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第7章『エッグ』と名乗る男(3)
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サヨコは目を開けた。
「わたしにはまだわからない。じゃあ、モリの死は『宇宙不適応症候群』だったということになるの?」
「そう、なるわね。だから、あえて、ファルプは自殺に見せかけてカナンの介入を待ったんだと思うけど。自殺だとすれば、『CN』が自殺するような状況を作ったスライの管理責任を問う形で、内々に処理することができるしね。連邦警察が入ると、そうはいかなくなる。カナンの地位にも響くでしょう。カナンは、あなたが、モリの死の原因を確定できず、自分のところへ問題を戻してくることを望んでいたのよ」
アイラは自分で納得したようにうなずいた。
(確かに、それで筋は通る、でも…)
サヨコは反論した。
「でも、なぜ、モリは急に『宇宙不適応症候群』を起こしたのかしら。確かに、モリは『GN』だったけど、もし『第二の草』を投与されていたならば、それが途切れないかぎり、『宇宙不適応症候群』は起こさないはずだわ。それに、濃度が低い『第二の草』でコントロールできるぐらいの『宇宙不適応症候群』なら、死亡はしないはずなのに……それこそ、『第二の草』を投与する量を増やせばいいはずでしょ? なのに、なぜ、死ぬまで放っておかれたのかしら?」
アイラが困惑した顔になった。
「『第二の草』がなかったんじゃない? 何かの原因で運ばれなかった、とか」
サヨコは首を振った。
「それなら、『草』が切れるまでにわかったでしょう? その時点で、普通の『GN』ならパニックを起こしてるはずだわ……でも、モリにはそんな様子はなかった」
体の前で両手を組み、体に引き寄せながら、サヨコは呟いた。
「モリがなぜ死んだのかわかれば、もっと何かが見えてくるわ…もっと、すべてがわかってくるように思うの……わたし…それがわかるまで、地球へは降りられない」
アイラから、シゲウラ博士がサヨコの安全と引き換えにテロリストの内密調査に加わっていたと知らされたときの衝撃が蘇る。
きっと、彼は自分を含めた『CN』の在り方にも深い疑問を感じていたのだ。自分はサヨコを苦しめた人間達とは関係がないという立場も取れたはずなのに、自分もまた、世界にはびこる差別と虐待の一端を握っていると気づいていた。だからこそ、サヨコを助け、よりひどい状況を生みかねない『第二の草』の調査に協力を申し出たに違いなかった。
宇宙に旅立ち、人類の進歩と発展に尽くす人間がサヨコの両親なら、地球に留まり、人類の傷みと苦痛に向き合い癒そうとしたシゲウラ博士はサヨコの育ての親とも言える。
宇宙に焦がれる思いと同じぐらい、サヨコの中には人を傷つけるものを理解し解し癒したいという思いが生きている。
それを今、失われるかもしれない自分の命という秤の皿の両方に乗せている。その両方が自分の抱えているものだと感じている。
ならばこそ、自分だけが無事に宇宙から降りられればいいとは思えない。
いつかサヨコと同じように『草』を使って宇宙に上がる『GN』もまた、無事に地球へ戻ってほしいと思う。自分は二度と宇宙に上がれないかもしれないが、宇宙に焦がれる『GN』がその道を閉ざされてしまうことになってほしくないと思う。
そしてまた、同じように『CN』も宇宙に生きるということに縛られずに、あるいはまた、『GN』への優越感や敵対心だけで宇宙で生きていくことがないようにと願う。
後数日の命ならば、今自分が宇宙にいようと地球にいようと、することできることは限られている。『CN』だから『GN』だからと数日間の生き方が変わるわけではない。
場所も名前も遺伝子さえも、今ここで生きることを全うしようとするときには意味がない。
ただ、この命をどう生きるかということだけ、なのだ。
自分の体に微かな震えが走ったのは、怖さからか、誇りからか?
