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『その男』(2)
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コンビニは好きだった、昔から。
小学生でも『客』になれる、数少ない支配圏。普通の店にように、大人と子供でことば遣いを変えられることもない。
「……仲間にいれてって」
「……」
黙って相手を見ると、ぎくりとした顔で顔を背ける。
「しゃべってない、絶対」
どうだか。
きっと戦利品の自慢をしたくなったんだろう。
類は類を呼ぶ。
寂しい気持ちは物で埋められると教える社会。
「迷惑かけないし」
オレがちゃんとしめるから。
「あいつらまだ3年だし、オレ、ちゃんとしめるから」
溜め息をついて、開いていた週刊マンガの続きを眺める。
「…ちぇ」
こんなところでミスってる。もうすぐ突っ込まれるぞ、と思った数ページ先で、犯人だと名指しされてがっかりした。
「逃げ切れよ」
「…ご、めん」
マンガの感想を呟いたのに、相手が白い顔で謝った。
「見られ、ちゃって」
「……」
そんなことだと思った。
元から周囲の気配に鈍感なやつだから、うまくやるのに夢中になって視線に気づかなかったんだろう。
「大丈夫だよ、しゃべらないって。あいつんとこも、親遅いし、いないし、気にしないし」
だから構ってほしいってか。
ワルいことしてます、見てくださいって?
「…連れてきていい?」
切り捨て時だな。
「……いつもみたいにやれ」
「…わかった」
相手は急いでコンビニを出て、すぐ側の自販機にたむろしている数人のところへ駆けて行く。
バカばっかりだな、そんなところにリュック背負った小学生が集まってたら、十分目立つって。
店員がそちらをちらちら見てる。このところ、ここで何度かやってたから、そろそろ警戒モードか。
集まっている中に、近くの大きな文房具屋の子供がいた。ひょろんとした半端な背、しょっちゅう引き攣ったみたいに笑顔を浮かべている顔。校庭の隅で時々女子や下級生にしつこく絡んでは、あれやこれやと物を巻き上げているやつ。大人と上級生相手には丁寧だが、自分より弱いとみると容赦がない。
「ジョーダンだろ」
あんなのを仲間に入れたらハメツだ。
そちらをしばらく眺めた後、ゆっくり移動して店員の側の棚へ移った。ここのコンビニの扉は手動だ。飲み物を探すふりをして、ちらちら、と背後を振り返り、店員を見上げる。
「お会計いたしましょうか」
「あ…はい」
慌てたように財布を出し、指を震わせながら小銭を置いて、また気になって仕方ないというふりで振り返る。
「ありがとうございました」
それに気づいた店員が何か言いたげに瞬きし、上の空で品物を渡し、一緒にまた店の外を眺め、やがて顔を緊張させて入り口を見た。
「……いらっしゃいませー」
「あー、もう出てるじゃん!」
ばかでかい声を上げて入ってくる先頭は文房具屋のやつ。
注意を引くってことと、顔を覚えられるってことは違うんだけど。
「え、マジ!」
シンクロするようにざわざわと残りがなだれ込む。半分は本の棚へ、半分はお菓子の棚へ。賑やかに好き勝手に雑誌を抜き出し眺め出す一群に、店員がさりげなくカウンターを回る。雑誌の棚へ向かいながら、視線はトレーディングフィギュアの方へ流れた残りへ動かしてる。
なかなか鋭そう。始末してもらえるかもしれない、どうするかな。
考えながら店を出る。
「いらっしゃいませー」
入ってきたのは女子、出口ですれ違って、髪の毛がふわりとなびくのになんとなく見送った。赤いランドセル、まっすぐに伸びた手足、まっすぐに伸びた背筋、なんだかめずらしくキレイな子。
