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ひく、と一瞬、リカの唇が母さんのように強ばった気がした。けれど、リカはすぐになんでもないふうでひょいと片手をあげた。
「これ? かわいいでしょ」
ふふ、と笑っていたずらっぽく舌を出した。
「後でね、ちょっと渡したいものがあるんだ」
だから、早くメニュー決めて買おうよ、とリカは僕を促した。
なんでなのさ。
僕はその笑みにどきどきしながら、一方でひどくひんやりとした気持ちで、立ち上がれないまま口の中でつぶやいた。
ほかの男に買ってもらった時計を、なんでそんなふうに見せられる?
僕のことなんて何とも思っていないから?
口先一つでごまかせる、そう思っているから?
そしてそれは、僕がくずで、中身のない空っぽな男で、母さん印のかけらで、自分なんてどこにもないコピーでしかないから?
「和樹クン?」
体を固くして薄っぺらい席に張りついたままの僕を、リカが不思議そうに見つめた。
「それ」
僕は唾を飲んだ。
「『ドイさん』に買ってもらった奴だろ」
瞬間、僕とリカは現実から切り取られて、真空の中に放り出された。
まわりを透明な、けれどもちょっとやそっとでは壊れないような壁が囲んでいる。その外で、人はみんなアクションフィギュアのように行き交うだけだ。
立ち直りはリカの方が早かった。
「ドイさん?」
「この間、一緒にいたよね」
「見てたの?」
リカは、気持ちを決めたみたいに戻ってきて、すとん、と僕の前の席に腰を落とした。糸の切れた操り人形がそこへ落とされたみたいな気がする動きだった。
光のせいか、肌が透き通るみたいに白い。薄いブラウンの髪が顔の両側をまっすぐ流れ落ちている。大きな澄んだ目が黒くて長いまつげに囲まれている。ふんわりとローズピンクに塗られた唇が、やっぱり開いて僕を誘う。
腹が立つほど、きれいなのに。
何の隠し事もない、そんな無邪気な表情なのに。
「いつのこと?」
細い指を口元を隠すように組んで、その向こうからリカは僕を見た。
「土曜」
隠された唇が一層きらきらと目を引いてくる。そのせいだろうか、金曜の夜のことは言えなかった。
「どこで?」
「電車…お母さんと、いたよね」
ふわり。
リカは笑った。
「うん」
ほっとしたような、安心した笑み。OK、それならいいや、そんなふうにも取れる笑み。
「土居、清隆さん、て言うんだ」
リカは一つうなずいて、座席に置いた革のバッグの中に手をいれた。何かを探すように、のぞき込みながら手を動かす。
「和樹クン、何か誤解してるみたいだから、先に話すね。映画、後でもいいよね」
僕は口をつぐんだままでいた。
「あのさ、今度、ママが再婚すんの」
リカはやっと目当てのものを見つけたらしい。そうっと丁寧に小さな箱を取り出した。黒い飾り気のない箱に、鮮やかな水色のリボンがかかっている。
「土居さんは、ママの再婚相手。つまり、新しいパパってわけ」
つんつん。
その黒い小箱をテーブルに置いて、リカは考え込んだようにその箱を、きれいにマニキュアした指でつついた。
「それでね、再婚っていっても、改めて式すんのもなんだし、戸籍だけいれるんだって。えーと、あたし、だから、内園リカじゃなくて、土居リカ、になんのね」
リカは、ちょっと唇をすぼめて見せた。変わる名前をもう一度口の中でつぶやいて、少し眉を寄せる。その顔が、困ってる小さな女の子みたいで、可愛い。
けど、そのとっても可愛いリカは、とんでもないことを僕に話してる。
「あれこれ悩んだけど、ママがんばってきたの、知ってるし、ホントね、幸せになってもいいよね、って言われたら、なんかさ」
ふう、と小さくため息をついて瞬きし、リカは小さく舌を出して僕を見た。
「反対、できないし、子どもじゃないし」
同意を求めるみたいに首かしげたけど、僕がうなずかないのを見ると、僕の視線を避けるように少しずつうつむいた。
つんつん。
また、小箱をつつく。
まるで、小箱にいる誰かに合図を送っているみたいに。そこに入っているものを、何とか引っ張り出そうとしているみたいに。
「でね、そのお祝いにね、ベビーGねだって、買ってもらったの、それでね」
リカはちょっと唇を噛んだ。それから、ん、と思い切ったように顔を上げ、僕ににっこり微笑んだ。上気した頬に窓からの光が跳ねる。
とてもうれしそうだね、リカ。きっと、とてもいいことなんだね、それってさ。