アイラはサヨコをじっと見ていたが、やがて重く息をついて、バッグの中からアクリルケースを取り出した。サヨコの前に差し出す。
「え?」
サヨコは我に返って、アイラを見た。
「これ、持っていて。タカダの部屋から見つけた『第二の草』のケースよ」
「これが?」
サヨコは受け取ってしげしげと見た。外見は普通の『草』と変わらない。確かに匂いがやや淡い気もしたが、あえてわかる違いではない。
「カージュの持っていたケースだと思うわ。11個ある。サヨコ、あなた、船が来ても、モリのことがわからないとステーションから出ないつもりなんでしょう? 少しだけど、役に立つはずよ」
「でも」
サヨコはアイラを見た。
「これ、証拠品なんでしょう?」
アイラは苦笑した。
「言ったでしょ、あたしは規格外れなの。証拠品なら、ファルプでもとっつかまえて嫌というほど吐き出させてやるわ。でも…あなたは別よね、これがないと保たない。あたし、あなたを失いたくないの」
アイラは静かにけれども深いかぎろいを込めて、サヨコの手のアクリルケースを押さえつけた。少しでも拒む気配があれば、無理にでも持たせよう、そんな仕草だ。
サヨコはしばらく考えてから、微笑んでアイラを見た。
「ありがとう……嬉しい」
「それと…これ」
アイラは急に照れたような顔で、バッグからもう一つ、何かを取り出した。
金色にきらきら光る、小さな『オリヅル』。
それを、アクリルケースの上に載せ、優しくことばを続けた。
「オリヅル、ってね、病気や災難から人間を護ると思われていたそうよ。気休めかもしれないけど……これからは、あたし、連邦と連絡を取りながら動くから、ひょっとしたら、あなたの役に立てないかもしれない。そのときのために、ね」
サヨコは『オリヅル』をじっと見つめた。
金色の『オリヅル』には、幾つも折り直した跡がついている。アイラの指先が、これを折るためにどれほど苦労したのか、サヨコにはもうよくわかっている。
(人を理解するって、こういうことなんだ)
アイラは自分が不十分にしか折れないと知ったうえで、けれどサヨコが『オリヅル』を気に入ったことを忘れないで、この身も心も削る状況の中で、サヨコの無事を祈ってくれた。その気持ちがこの『オリヅル』には込められている、何本も折り直した線となって。
胸に広がった熱いものが目を濡らすのをサヨコは感じた。
そっと『オリヅル』を撫でながら、掠れる声で囁く。
「ありがとう……『草』より嬉しい。ほんとよ、アイラ」
「…だから」
ふいにアイラは深々とサヨコを覗き込んだ。大きな茶色の目に、心配気な色を一杯にして、言い聞かせる。
「無茶をしないでね、サヨコ。苦しくなったら助けを求めてね。あたしが、あなたのことを心配してるってこと、忘れないで」
「…わかった」
サヨコは小さく答えた。
こんな宇宙で、それも通りすがりのようなつながりで、ここまでの気持ちを向けてもらえるなどとは思ってもいなかった。
(これを……探すために……来た?)
ふいにそう思った。
地球上でも十分に得られなかった支え。遥かに危険であやふやな状況の中で、とても得られそうになかった気持ち。
けれども、それを今サヨコはアイラの『オリヅル』に感じている。そして、それは何か不思議な力をサヨコのうちに育てている。
(スライもそう、ね)
スライをぶつかり向きあうことで、サヨコは知り尽くしていたと思った自分を新しく感じた。考えてもみなかった視点で捉え直し、理解し直した。応じるように、現実は今までサヨコが見ていたものとはまったく別な状況を示して見せた。
(わたしは……自分がこれほど強いと思わなかった)
いつ発作を起こして死ぬかわからないほど追いつめられた状況、理解されず拒まれるばかりの状態でも、サヨコはぎりぎり粘ることができた。それには多くの偶然や助けがあった。
では、同じように、実験体として扱われていた日々、心身共に侵され壊される一方だった日々も、サヨコには見えなかっただけで数多くの偶然やささやかな助けがあって、生き延びられたのかもしれない。それらに少しずつ力をもらって生き抜けるほど、サヨコ自身が強かったということでもあるのかもしれない。
ならば。
万が一、今回のことが不首尾に終わり、生き延びることができても事件解決ができなくて、地球連邦に所属できなくなったとしても、或いは新たな道をサヨコ自身が見つけられるかも知れない。
自分自身を信じて。微かなささやかな助けを支えにして。
その思いは確かな力だった。
「とりあえず、今夜は眠るわ……明日1日にかけてみる」
「そうした方がいいわ。ここで寝る?」
「ううん」
サヨコは笑った。