思わずじっと見ていると、店の中のあいつらをじろじろ見ていた店員と窓越しに目があった。
こういうときがゾクゾクする。仕掛ける瞬間、予測通りに物事が転ぶとわかってる。
不安そうに視線を動かした。気になったように入り口へ戻ろうとし、もう一度扉を押したその瞬間、店員から陰になっていた場所のガムを数個、ポケットに滑り込ませる連中に急に気づいたという顔で、あ、と小さく声を上げて店員を見る。
「!」
はっとしたように店員が身を翻した。大きく一歩か二歩、体を捻って覗き込んだ棚の向こうで固まる数人。
「こら!」
「、わ!」
手にしたものを放り出してこちらへ駆け出してくるのに、慌てふためいたように思い切り扉を閉めて顔を背ける。
どしん、がたがたがた、と派手な物音が店内で響き渡って、目の前で閉まったドアに激突したのやら、そいつにぶつかって転がったのやら、とにかく一斉に叫びが上がって、いち早く飛びついた店員がばんっ、と扉を叩きながら叫んだ。
「警察呼ぶぞ!」
はい、終わり。
離れていく途中で店内から真っ青になってこちらを見ている顔に笑うと、相手の顔がくしゃくしゃ歪む。その後ろで、文房具屋の子供がさっき入っていった女子の腕を捕まえて何か叫んでいる。
いーじまは何もしゃべらない。
もっと酷い目に合いたくないだろう、たとえばこの数年間、あちこちでずっと命令に従って盗り続けてたとか。小学校ももう卒業、そんなことを背負って中学なんかに行きたくない、これ一回で終わりがいいはず。
だから沈黙、ワガミカワイサで守ってくれる。
たまたま、ちょっと気が緩んで。
そういうあたりで、理由つけられるぐらいのアタマはあるはず。
もっとも時々鋭い大人もいるから要注意だけど。
少し離れたドラッグストアに入って待っていると、パトカーがやってきた。
「おれやってない、こいつがやってたんだ、こいつがそうなんだ!」
文房具屋の子供は女子の腕を掴んだまま叫びながら警官に引っ張られてく。
「こいつも仲間だ、おれだけじゃない、おれだけじゃないんだ!」
後で聞いたら、女子はすぐに帰されたらしいけど、あいつの親が女子の家に怒鳴り込んだとかなんやかやあったらしい。
バカなやつの親はやっぱりバカだ。
違うか。バカな親がバカな子供を育てるのか。
自分の子供を信じてるんじゃなくて、何も見てない空っぽな目が、空っぽな中身を育ててくんだ。
「感謝しろって」
この世界には空っぽな器が溢れ返ってる。
その中身に意味を与えてやってるんだ。
小学生でも『客』になれる、数少ない支配圏。普通の店にように、大人と子供でことば遣いを変えられることもない。
「……仲間にいれてって」
「……」
黙って相手を見ると、ぎくりとした顔で顔を背ける。
「しゃべってない、絶対」
どうだか。
きっと戦利品の自慢をしたくなったんだろう。
類は類を呼ぶ。
寂しい気持ちは物で埋められると教える社会。
「迷惑かけないし」
オレがちゃんとしめるから。
「あいつらまだ3年だし、オレ、ちゃんとしめるから」
溜め息をついて、開いていた週刊マンガの続きを眺める。
「…ちぇ」
こんなところでミスってる。もうすぐ突っ込まれるぞ、と思った数ページ先で、犯人だと名指しされてがっかりした。
「逃げ切れよ」
「…ご、めん」
マンガの感想を呟いたのに、相手が白い顔で謝った。
「見られ、ちゃって」
「……」
そんなことだと思った。
元から周囲の気配に鈍感なやつだから、うまくやるのに夢中になって視線に気づかなかったんだろう。
「大丈夫だよ、しゃべらないって。あいつんとこも、親遅いし、いないし、気にしないし」
だから構ってほしいってか。
ワルいことしてます、見てくださいって?
