47 / 48
12.グラン・ブルー(3)
しおりを挟む
あれは図形じゃなかった。
黒い服を着て、胸にそれぞれの役割を描いた模様を光らせた、不気味な人形のような家族の姿だった。
母さんの顔を張りつけた人形は赤い〇を胸に描いている。父さんは青い□、都おばあちゃんは黄色の△だ。それらが家族の顔をつけた首をきょときょとと振りながら、僕を追い詰め走ってくる。
海底のような廊下で、僕は吐き気をこらえて目を閉じた。
あれは夢、ただの夢。けれど、果てしなく繰り返される夢。
では、この世界は?
僕のこの奇妙な『俺の記憶』は?
学者や医者なら、レム睡眠だの、意識の多層構造だの、好き勝手に説明をしてわかったつもりにさせてくれるだろう。
けれど、僕にとってリアルなのは、たった一つの気持ちだけ。
僕は同じことを繰り返している。そして、何度も春日を追い詰め殺してしまう。春日は何度も殺される。なのに春日はこういうんだ。
一度も見捨てたことなどない、と。
きりりりり。
胸の奥底で、体の芯で、命の中で一番敏感な部分に鋭いものが差し込まれている。
このままじゃ、きっとどこかでまた、僕は春日を殺すだろう。怖さのために。朗と同じように、怖くてたまらなくて。何に怯えているのかもわからないくせに。
そしていつか、この痛みも恐怖も忘れ去って、夢で追いかけてきた家族のように、役割だけを演じ続ける抜け殻になる。
何のリアルもない、形しかない、ただの物体に。
どうすればいい。どうすれば、この見えない鎖を断ち切れる。
「夢」
思いついた。
春日は夢は現実と同じだと言った。ならば、夢を変えることで、現実を変える何かが手に入らないだろうか。
けれど、あの夢は苦しくてつらい。一度試して壊れそうになったのを、僕はまだ忘れていない。今度失敗したら、僕はもうもたないかもしれない。
あのとき側にいてくれた実はここにいない。現実世界の〇△□が、その役割どおりに僕を追い詰め支配しようとしている。そして、僕は死にかけている春日に何もできないで、闇のような空間に春日の血を握って座っている。
どちらにせよ、もうどこへも行けない。
僕は目を閉じ、夢をゆっくり丁寧に思い出し始めた。
僕は闇の中を走っている。〇△□も走っている。追いかけっこは始まっている。
ぱあん、ぱあん。花火が上がる。運動会だ。
一番は誰だ。えへらえへらと〇△□が笑っている。どこまでいっても終わらないレース。
でも、終わらせてやる。今日、今このとき、終わらせてやる。
僕は立ち止まる。胸をきつくつかむ。
春日の血。守り札だ。
来い。
僕を食うなり殺すなり、できるもんならやってみろ。
〇△□が追いついて来た。えへらえへらえへら。追いついて来ても速度を緩めることがなかったので、とうとう僕にぶつかった。
その瞬間、視界に白く、光が弾けた。
小学校の運動会の日だった。
花火が上がり、天気は快晴。けれど、僕は、前日の天気予報で雨の可能性も聞いていた。
傘を持っていきたいんだけど。
そう母さんに言った。
こんなに晴れてるなら大丈夫よ。
でも、天気予報は雨だって言ってた。
僕の反論に母さんはいらだった。
天気予報は外れるものよ。それに、せっかく、おばあちゃんが傘を洗ってくれたのよ。
うん、だから?
今日、いきなり汚すなんて。砂まみれになるじゃない。
かな子さん、あたしのせいにしないでおくれよ。
都おばあちゃんが割って入る。
でも、お義母さん、汚し続けるのは困る、あんたのしつけがなってないっておっしゃってたじゃありませんか。
まあ、あたしが悪いってのかい?