けれども、僕はもう我慢できなくなった。
「なのに、これからも、付き合うの」
「え?」
何を言ってるんだろう、と笑ったリカの顔が、唐突に真っ白になった。
不思議だね、リカ。
僕、今、何も説明しなかったのに、リカに言いたいことが全部伝わったのがわかる。
春日のおじいさん、道斗さんと僕の間にあったもの、それが今、僕とリカの間にもある。
とっても酷い形で、だけど。
「なに……言ってんのか…わかんないな」
リカはとぼけたけど、唇が微かに震えていて、眉が寄った。
「あ、あのっ、この箱、和樹クンので、あたしのベビーGとおそろいで、あの」
珍しいリカの戸惑った声。
「買ってもらった?」
僕の声は冷えきっている。
「あっ、あたし…」
「僕とおそろいの、ベビーGを、奴に、買ってもらった?」
僕は繰り返して尋ねた。
胸の底が凍えている。
可愛いリカ、大事なリカ、僕が何にも知らないと思っているリカ。
テーブルの上に乗っているリカの手も、細い肩も小刻みに震えている。僕を食い入るように見つめている目。
それらを、寸分違わない姿で、僕は別の時間でもう知っている。
よしの。
俺を好きだ、と言ってくれた。俺を大事に思っている、と。
祝言をあげよう、田島に疎まれているなら、遠くで、二人で。
そう言ったのに、そのための金を田島から調達してもらう、と言った。
当たり前のことのように。
くらり。
静まり返った世界に、僕だけが服装を変え、役柄はそのままに、何度も連れ戻されている。
この感覚は、この記憶は『転生』のものなんだろうか。それとも、ただの夢の物語だろうか。それとも、本当はすべてはリカにふられている僕、壊れかけている僕の妄想にしか過ぎないんだろうか。
唇が勝手に動いた。
「白・雪・姫・の・逆・襲」
僕のつぶやきに、リカは白いのを通り越して、青く見える顔になった。まるで生きている骸骨のようだった。
「春日でしょう」
リカが突然、しわがれた声で応じた。
「春日クンが、言ったんだ」
「春日?」
思わぬ名前が出てきて、僕は何かに乗っ取られたような気分から引き戻された。
「ひどい……ひどい、ひどい!」
ざわっ。
周囲にいきなり音が戻った。リカの悲鳴に周囲が巻き込まれたみたいだった。リカはいきなり席を立った。黒い小箱はそのままに、バッグを掴み、店から駆け出して行く。
「これ? かわいいでしょ」
ふふ、と笑っていたずらっぽく舌を出した。
「後でね、ちょっと渡したいものがあるんだ」
だから、早くメニュー決めて買おうよ、とリカは僕を促した。
なんでなのさ。
僕はその笑みにどきどきしながら、一方でひどくひんやりとした気持ちで、立ち上がれないまま口の中でつぶやいた。
ほかの男に買ってもらった時計を、なんでそんなふうに見せられる?
僕のことなんて何とも思っていないから?
口先一つでごまかせる、そう思っているから?
そしてそれは、僕がくずで、中身のない空っぽな男で、母さん印のかけらで、自分なんてどこにもないコピーでしかないから?
「和樹クン?」
体を固くして薄っぺらい席に張りついたままの僕を、リカが不思議そうに見つめた。
「それ」
僕は唾を飲んだ。
「『ドイさん』に買ってもらった奴だろ」
瞬間、僕とリカは現実から切り取られて、真空の中に放り出された。
まわりを透明な、けれどもちょっとやそっとでは壊れないような壁が囲んでいる。その外で、人はみんなアクションフィギュアのように行き交うだけだ。
立ち直りはリカの方が早かった。
「ドイさん?」
「この間、一緒にいたよね」
「見てたの?」
リカは、気持ちを決めたみたいに戻ってきて、すとん、と僕の前の席に腰を落とした。糸の切れた操り人形がそこへ落とされたみたいな気がする動きだった。
光のせいか、肌が透き通るみたいに白い。薄いブラウンの髪が顔の両側をまっすぐ流れ落ちている。大きな澄んだ目が黒くて長いまつげに囲まれている。ふんわりとローズピンクに塗られた唇が、やっぱり開いて僕を誘う。
腹が立つほど、きれいなのに。
何の隠し事もない、そんな無邪気な表情なのに。
「いつのこと?」
細い指を口元を隠すように組んで、その向こうからリカは僕を見た。
「土曜」
隠された唇が一層きらきらと目を引いてくる。そのせいだろうか、金曜の夜のことは言えなかった。
「どこで?」
「電車…お母さんと、いたよね」
ふわり。
リカは笑った。
「うん」
