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84.『奪還』(2)
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ダグラス・ハイトの部屋の前に立った時、聞き覚えのある電子音が聞こえた。
チュンチュンチュン、バキュンバキュバキュッ。
「ふぅん?」
意外な人物が伏兵として待っている。
殺気立っていたライヤーは少し眉を上げ、緊張を解く。甘く見たのではない、響いていたゲーム音があまりにも楽しげで寛ぎに満ちていたので、興味を持ったのだ。
傍目にはそっけないシンプルな木製の扉,その実、内側に高度なセキュリティシステムが組み込まれ、扉を開けて入った人間は指先の僅かな接触から気づかないうちに読み取られる生体情報で、次からの入室をあからさまにコントロールされる。
いつも隙なく閉まっていた扉は、今僅かに開いており、その部屋の中からゲーム音が続いている。扉を開けて滑り込み、予想を越えて意外な光景に立ち止まった。
チュンチュンッ、バキュッ、バキュッ、ギャアアアアッッ。
「あーあ、死んじゃった、ルー・レン」
「もう少しだったようですが」
「うん、もう少しだったよ、ねっ、ライヤーさん?」
悲鳴を上げるゲーム機を両手にもったまま、ソファに不敵な顔で座っているルー・レンの膝に向かい合わせに跨がるように座っていたネフェルが、肩越しに振り返る。きゅるん、と瞳を回してみせる、その無邪気さとは裏腹に、スボン吊りで吊った半ズボンの下半身はきわどくはだけられ、はみ出した半勃ちのものは既に濡れそぼっている。よく見ればルー・レンの一物に擦り合わせながら腰を揺すっている。いつからなのか、いつまでやる気なのか、動きを止めるつもりもなく、ネフェルは染まった頬にとろりとした微笑を浮かべてみせた。
「ね、どう?どう?この状況!あり得ない?あり得ないとか思ってるんでしょ」
くつくつ笑っているネフェルは常軌を逸しているように見えるが、もともと異常なテンションの男だから、それほど違和感もない。
「いえまあ、その」
ライヤーは微妙に困りながら苦笑しつつ二人の側に近寄った。
「よく躾けられたものですね」
「躾けてなどいませんよ」
ルー・レンは相変わらず不機嫌そうな表情を無精髭の散らばった顔に広げながら、それでもネフェルが膝の上から転げ落ちないように手を添えつつ、ライヤーをじろりと見上げる。
「あれから」
「ええ」
「あれから、ときどきこんな風に全てを放り出してしまうだけです」
あ、あ、あ、あと小さな声を上げつつ、ゲームを掲げた両手の指を忙しく動かすネフェルは、口元から涎を溢れさせている。快感に潤んだ虚ろな視線はゲーム画面を追ってはいるが、時にじれったい部分に来ると唸りながらゲーム機を強く掴んで抱え込む。必然、どれほど重要な場面に来ても、ネフェルのアバターは悲鳴を上げて画面の中で屠られる。
ぎゃああっっ。「あああああっ」
ぼぅん、と鈍い音を響かせ、次のステージが終ったらしい。同時にネフェルが声を放って仰け反り、ルー・レンは低く呻いて体を浮かせ、背後に倒れていくネフェルを必死に抱き寄せた。
「それどころか」
意識を飛ばしながらルー・レンに抱え込まれているネフェルを見遣って、ルーは唸る。
「今では私も呑み込まれてしまいそうだ……一体何があったんです?」
「…犯さないのは矜持ですか」
「質問に答えてくれませんか」
「今なら、あなたの望み通り、何でもするでしょうね、この人形は」
くすりと笑ったライヤーが指先を伸ばして首筋を辿れば、ひやああ、と体を震わせてネフェルがもう一回吐き尽くす。それを上着をはだけたシャツで受け、ルー・レンは暗い殺気を満たした瞳で睨み上げた。
「あんたにはどう見えるかわかりませんが、これでも私にとっては無二の上司でね」
低くことばを吐いた口がひんやりとした笑みに歪む。
「正気を取り戻した後、懐かれちまったら楽しみが一つ減るんです。渋って我が儘ばっかり言うこの人を、どうやってうんと言わせるか、楽しいことばっかりしかしたがらないこの人を、好みじゃない仕事にどう向かわせるか」
それが秘書の醍醐味でしてね。
ネフェルを深く抱き込んだルー・レンが、ぺろりとネフェルの乱れた髪が張り付く首を舐める。
「あ、は…っ」
甘く吐いて再び腰を動かし始めるネフェルの紋章を探ってみれば、どろどろと薄ピンクに濁った液体の中央に四肢を沈めてギィギィと唸るロボットがあった。手足の塗装が剥げ、そればかりではない、中身も一部解けかけているようだ。
「ああ、そうなんですか」
「……」
ライヤーの声にルー・レンは険しい顔で視線を逸らせる。
「この人はもう」「この人はどうだって」
ぶすりと唸る。
「あんたに関係ない」
こんなところで油を売ってないで、さっさと殺るべき相手を殺ってきたらどうです、最終兵器の名に羞じず。
「…」
ライヤーは薄く笑い返して、ルー・レンが顎で示した部屋へと進む。
チュンチュンチュン、バキュンバキュバキュッ。
「ふぅん?」
意外な人物が伏兵として待っている。
殺気立っていたライヤーは少し眉を上げ、緊張を解く。甘く見たのではない、響いていたゲーム音があまりにも楽しげで寛ぎに満ちていたので、興味を持ったのだ。
傍目にはそっけないシンプルな木製の扉,その実、内側に高度なセキュリティシステムが組み込まれ、扉を開けて入った人間は指先の僅かな接触から気づかないうちに読み取られる生体情報で、次からの入室をあからさまにコントロールされる。
いつも隙なく閉まっていた扉は、今僅かに開いており、その部屋の中からゲーム音が続いている。扉を開けて滑り込み、予想を越えて意外な光景に立ち止まった。
チュンチュンッ、バキュッ、バキュッ、ギャアアアアッッ。
「あーあ、死んじゃった、ルー・レン」
「もう少しだったようですが」
「うん、もう少しだったよ、ねっ、ライヤーさん?」
悲鳴を上げるゲーム機を両手にもったまま、ソファに不敵な顔で座っているルー・レンの膝に向かい合わせに跨がるように座っていたネフェルが、肩越しに振り返る。きゅるん、と瞳を回してみせる、その無邪気さとは裏腹に、スボン吊りで吊った半ズボンの下半身はきわどくはだけられ、はみ出した半勃ちのものは既に濡れそぼっている。よく見ればルー・レンの一物に擦り合わせながら腰を揺すっている。いつからなのか、いつまでやる気なのか、動きを止めるつもりもなく、ネフェルは染まった頬にとろりとした微笑を浮かべてみせた。
「ね、どう?どう?この状況!あり得ない?あり得ないとか思ってるんでしょ」
くつくつ笑っているネフェルは常軌を逸しているように見えるが、もともと異常なテンションの男だから、それほど違和感もない。
「いえまあ、その」
ライヤーは微妙に困りながら苦笑しつつ二人の側に近寄った。
「よく躾けられたものですね」
「躾けてなどいませんよ」
ルー・レンは相変わらず不機嫌そうな表情を無精髭の散らばった顔に広げながら、それでもネフェルが膝の上から転げ落ちないように手を添えつつ、ライヤーをじろりと見上げる。
「あれから」
「ええ」
「あれから、ときどきこんな風に全てを放り出してしまうだけです」
あ、あ、あ、あと小さな声を上げつつ、ゲームを掲げた両手の指を忙しく動かすネフェルは、口元から涎を溢れさせている。快感に潤んだ虚ろな視線はゲーム画面を追ってはいるが、時にじれったい部分に来ると唸りながらゲーム機を強く掴んで抱え込む。必然、どれほど重要な場面に来ても、ネフェルのアバターは悲鳴を上げて画面の中で屠られる。
ぎゃああっっ。「あああああっ」
ぼぅん、と鈍い音を響かせ、次のステージが終ったらしい。同時にネフェルが声を放って仰け反り、ルー・レンは低く呻いて体を浮かせ、背後に倒れていくネフェルを必死に抱き寄せた。
「それどころか」
意識を飛ばしながらルー・レンに抱え込まれているネフェルを見遣って、ルーは唸る。
「今では私も呑み込まれてしまいそうだ……一体何があったんです?」
「…犯さないのは矜持ですか」
「質問に答えてくれませんか」
「今なら、あなたの望み通り、何でもするでしょうね、この人形は」
くすりと笑ったライヤーが指先を伸ばして首筋を辿れば、ひやああ、と体を震わせてネフェルがもう一回吐き尽くす。それを上着をはだけたシャツで受け、ルー・レンは暗い殺気を満たした瞳で睨み上げた。
「あんたにはどう見えるかわかりませんが、これでも私にとっては無二の上司でね」
低くことばを吐いた口がひんやりとした笑みに歪む。
「正気を取り戻した後、懐かれちまったら楽しみが一つ減るんです。渋って我が儘ばっかり言うこの人を、どうやってうんと言わせるか、楽しいことばっかりしかしたがらないこの人を、好みじゃない仕事にどう向かわせるか」
それが秘書の醍醐味でしてね。
ネフェルを深く抱き込んだルー・レンが、ぺろりとネフェルの乱れた髪が張り付く首を舐める。
「あ、は…っ」
甘く吐いて再び腰を動かし始めるネフェルの紋章を探ってみれば、どろどろと薄ピンクに濁った液体の中央に四肢を沈めてギィギィと唸るロボットがあった。手足の塗装が剥げ、そればかりではない、中身も一部解けかけているようだ。
「ああ、そうなんですか」
「……」
ライヤーの声にルー・レンは険しい顔で視線を逸らせる。
「この人はもう」「この人はどうだって」
ぶすりと唸る。
「あんたに関係ない」
こんなところで油を売ってないで、さっさと殺るべき相手を殺ってきたらどうです、最終兵器の名に羞じず。
「…」
ライヤーは薄く笑い返して、ルー・レンが顎で示した部屋へと進む。
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