僕はこっそり二人の間から抜け出た。
それでもどうにも心配だったから、父さんの黒いこうもり傘を持って出掛けた。
運動会はうまくいった。けれど終わりごろには天気が崩れて雨が降りだし、僕はうれしくなって黒いこうもり傘を広げた。帰る仲間をいれてやって、皆に喜ばれて、自分が正しかったと得意だった。
家へ帰ると騒ぎが持ち上がっていた。
持っていった傘は、前日から泊まりに来ていたおじさんのもので、それも思い入れのある大事なものだった。
人の物を黙って持って行くなんてどういう子なんだね。
おじさんは唇を曲げて父さんを睨んだ。
こいつはできそこないでして。父さんは平謝りした。
しつけが足りませんで。都おばあちゃんも頭を下げた。
そんなことをしていたなんて気づきませんでした、申し訳ありません。母さんがまとめて、おじさんは不機嫌そうに帰って行った。
おじさんが帰った後、父さんは母さんを、母さんは都おばあちゃんを、都おばあちゃんはおじさんの傘を皆のものと一緒につっこんだ父さんを責めた。
おじさんの前では、みんな自分も悪かったと謝ったのに、言い始めるとぐるぐる回り出した苛立ちは、結局すべて一つにまとまった。
和樹が悪い、何もかも。和樹さえ、あんなことをしなけりゃよかったんだ。
オレが恥をかいたのはおまえのせいだと父さんは言った。
人の好意を感謝しない、自分勝手な子だから、あたしの努力が反故にされたと都おばあちゃん。
そんなふうに育てた覚えはないのにねえ、と母さん。
僕は混乱し、わけがわからなくなった。
僕はおじさんの傘が入っているとは知らなかった。それが大事な物だとも知らされていなかった。雨が降りそうなのに、傘を持って行くなと言われた理由もわからなかった。
僕は尋ねた。
何がだめだったの?
僕は、雨に濡れた方がよかったってこと?
三人の大人はいきなり怒ったりわめいたり泣いたりした。
それは、僕を怖がらせた。
人がそんなふうにわけのわからないことで爆発するなんて思っていなかった。
気をつけなきゃいけないんだ、と思った。いつ何が起こるか、わかんないんだ、と。自分一人で何かすると、とんでもないことになってしまうんだ、と。
目を開けた。
そのとたん、涙がこぼれた。
小学生のころの僕の戸惑いと恐怖がわかった。
〇△□が果てしなく追いかけてくる、その意味が、初めてわかった。
そんなことはまずいのよ、と〇が言う。
わかってない、わからないのさ、と△が言う。
決められたコースだけ走るんだ、と□が言う。
そのルールを破ると世界は爆発するんだと、僕はずっと思っていた。それは刷り込まれたものだったのに。
苦くてしょっぱい涙だった。
もっと早く気づいていたら。もっと早くこれがわかっていたら。春日をこんな目に合わせることはなかっただろう。
『手術中』の灯が消えた。
僕は立ち上がった。扉が大きく開かれて、いろいろな器具をつけたままの春日が、ベッドに寝かされたまま運ばれてくる。
そのすぐ近くに、警察から戻ってきたらしい実と道斗さんがいた。
二人を従えるように、春日のベッドが前を通る。
緑の帽子を被った白い顔。閉じたまぶたは青かったが、呼吸は静かで穏やかだった。その穏やかさに胸がつらくて涙が出た。
「何とか、もったよ」
実が側にきて教えてくれた。
道斗さんは、立ち上がってあれこれ言い始めた僕の家族をあしらってくれている。
「次はおまえだって」
実が顎をしゃくると、廊下の向こうに背広の上着を腕に掛けた二人の男が立っているのがわかった。事情を聞きたいといっていた警察だった。
「一緒に行こうか?」
実が心配そうに聞いてくれる。
「ううん」
僕は二人を見据えたまま、首を振った。
「春日、みてやって」
「わかった」
病室へ運ばれる春日を少し見送って、僕は向きを変えた。
黒い服を着て、胸にそれぞれの役割を描いた模様を光らせた、不気味な人形のような家族の姿だった。
母さんの顔を張りつけた人形は赤い〇を胸に描いている。父さんは青い□、都おばあちゃんは黄色の△だ。それらが家族の顔をつけた首をきょときょとと振りながら、僕を追い詰め走ってくる。
海底のような廊下で、僕は吐き気をこらえて目を閉じた。
あれは夢、ただの夢。けれど、果てしなく繰り返される夢。
では、この世界は?
