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88.『航路に惑うことなかれ』(2)
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車を止めたトラスフィが荷物を纏めて背に担ぐ。
「おら」「ん」
投げられた銃を受け止め動きを確かめる。使い古されているが手入れは行き届いているのがわかる。予備弾倉を体に巻き、同じように後部に積んでいた荷物を背負う。
「竜相手に銃って意味あんの?」
「意味ねえだろうなあ」
くつくつとトラスフィは嗤った。
「けど、そこへ行くまでにもいろいろいるんだとさ、あん中には」
「誰からの情報?」
「ガイルっておっさん」
「誰」
「前はシャイレンの居酒屋で呑んだくれてた。その前は中央庁が『塔京』を制圧する前の抵抗グループに入ってて、中央庁が立ち上がってからもネフェルと張り合って対抗して、見事に叩き潰されたおっさん」
「うん?」
繋がらずにカザルを眉を上げる。
「でもって、その前は、この星がなんでこんなことになってるのかをずっと研究して考えていた学者。つまり」
トラスフィは目を細める。
「五体の竜について、たぶん一番よく知ってるはずのただ一人のおっさん」
「ああ、そう……え?」
カザルは動きを止める。
「五体?」
『塔京』の白竜、『斎京』の赤竜、『伽京』の青竜、『獄京』の黒竜。
「四体じゃなかったの?」
っていうか。
「トラスフィ」
自分の声が殺気を帯びるのがわかった。
「あんた、何でそんなことまで知ってんの?」
サングラスをかけたトラスフィは荷物を確認し、銃を腰に捩じ込み、もう一つ口径の大きな銃を手にする。
「おら、行くぞ!」
背後に次々到着して準備していた仲間に声をかけると、おう、と腹を震わせる太い声が応じる。
「トラスフィ!」
「ああ、今後呼び捨てで構わねえぜ」
先に立って歩き出す相手が肩越しに声を返してくる。
「オウライカのために働く奴らは同等、上も下もねえし」
「待てよ!」
そういうあんたは、ほんとにオウライカさんの味方なの。
銃を片手に唸ると、立ち止まったカザルをのろのろとトラスフィは振り返った。二人の周囲を心得たように仲間がゆっくりと追い越していく。
「味方じゃなけりゃ、どうすんだよ?」
サングラスの端から冷ややかな視線がカザルを上目遣いに見やる。
「今ここで俺を殺るか? 『塔京』の殺人機械が?」
お前だって俺と同じぐらい信用がならねえ、そう詰られた気がしてカザルは口を噤む。ふ、とトラスフィは苦く嗤った。
「言っただろ、何かを知ってりゃ何かやってるつもりになっちまう。謝ってれば償った気持ちになっちまう。どうしようもない男なんだよ、俺は」
いや違うな。
ふう、とトラスフィは息を吐いて肩から力を抜いた。一回りしょぼくれてしまったような体から低く声を絞り出す。
「俺はぶるっちまったんだよ、権力って奴が何をすんのかを目の当たりにして」
歩きながら話してやる、と顎をしゃくる。
「その上でむかつくんなら、俺がオウライカのためにならねえ、まずいことをしでかしちまうと思ったんなら、そいつをぶっ放して葬りゃいい」
歩き出した背中は重荷を載せて今にもきしみ倒れそうなほどに老けている。
「俺とガイルは知り合いだ。ガイルには息子が一人居て、そいつの名前はグッダ・シズン。昔むかあし、俺の友達だったつまんなくて優しい男だよ」
「…その人は」
「死んだ」
歩き出しながら尋ねたカザルに振り返ることもなくトラスフィは吐いた。
「中央庁の天辺から笑いながら降った」
あち、と出てもいない汗を拭い、トラスフィは顔を擦った。
「この世界には竜が居る。『塔京』の白竜、『斎京』の赤竜、『伽京』の青竜、『獄京』の黒竜、けれどもう一体、黄金竜が居るはずだ」
「黄金竜…」
「そうでなけりゃ、世界の成り立ちがおかしい。グッダはそう言っていた」
「…仮説を立てたのはグッダさん?」
「ああ」
そして、それを守ろうとして守り切れなかったのが、ガイルと俺だ。
洞窟入り口で待つ遠征隊に追いつきながら、トラスフィは嘲笑った。
「おら」「ん」
投げられた銃を受け止め動きを確かめる。使い古されているが手入れは行き届いているのがわかる。予備弾倉を体に巻き、同じように後部に積んでいた荷物を背負う。
「竜相手に銃って意味あんの?」
「意味ねえだろうなあ」
くつくつとトラスフィは嗤った。
「けど、そこへ行くまでにもいろいろいるんだとさ、あん中には」
「誰からの情報?」
「ガイルっておっさん」
「誰」
「前はシャイレンの居酒屋で呑んだくれてた。その前は中央庁が『塔京』を制圧する前の抵抗グループに入ってて、中央庁が立ち上がってからもネフェルと張り合って対抗して、見事に叩き潰されたおっさん」
「うん?」
繋がらずにカザルを眉を上げる。
「でもって、その前は、この星がなんでこんなことになってるのかをずっと研究して考えていた学者。つまり」
トラスフィは目を細める。
「五体の竜について、たぶん一番よく知ってるはずのただ一人のおっさん」
「ああ、そう……え?」
カザルは動きを止める。
「五体?」
『塔京』の白竜、『斎京』の赤竜、『伽京』の青竜、『獄京』の黒竜。
「四体じゃなかったの?」
っていうか。
「トラスフィ」
自分の声が殺気を帯びるのがわかった。
「あんた、何でそんなことまで知ってんの?」
サングラスをかけたトラスフィは荷物を確認し、銃を腰に捩じ込み、もう一つ口径の大きな銃を手にする。
「おら、行くぞ!」
背後に次々到着して準備していた仲間に声をかけると、おう、と腹を震わせる太い声が応じる。
「トラスフィ!」
「ああ、今後呼び捨てで構わねえぜ」
先に立って歩き出す相手が肩越しに声を返してくる。
「オウライカのために働く奴らは同等、上も下もねえし」
「待てよ!」
そういうあんたは、ほんとにオウライカさんの味方なの。
銃を片手に唸ると、立ち止まったカザルをのろのろとトラスフィは振り返った。二人の周囲を心得たように仲間がゆっくりと追い越していく。
「味方じゃなけりゃ、どうすんだよ?」
サングラスの端から冷ややかな視線がカザルを上目遣いに見やる。
「今ここで俺を殺るか? 『塔京』の殺人機械が?」
お前だって俺と同じぐらい信用がならねえ、そう詰られた気がしてカザルは口を噤む。ふ、とトラスフィは苦く嗤った。
「言っただろ、何かを知ってりゃ何かやってるつもりになっちまう。謝ってれば償った気持ちになっちまう。どうしようもない男なんだよ、俺は」
いや違うな。
ふう、とトラスフィは息を吐いて肩から力を抜いた。一回りしょぼくれてしまったような体から低く声を絞り出す。
「俺はぶるっちまったんだよ、権力って奴が何をすんのかを目の当たりにして」
歩きながら話してやる、と顎をしゃくる。
「その上でむかつくんなら、俺がオウライカのためにならねえ、まずいことをしでかしちまうと思ったんなら、そいつをぶっ放して葬りゃいい」
歩き出した背中は重荷を載せて今にもきしみ倒れそうなほどに老けている。
「俺とガイルは知り合いだ。ガイルには息子が一人居て、そいつの名前はグッダ・シズン。昔むかあし、俺の友達だったつまんなくて優しい男だよ」
「…その人は」
「死んだ」
歩き出しながら尋ねたカザルに振り返ることもなくトラスフィは吐いた。
「中央庁の天辺から笑いながら降った」
あち、と出てもいない汗を拭い、トラスフィは顔を擦った。
「この世界には竜が居る。『塔京』の白竜、『斎京』の赤竜、『伽京』の青竜、『獄京』の黒竜、けれどもう一体、黄金竜が居るはずだ」
「黄金竜…」
「そうでなけりゃ、世界の成り立ちがおかしい。グッダはそう言っていた」
「…仮説を立てたのはグッダさん?」
「ああ」
そして、それを守ろうとして守り切れなかったのが、ガイルと俺だ。
洞窟入り口で待つ遠征隊に追いつきながら、トラスフィは嘲笑った。
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