「考えたいことがあるから。おやすみ、アイラ」
「おやすみ」
なおも心配そうな目で見送るアイラに笑い返して、サヨコはアイラの部屋を出て自室に戻った。
「ふう…」
部屋に入ると、さすがに疲れを感じた。
(まるで、ここで何年も暮らしているみたい)
のろのろとアクリルケースを鞄にいれ、金の『オリヅル』を手にしてベッドへと転がり込む。
アイラに教えられたとおりに、羽の先を摘んでそっと広げ、下から息を吹き込むと、今にも飛び立ちそうな姿に変わった。
その『オリヅル』を見つめながら、サヨコはモリのことを考えた。
なぜ、死んだのか。
そして、なぜ、宇宙へ上がったのか。
2つの疑問がゆるやかな渦に巻き込まれて、頭の中を動いている。
(順序だてて考えてみよう)
まず、『第二の草』が作られた。
カナンが何らかの意図を持って『第二の草』を手にする。
タカダが『第二の草』をステーションへ運ぶ。
ファルプが受け取り、モリが使う。
(この流れは間違っていない)
だが、なぜ、その流れが妨げられたのだろう。
この流れはそれぞれにとって、何らかのメリットがあったはずだ。だから、この流れが作られていたのだ。
なのに、そのメリットを捨てて流れを止める、どんな理由があったのだろう。
(メリット)
カナンのメリットは、『第二の草』を支配する権力だと考えられる。
タカダはそのおこぼれに与かるか、または『青い聖戦』の後ろ盾として、カナン・D・ウラブロフの名前が必要だったのかもしれない。カナンは有名な『GN』支持者だ。
モリは『GN』で、宇宙にいるためには『第二の草』が必要だった。
(じゃあ、ファルプは?)
ファルプのメリットは何だったのだろう。
考えてみれば、この流れの中で『CN』なのはファルプだけだ。『CN』として『GN』が『第二の草』を手に入れることは、自分達の領分を侵されることでもある。
(なのに、なぜ、この流れに加わっていたのかしら)
闇の中で『草』とそれを巡る人間達が渦巻く、銀河のようにくるくると、くるくると。
見えないけれども確かな引力に互いに引かれ合う星々のように。
ふと、サヨコは体を起こした。いつのまにかうとうとしていたらしい。
ベッドに入って数時間がたっていた。
鞄の中からアクリルケースを取り出す。
ベッドの端にのっていた『オリヅル』を、大事に畳み直してポケットに入れた。
もう少したてば、ステーションは朝を迎える。サヨコにとって、残り少ない宇宙の時間が過ぎていく。
眠っているわけにはいかなかった。
サヨコはアクリルケースもポケットに入れて、スライのいる管理室に向かった。
「わたしにはまだわからない。じゃあ、モリの死は『宇宙不適応症候群』だったということになるの?」
「そう、なるわね。だから、あえて、ファルプは自殺に見せかけてカナンの介入を待ったんだと思うけど。自殺だとすれば、『CN』が自殺するような状況を作ったスライの管理責任を問う形で、内々に処理することができるしね。連邦警察が入ると、そうはいかなくなる。カナンの地位にも響くでしょう。カナンは、あなたが、モリの死の原因を確定できず、自分のところへ問題を戻してくることを望んでいたのよ」
アイラは自分で納得したようにうなずいた。
(確かに、それで筋は通る、でも…)
サヨコは反論した。
「でも、なぜ、モリは急に『宇宙不適応症候群』を起こしたのかしら。確かに、モリは『GN』だったけど、もし『第二の草』を投与されていたならば、それが途切れないかぎり、『宇宙不適応症候群』は起こさないはずだわ。それに、濃度が低い『第二の草』でコントロールできるぐらいの『宇宙不適応症候群』なら、死亡はしないはずなのに……それこそ、『第二の草』を投与する量を増やせばいいはずでしょ? なのに、なぜ、死ぬまで放っておかれたのかしら?」
アイラが困惑した顔になった。
「『第二の草』がなかったんじゃない? 何かの原因で運ばれなかった、とか」
サヨコは首を振った。
「それなら、『草』が切れるまでにわかったでしょう? その時点で、普通の『GN』ならパニックを起こしてるはずだわ……でも、モリにはそんな様子はなかった」
体の前で両手を組み、体に引き寄せながら、サヨコは呟いた。
「モリがなぜ死んだのかわかれば、もっと何かが見えてくるわ…もっと、すべてがわかってくるように思うの……わたし…それがわかるまで、地球へは降りられない」
アイラから、シゲウラ博士がサヨコの安全と引き換えにテロリストの内密調査に加わっていたと知らされたときの衝撃が蘇る。