「…連れてきていい?」
切り捨て時だな。
「……いつもみたいにやれ」
「…わかった」
相手は急いでコンビニを出て、すぐ側の自販機にたむろしている数人のところへ駆けて行く。
バカばっかりだな、そんなところにリュック背負った小学生が集まってたら、十分目立つって。
店員がそちらをちらちら見てる。このところ、ここで何度かやってたから、そろそろ警戒モードか。
集まっている中に、近くの大きな文房具屋の子供がいた。ひょろんとした半端な背、しょっちゅう引き攣ったみたいに笑顔を浮かべている顔。校庭の隅で時々女子や下級生にしつこく絡んでは、あれやこれやと物を巻き上げているやつ。大人と上級生相手には丁寧だが、自分より弱いとみると容赦がない。
「ジョーダンだろ」
あんなのを仲間に入れたらハメツだ。
そちらをしばらく眺めた後、ゆっくり移動して店員の側の棚へ移った。ここのコンビニの扉は手動だ。飲み物を探すふりをして、ちらちら、と背後を振り返り、店員を見上げる。
「お会計いたしましょうか」
「あ…はい」
慌てたように財布を出し、指を震わせながら小銭を置いて、また気になって仕方ないというふりで振り返る。
「ありがとうございました」
それに気づいた店員が何か言いたげに瞬きし、上の空で品物を渡し、一緒にまた店の外を眺め、やがて顔を緊張させて入り口を見た。
「……いらっしゃいませー」
「あー、もう出てるじゃん!」
ばかでかい声を上げて入ってくる先頭は文房具屋のやつ。
注意を引くってことと、顔を覚えられるってことは違うんだけど。
「え、マジ!」
シンクロするようにざわざわと残りがなだれ込む。半分は本の棚へ、半分はお菓子の棚へ。賑やかに好き勝手に雑誌を抜き出し眺め出す一群に、店員がさりげなくカウンターを回る。雑誌の棚へ向かいながら、視線はトレーディングフィギュアの方へ流れた残りへ動かしてる。
なかなか鋭そう。始末してもらえるかもしれない、どうするかな。
考えながら店を出る。
「いらっしゃいませー」
入ってきたのは女子、出口ですれ違って、髪の毛がふわりとなびくのになんとなく見送った。赤いランドセル、まっすぐに伸びた手足、まっすぐに伸びた背筋、なんだかめずらしくキレイな子。
思わずじっと見ていると、店の中のあいつらをじろじろ見ていた店員と窓越しに目があった。
こういうときがゾクゾクする。仕掛ける瞬間、予測通りに物事が転ぶとわかってる。
不安そうに視線を動かした。気になったように入り口へ戻ろうとし、もう一度扉を押したその瞬間、店員から陰になっていた場所のガムを数個、ポケットに滑り込ませる連中に急に気づいたという顔で、あ、と小さく声を上げて店員を見る。
「!」
はっとしたように店員が身を翻した。大きく一歩か二歩、体を捻って覗き込んだ棚の向こうで固まる数人。
「こら!」
「、わ!」
手にしたものを放り出してこちらへ駆け出してくるのに、慌てふためいたように思い切り扉を閉めて顔を背ける。
どしん、がたがたがた、と派手な物音が店内で響き渡って、目の前で閉まったドアに激突したのやら、そいつにぶつかって転がったのやら、とにかく一斉に叫びが上がって、いち早く飛びついた店員がばんっ、と扉を叩きながら叫んだ。
「警察呼ぶぞ!」
はい、終わり。
離れていく途中で店内から真っ青になってこちらを見ている顔に笑うと、相手の顔がくしゃくしゃ歪む。その後ろで、文房具屋の子供がさっき入っていった女子の腕を捕まえて何か叫んでいる。
いーじまは何もしゃべらない。
もっと酷い目に合いたくないだろう、たとえばこの数年間、あちこちでずっと命令に従って盗り続けてたとか。小学校ももう卒業、そんなことを背負って中学なんかに行きたくない、これ一回で終わりがいいはず。
だから沈黙、ワガミカワイサで守ってくれる。
たまたま、ちょっと気が緩んで。
そういうあたりで、理由つけられるぐらいのアタマはあるはず。
もっとも時々鋭い大人もいるから要注意だけど。
少し離れたドラッグストアに入って待っていると、パトカーがやってきた。
「おれやってない、こいつがやってたんだ、こいつがそうなんだ!」
文房具屋の子供は女子の腕を掴んだまま叫びながら警官に引っ張られてく。
「こいつも仲間だ、おれだけじゃない、おれだけじゃないんだ!」
後で聞いたら、女子はすぐに帰されたらしいけど、あいつの親が女子の家に怒鳴り込んだとかなんやかやあったらしい。
バカなやつの親はやっぱりバカだ。
違うか。バカな親がバカな子供を育てるのか。
自分の子供を信じてるんじゃなくて、何も見てない空っぽな目が、空っぽな中身を育ててくんだ。
「感謝しろって」
この世界には空っぽな器が溢れ返ってる。
その中身に意味を与えてやってるんだ。
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