僕のこの奇妙な『俺の記憶』は?
学者や医者なら、レム睡眠だの、意識の多層構造だの、好き勝手に説明をしてわかったつもりにさせてくれるだろう。
けれど、僕にとってリアルなのは、たった一つの気持ちだけ。
僕は同じことを繰り返している。そして、何度も春日を追い詰め殺してしまう。春日は何度も殺される。なのに春日はこういうんだ。
一度も見捨てたことなどない、と。
きりりりり。
胸の奥底で、体の芯で、命の中で一番敏感な部分に鋭いものが差し込まれている。
このままじゃ、きっとどこかでまた、僕は春日を殺すだろう。怖さのために。朗と同じように、怖くてたまらなくて。何に怯えているのかもわからないくせに。
そしていつか、この痛みも恐怖も忘れ去って、夢で追いかけてきた家族のように、役割だけを演じ続ける抜け殻になる。
何のリアルもない、形しかない、ただの物体に。
どうすればいい。どうすれば、この見えない鎖を断ち切れる。
「夢」
思いついた。
春日は夢は現実と同じだと言った。ならば、夢を変えることで、現実を変える何かが手に入らないだろうか。
けれど、あの夢は苦しくてつらい。一度試して壊れそうになったのを、僕はまだ忘れていない。今度失敗したら、僕はもうもたないかもしれない。
あのとき側にいてくれた実はここにいない。現実世界の〇△□が、その役割どおりに僕を追い詰め支配しようとしている。そして、僕は死にかけている春日に何もできないで、闇のような空間に春日の血を握って座っている。
どちらにせよ、もうどこへも行けない。
僕は目を閉じ、夢をゆっくり丁寧に思い出し始めた。
僕は闇の中を走っている。〇△□も走っている。追いかけっこは始まっている。
ぱあん、ぱあん。花火が上がる。運動会だ。
一番は誰だ。えへらえへらと〇△□が笑っている。どこまでいっても終わらないレース。
でも、終わらせてやる。今日、今このとき、終わらせてやる。
僕は立ち止まる。胸をきつくつかむ。
春日の血。守り札だ。
来い。
僕を食うなり殺すなり、できるもんならやってみろ。
〇△□が追いついて来た。えへらえへらえへら。追いついて来ても速度を緩めることがなかったので、とうとう僕にぶつかった。
その瞬間、視界に白く、光が弾けた。
小学校の運動会の日だった。
花火が上がり、天気は快晴。けれど、僕は、前日の天気予報で雨の可能性も聞いていた。
傘を持っていきたいんだけど。
そう母さんに言った。
こんなに晴れてるなら大丈夫よ。
でも、天気予報は雨だって言ってた。
僕の反論に母さんはいらだった。
天気予報は外れるものよ。それに、せっかく、おばあちゃんが傘を洗ってくれたのよ。
うん、だから?
今日、いきなり汚すなんて。砂まみれになるじゃない。
かな子さん、あたしのせいにしないでおくれよ。
都おばあちゃんが割って入る。
でも、お義母さん、汚し続けるのは困る、あんたのしつけがなってないっておっしゃってたじゃありませんか。
まあ、あたしが悪いってのかい?