きっと、彼は自分を含めた『CN』の在り方にも深い疑問を感じていたのだ。自分はサヨコを苦しめた人間達とは関係がないという立場も取れたはずなのに、自分もまた、世界にはびこる差別と虐待の一端を握っていると気づいていた。だからこそ、サヨコを助け、よりひどい状況を生みかねない『第二の草』の調査に協力を申し出たに違いなかった。
宇宙に旅立ち、人類の進歩と発展に尽くす人間がサヨコの両親なら、地球に留まり、人類の傷みと苦痛に向き合い癒そうとしたシゲウラ博士はサヨコの育ての親とも言える。
宇宙に焦がれる思いと同じぐらい、サヨコの中には人を傷つけるものを理解し解し癒したいという思いが生きている。
それを今、失われるかもしれない自分の命という秤の皿の両方に乗せている。その両方が自分の抱えているものだと感じている。
ならばこそ、自分だけが無事に宇宙から降りられればいいとは思えない。
いつかサヨコと同じように『草』を使って宇宙に上がる『GN』もまた、無事に地球へ戻ってほしいと思う。自分は二度と宇宙に上がれないかもしれないが、宇宙に焦がれる『GN』がその道を閉ざされてしまうことになってほしくないと思う。
そしてまた、同じように『CN』も宇宙に生きるということに縛られずに、あるいはまた、『GN』への優越感や敵対心だけで宇宙で生きていくことがないようにと願う。
後数日の命ならば、今自分が宇宙にいようと地球にいようと、することできることは限られている。『CN』だから『GN』だからと数日間の生き方が変わるわけではない。
場所も名前も遺伝子さえも、今ここで生きることを全うしようとするときには意味がない。
ただ、この命をどう生きるかということだけ、なのだ。
自分の体に微かな震えが走ったのは、怖さからか、誇りからか?
アイラはサヨコをじっと見ていたが、やがて重く息をついて、バッグの中からアクリルケースを取り出した。サヨコの前に差し出す。
「え?」
サヨコは我に返って、アイラを見た。
「これ、持っていて。タカダの部屋から見つけた『第二の草』のケースよ」
「これが?」
サヨコは受け取ってしげしげと見た。外見は普通の『草』と変わらない。確かに匂いがやや淡い気もしたが、あえてわかる違いではない。
「カージュの持っていたケースだと思うわ。11個ある。サヨコ、あなた、船が来ても、モリのことがわからないとステーションから出ないつもりなんでしょう? 少しだけど、役に立つはずよ」
「でも」
サヨコはアイラを見た。
「これ、証拠品なんでしょう?」
アイラは苦笑した。
「言ったでしょ、あたしは規格外れなの。証拠品なら、ファルプでもとっつかまえて嫌というほど吐き出させてやるわ。でも…あなたは別よね、これがないと保たない。あたし、あなたを失いたくないの」
アイラは静かにけれども深いかぎろいを込めて、サヨコの手のアクリルケースを押さえつけた。少しでも拒む気配があれば、無理にでも持たせよう、そんな仕草だ。
サヨコはしばらく考えてから、微笑んでアイラを見た。
「ありがとう……嬉しい」
「それと…これ」
アイラは急に照れたような顔で、バッグからもう一つ、何かを取り出した。
金色にきらきら光る、小さな『オリヅル』。
それを、アクリルケースの上に載せ、優しくことばを続けた。
「オリヅル、ってね、病気や災難から人間を護ると思われていたそうよ。気休めかもしれないけど……これからは、あたし、連邦と連絡を取りながら動くから、ひょっとしたら、あなたの役に立てないかもしれない。そのときのために、ね」
サヨコは『オリヅル』をじっと見つめた。
金色の『オリヅル』には、幾つも折り直した跡がついている。アイラの指先が、これを折るためにどれほど苦労したのか、サヨコにはもうよくわかっている。
(人を理解するって、こういうことなんだ)
アイラは自分が不十分にしか折れないと知ったうえで、けれどサヨコが『オリヅル』を気に入ったことを忘れないで、この身も心も削る状況の中で、サヨコの無事を祈ってくれた。その気持ちがこの『オリヅル』には込められている、何本も折り直した線となって。
胸に広がった熱いものが目を濡らすのをサヨコは感じた。
そっと『オリヅル』を撫でながら、掠れる声で囁く。
「ありがとう……『草』より嬉しい。ほんとよ、アイラ」
「…だから」
ふいにアイラは深々とサヨコを覗き込んだ。大きな茶色の目に、心配気な色を一杯にして、言い聞かせる。
「無茶をしないでね、サヨコ。苦しくなったら助けを求めてね。あたしが、あなたのことを心配してるってこと、忘れないで」
「…わかった」
サヨコは小さく答えた。
こんな宇宙で、それも通りすがりのようなつながりで、ここまでの気持ちを向けてもらえるなどとは思ってもいなかった。
(これを……探すために……来た?)