ほっとしたような、安心した笑み。OK、それならいいや、そんなふうにも取れる笑み。
「土居、清隆さん、て言うんだ」
リカは一つうなずいて、座席に置いた革のバッグの中に手をいれた。何かを探すように、のぞき込みながら手を動かす。
「和樹クン、何か誤解してるみたいだから、先に話すね。映画、後でもいいよね」
僕は口をつぐんだままでいた。
「あのさ、今度、ママが再婚すんの」
リカはやっと目当てのものを見つけたらしい。そうっと丁寧に小さな箱を取り出した。黒い飾り気のない箱に、鮮やかな水色のリボンがかかっている。
「土居さんは、ママの再婚相手。つまり、新しいパパってわけ」
つんつん。
その黒い小箱をテーブルに置いて、リカは考え込んだようにその箱を、きれいにマニキュアした指でつついた。
「それでね、再婚っていっても、改めて式すんのもなんだし、戸籍だけいれるんだって。えーと、あたし、だから、内園リカじゃなくて、土居リカ、になんのね」
リカは、ちょっと唇をすぼめて見せた。変わる名前をもう一度口の中でつぶやいて、少し眉を寄せる。その顔が、困ってる小さな女の子みたいで、可愛い。
けど、そのとっても可愛いリカは、とんでもないことを僕に話してる。
「あれこれ悩んだけど、ママがんばってきたの、知ってるし、ホントね、幸せになってもいいよね、って言われたら、なんかさ」
ふう、と小さくため息をついて瞬きし、リカは小さく舌を出して僕を見た。
「反対、できないし、子どもじゃないし」
同意を求めるみたいに首かしげたけど、僕がうなずかないのを見ると、僕の視線を避けるように少しずつうつむいた。
つんつん。
また、小箱をつつく。
まるで、小箱にいる誰かに合図を送っているみたいに。そこに入っているものを、何とか引っ張り出そうとしているみたいに。
「でね、そのお祝いにね、ベビーGねだって、買ってもらったの、それでね」
リカはちょっと唇を噛んだ。それから、ん、と思い切ったように顔を上げ、僕ににっこり微笑んだ。上気した頬に窓からの光が跳ねる。
とてもうれしそうだね、リカ。きっと、とてもいいことなんだね、それってさ。
けれども、僕はもう我慢できなくなった。
「なのに、これからも、付き合うの」
「え?」
何を言ってるんだろう、と笑ったリカの顔が、唐突に真っ白になった。
不思議だね、リカ。
僕、今、何も説明しなかったのに、リカに言いたいことが全部伝わったのがわかる。
春日のおじいさん、道斗さんと僕の間にあったもの、それが今、僕とリカの間にもある。
とっても酷い形で、だけど。
「なに……言ってんのか…わかんないな」
リカはとぼけたけど、唇が微かに震えていて、眉が寄った。
「あ、あのっ、この箱、和樹クンので、あたしのベビーGとおそろいで、あの」
珍しいリカの戸惑った声。
「買ってもらった?」
僕の声は冷えきっている。
「あっ、あたし…」
「僕とおそろいの、ベビーGを、奴に、買ってもらった?」
僕は繰り返して尋ねた。
胸の底が凍えている。
可愛いリカ、大事なリカ、僕が何にも知らないと思っているリカ。
テーブルの上に乗っているリカの手も、細い肩も小刻みに震えている。僕を食い入るように見つめている目。
それらを、寸分違わない姿で、僕は別の時間でもう知っている。
よしの。
俺を好きだ、と言ってくれた。俺を大事に思っている、と。
祝言をあげよう、田島に疎まれているなら、遠くで、二人で。
そう言ったのに、そのための金を田島から調達してもらう、と言った。
当たり前のことのように。
くらり。
静まり返った世界に、僕だけが服装を変え、役柄はそのままに、何度も連れ戻されている。
この感覚は、この記憶は『転生』のものなんだろうか。それとも、ただの夢の物語だろうか。それとも、本当はすべてはリカにふられている僕、壊れかけている僕の妄想にしか過ぎないんだろうか。
唇が勝手に動いた。
「白・雪・姫・の・逆・襲」
僕のつぶやきに、リカは白いのを通り越して、青く見える顔になった。まるで生きている骸骨のようだった。
「春日でしょう」
リカが突然、しわがれた声で応じた。
「春日クンが、言ったんだ」
「春日?」
思わぬ名前が出てきて、僕は何かに乗っ取られたような気分から引き戻された。
「ひどい……ひどい、ひどい!」
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