僕はこっそり二人の間から抜け出た。
それでもどうにも心配だったから、父さんの黒いこうもり傘を持って出掛けた。
運動会はうまくいった。けれど終わりごろには天気が崩れて雨が降りだし、僕はうれしくなって黒いこうもり傘を広げた。帰る仲間をいれてやって、皆に喜ばれて、自分が正しかったと得意だった。
家へ帰ると騒ぎが持ち上がっていた。
持っていった傘は、前日から泊まりに来ていたおじさんのもので、それも思い入れのある大事なものだった。
人の物を黙って持って行くなんてどういう子なんだね。
おじさんは唇を曲げて父さんを睨んだ。
こいつはできそこないでして。父さんは平謝りした。
しつけが足りませんで。都おばあちゃんも頭を下げた。
そんなことをしていたなんて気づきませんでした、申し訳ありません。母さんがまとめて、おじさんは不機嫌そうに帰って行った。
おじさんが帰った後、父さんは母さんを、母さんは都おばあちゃんを、都おばあちゃんはおじさんの傘を皆のものと一緒につっこんだ父さんを責めた。
おじさんの前では、みんな自分も悪かったと謝ったのに、言い始めるとぐるぐる回り出した苛立ちは、結局すべて一つにまとまった。
和樹が悪い、何もかも。和樹さえ、あんなことをしなけりゃよかったんだ。
オレが恥をかいたのはおまえのせいだと父さんは言った。
人の好意を感謝しない、自分勝手な子だから、あたしの努力が反故にされたと都おばあちゃん。
そんなふうに育てた覚えはないのにねえ、と母さん。
僕は混乱し、わけがわからなくなった。
僕はおじさんの傘が入っているとは知らなかった。それが大事な物だとも知らされていなかった。雨が降りそうなのに、傘を持って行くなと言われた理由もわからなかった。
僕は尋ねた。
何がだめだったの?
僕は、雨に濡れた方がよかったってこと?
三人の大人はいきなり怒ったりわめいたり泣いたりした。
それは、僕を怖がらせた。
人がそんなふうにわけのわからないことで爆発するなんて思っていなかった。
気をつけなきゃいけないんだ、と思った。いつ何が起こるか、わかんないんだ、と。自分一人で何かすると、とんでもないことになってしまうんだ、と。
目を開けた。
そのとたん、涙がこぼれた。
小学生のころの僕の戸惑いと恐怖がわかった。
〇△□が果てしなく追いかけてくる、その意味が、初めてわかった。
そんなことはまずいのよ、と〇が言う。
わかってない、わからないのさ、と△が言う。
決められたコースだけ走るんだ、と□が言う。
そのルールを破ると世界は爆発するんだと、僕はずっと思っていた。それは刷り込まれたものだったのに。
苦くてしょっぱい涙だった。
もっと早く気づいていたら。もっと早くこれがわかっていたら。春日をこんな目に合わせることはなかっただろう。
『手術中』の灯が消えた。
僕は立ち上がった。扉が大きく開かれて、いろいろな器具をつけたままの春日が、ベッドに寝かされたまま運ばれてくる。
そのすぐ近くに、警察から戻ってきたらしい実と道斗さんがいた。
二人を従えるように、春日のベッドが前を通る。
緑の帽子を被った白い顔。閉じたまぶたは青かったが、呼吸は静かで穏やかだった。その穏やかさに胸がつらくて涙が出た。
「何とか、もったよ」
実が側にきて教えてくれた。
道斗さんは、立ち上がってあれこれ言い始めた僕の家族をあしらってくれている。
「次はおまえだって」
実が顎をしゃくると、廊下の向こうに背広の上着を腕に掛けた二人の男が立っているのがわかった。事情を聞きたいといっていた警察だった。
「一緒に行こうか?」
実が心配そうに聞いてくれる。
「ううん」
僕は二人を見据えたまま、首を振った。
「春日、みてやって」
「わかった」
病室へ運ばれる春日を少し見送って、僕は向きを変えた。
0
あなたにおすすめの小説
あなたの片想いを聞いてしまった夜
柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」
公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。
政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。
しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。
「好きな人がいる。……片想いなんだ」
名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
白苑後宮の薬膳女官
絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。
ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。
薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。
静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる