『闇を闇から』番外編

segakiyui

文字の大きさ
29 / 48

『その男』(2)

しおりを挟む
 コンビニは好きだった、昔から。
 小学生でも『客』になれる、数少ない支配圏。普通の店にように、大人と子供でことば遣いを変えられることもない。
「……仲間にいれてって」
「……」
 黙って相手を見ると、ぎくりとした顔で顔を背ける。
「しゃべってない、絶対」
 どうだか。
 きっと戦利品の自慢をしたくなったんだろう。
 類は類を呼ぶ。
 寂しい気持ちは物で埋められると教える社会。
「迷惑かけないし」
 オレがちゃんとしめるから。
「あいつらまだ3年だし、オレ、ちゃんとしめるから」
 溜め息をついて、開いていた週刊マンガの続きを眺める。
「…ちぇ」
 こんなところでミスってる。もうすぐ突っ込まれるぞ、と思った数ページ先で、犯人だと名指しされてがっかりした。
「逃げ切れよ」
「…ご、めん」
 マンガの感想を呟いたのに、相手が白い顔で謝った。
「見られ、ちゃって」
「……」
 そんなことだと思った。
 元から周囲の気配に鈍感なやつだから、うまくやるのに夢中になって視線に気づかなかったんだろう。
「大丈夫だよ、しゃべらないって。あいつんとこも、親遅いし、いないし、気にしないし」
 だから構ってほしいってか。
 ワルいことしてます、見てくださいって?
「…連れてきていい?」
 切り捨て時だな。
「……いつもみたいにやれ」
「…わかった」
 相手は急いでコンビニを出て、すぐ側の自販機にたむろしている数人のところへ駆けて行く。
 バカばっかりだな、そんなところにリュック背負った小学生が集まってたら、十分目立つって。
 店員がそちらをちらちら見てる。このところ、ここで何度かやってたから、そろそろ警戒モードか。
 集まっている中に、近くの大きな文房具屋の子供がいた。ひょろんとした半端な背、しょっちゅう引き攣ったみたいに笑顔を浮かべている顔。校庭の隅で時々女子や下級生にしつこく絡んでは、あれやこれやと物を巻き上げているやつ。大人と上級生相手には丁寧だが、自分より弱いとみると容赦がない。
「ジョーダンだろ」
 あんなのを仲間に入れたらハメツだ。
 そちらをしばらく眺めた後、ゆっくり移動して店員の側の棚へ移った。ここのコンビニの扉は手動だ。飲み物を探すふりをして、ちらちら、と背後を振り返り、店員を見上げる。
「お会計いたしましょうか」
「あ…はい」
 慌てたように財布を出し、指を震わせながら小銭を置いて、また気になって仕方ないというふりで振り返る。
「ありがとうございました」
 それに気づいた店員が何か言いたげに瞬きし、上の空で品物を渡し、一緒にまた店の外を眺め、やがて顔を緊張させて入り口を見た。
「……いらっしゃいませー」
「あー、もう出てるじゃん!」
 ばかでかい声を上げて入ってくる先頭は文房具屋のやつ。
 注意を引くってことと、顔を覚えられるってことは違うんだけど。
「え、マジ!」
 シンクロするようにざわざわと残りがなだれ込む。半分は本の棚へ、半分はお菓子の棚へ。賑やかに好き勝手に雑誌を抜き出し眺め出す一群に、店員がさりげなくカウンターを回る。雑誌の棚へ向かいながら、視線はトレーディングフィギュアの方へ流れた残りへ動かしてる。
 なかなか鋭そう。始末してもらえるかもしれない、どうするかな。
 考えながら店を出る。
「いらっしゃいませー」
 入ってきたのは女子、出口ですれ違って、髪の毛がふわりとなびくのになんとなく見送った。赤いランドセル、まっすぐに伸びた手足、まっすぐに伸びた背筋、なんだかめずらしくキレイな子。
 思わずじっと見ていると、店の中のあいつらをじろじろ見ていた店員と窓越しに目があった。
 こういうときがゾクゾクする。仕掛ける瞬間、予測通りに物事が転ぶとわかってる。
 不安そうに視線を動かした。気になったように入り口へ戻ろうとし、もう一度扉を押したその瞬間、店員から陰になっていた場所のガムを数個、ポケットに滑り込ませる連中に急に気づいたという顔で、あ、と小さく声を上げて店員を見る。
「!」
 はっとしたように店員が身を翻した。大きく一歩か二歩、体を捻って覗き込んだ棚の向こうで固まる数人。
「こら!」
「、わ!」
 手にしたものを放り出してこちらへ駆け出してくるのに、慌てふためいたように思い切り扉を閉めて顔を背ける。
 どしん、がたがたがた、と派手な物音が店内で響き渡って、目の前で閉まったドアに激突したのやら、そいつにぶつかって転がったのやら、とにかく一斉に叫びが上がって、いち早く飛びついた店員がばんっ、と扉を叩きながら叫んだ。
「警察呼ぶぞ!」
 はい、終わり。
 離れていく途中で店内から真っ青になってこちらを見ている顔に笑うと、相手の顔がくしゃくしゃ歪む。その後ろで、文房具屋の子供がさっき入っていった女子の腕を捕まえて何か叫んでいる。
 いーじまは何もしゃべらない。
 もっと酷い目に合いたくないだろう、たとえばこの数年間、あちこちでずっと命令に従って盗り続けてたとか。小学校ももう卒業、そんなことを背負って中学なんかに行きたくない、これ一回で終わりがいいはず。
 だから沈黙、ワガミカワイサで守ってくれる。
 たまたま、ちょっと気が緩んで。
 そういうあたりで、理由つけられるぐらいのアタマはあるはず。
 もっとも時々鋭い大人もいるから要注意だけど。
 少し離れたドラッグストアに入って待っていると、パトカーがやってきた。
「おれやってない、こいつがやってたんだ、こいつがそうなんだ!」
 文房具屋の子供は女子の腕を掴んだまま叫びながら警官に引っ張られてく。
「こいつも仲間だ、おれだけじゃない、おれだけじゃないんだ!」
 後で聞いたら、女子はすぐに帰されたらしいけど、あいつの親が女子の家に怒鳴り込んだとかなんやかやあったらしい。
 バカなやつの親はやっぱりバカだ。
 違うか。バカな親がバカな子供を育てるのか。 
 自分の子供を信じてるんじゃなくて、何も見てない空っぽな目が、空っぽな中身を育ててくんだ。
「感謝しろって」
 この世界には空っぽな器が溢れ返ってる。
 その中身に意味を与えてやってるんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...