ふいにそう思った。
地球上でも十分に得られなかった支え。遥かに危険であやふやな状況の中で、とても得られそうになかった気持ち。
けれども、それを今サヨコはアイラの『オリヅル』に感じている。そして、それは何か不思議な力をサヨコのうちに育てている。
(スライもそう、ね)
スライをぶつかり向きあうことで、サヨコは知り尽くしていたと思った自分を新しく感じた。考えてもみなかった視点で捉え直し、理解し直した。応じるように、現実は今までサヨコが見ていたものとはまったく別な状況を示して見せた。
(わたしは……自分がこれほど強いと思わなかった)
いつ発作を起こして死ぬかわからないほど追いつめられた状況、理解されず拒まれるばかりの状態でも、サヨコはぎりぎり粘ることができた。それには多くの偶然や助けがあった。
では、同じように、実験体として扱われていた日々、心身共に侵され壊される一方だった日々も、サヨコには見えなかっただけで数多くの偶然やささやかな助けがあって、生き延びられたのかもしれない。それらに少しずつ力をもらって生き抜けるほど、サヨコ自身が強かったということでもあるのかもしれない。
ならば。
万が一、今回のことが不首尾に終わり、生き延びることができても事件解決ができなくて、地球連邦に所属できなくなったとしても、或いは新たな道をサヨコ自身が見つけられるかも知れない。
自分自身を信じて。微かなささやかな助けを支えにして。
その思いは確かな力だった。
「とりあえず、今夜は眠るわ……明日1日にかけてみる」
「そうした方がいいわ。ここで寝る?」
「ううん」
サヨコは笑った。
「考えたいことがあるから。おやすみ、アイラ」
「おやすみ」
なおも心配そうな目で見送るアイラに笑い返して、サヨコはアイラの部屋を出て自室に戻った。
「ふう…」
部屋に入ると、さすがに疲れを感じた。
(まるで、ここで何年も暮らしているみたい)
のろのろとアクリルケースを鞄にいれ、金の『オリヅル』を手にしてベッドへと転がり込む。
アイラに教えられたとおりに、羽の先を摘んでそっと広げ、下から息を吹き込むと、今にも飛び立ちそうな姿に変わった。
その『オリヅル』を見つめながら、サヨコはモリのことを考えた。
なぜ、死んだのか。
そして、なぜ、宇宙へ上がったのか。
2つの疑問がゆるやかな渦に巻き込まれて、頭の中を動いている。
(順序だてて考えてみよう)
まず、『第二の草』が作られた。
カナンが何らかの意図を持って『第二の草』を手にする。
タカダが『第二の草』をステーションへ運ぶ。
ファルプが受け取り、モリが使う。
(この流れは間違っていない)
だが、なぜ、その流れが妨げられたのだろう。
この流れはそれぞれにとって、何らかのメリットがあったはずだ。だから、この流れが作られていたのだ。
なのに、そのメリットを捨てて流れを止める、どんな理由があったのだろう。
(メリット)
カナンのメリットは、『第二の草』を支配する権力だと考えられる。
タカダはそのおこぼれに与かるか、または『青い聖戦』の後ろ盾として、カナン・D・ウラブロフの名前が必要だったのかもしれない。カナンは有名な『GN』支持者だ。
モリは『GN』で、宇宙にいるためには『第二の草』が必要だった。
(じゃあ、ファルプは?)
ファルプのメリットは何だったのだろう。
考えてみれば、この流れの中で『CN』なのはファルプだけだ。『CN』として『GN』が『第二の草』を手に入れることは、自分達の領分を侵されることでもある。
(なのに、なぜ、この流れに加わっていたのかしら)
闇の中で『草』とそれを巡る人間達が渦巻く、銀河のようにくるくると、くるくると。
見えないけれども確かな引力に互いに引かれ合う星々のように。
ふと、サヨコは体を起こした。いつのまにかうとうとしていたらしい。
ベッドに入って数時間がたっていた。
鞄の中からアクリルケースを取り出す。
ベッドの端にのっていた『オリヅル』を、大事に畳み直してポケットに入れた。
もう少したてば、ステーションは朝を迎える。サヨコにとって、残り少ない宇宙の時間が過ぎていく。
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