
「、待て…っ」
思わず両手を差し伸べた。伸び上がってきた白竜の顔を形作っていた骨が、見る見る砂になって崩れ落ちていく。
「待て……待ってくれ…っ!」
これほど速く落ちているのに、未だ竜の髭先にさえ達せない。
このままでは白竜は自分の体を失って一面の砂になってしまうだろう。
「……ああ……そう、か」
ふいにカークは笑った。
「そういうことか」
脳裏に過ったのは金色の砂漠、立ちすくむライヤーとその砂漠に降る自分。
「ならば、私は知っている」
砂と化していく骨の白竜を、一体どうやって甦らせるのか。
歯を剥いて自分の手首に噛みついた。肉を裂き骨まで届けと噛みしめると、じわりと口の中に温かな液体が溢れる。啜らず口を離し、そのまま既に砂山となりつつある白竜に、惨めに転がり落ちていく二つの紅の水晶に、血が滴る手首を差し伸べ命じる。
「…来い、ライヤー」
何をぐずぐずしてる。
次の瞬間、いきなり地上から吹き上げて来た嵐のような砂粒に叩かれて、カークは血を撒き散らしながら跳ね飛んだ。
薄れる視界に真っ黒な、鋼鉄を思わせる竜が現れる。
(カークさん!)
「…遅いぞ」
響いた声にカークは微笑んだ。
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