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第4章
8.ワイヤード(4)
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のろのろと携帯に手を伸ばす。
まだ番号は入っているはずだ。電話を待っている相手はすぐに出るだろう。京介の連絡を喜び、場所を決め、京介と会うために子供も夫も放ってやってくるだろう。
指先でアドレスを開くと、そこに同じ名前がある。
「………」
くるくると動かすと、別の名前が浮かび出る。
『伊吹美並』
「……今まだ上映してる」
自分に言い聞かせるように呟いて指を動かす。
「二人で居るんだから」
邪魔しちゃだめだよね?
掠れた声が耳に遠い。
『真崎恵子』
彼女なら待ってる。
きゅ、と唇を噛んで指を動かした。
『伊吹美並』
追い詰めて嫌がられてしまうかもしれない。
もう一度呼び出す。
『真崎恵子』
きっとわかりはしない、携帯を切って、恵子と転がり込むベッドはきっと温かい。
今夜も一人じゃまた眠れなくなるに決まっている。
指を動かす。
『伊吹美並』
プログラムされた感覚。
京介のトラウマは伊吹を苦しめるだけだろうか。
『真崎恵子』
彼女は苦しまない。楽しんで京介を突き落とし、ずたずたにしてくれる、跡形もないぐらい。
『伊吹美並』
眠れない。
「伊吹……さん…」
ふいに自分が何を欲しがっているのか自覚した。
伊吹の声じゃない、姿でもない、記憶じゃない期待じゃない、体が欲しい、伊吹の熱が。
「伊吹、さん」
疼く部分や速度を上げ始める心臓や、微かに乱れてくる呼吸を感じてうっとうしい。
今ここで伊吹を抱きたい。
今伊吹の中に入りたい。
今。
「君の中で」
眠りたい。
指先が止まった先の名前を凝視する。
『真崎恵子』
きっとここも温かい。眠ることはできるはずだ。
「……、、っ」
今にも押しそうな指を必死に堪えて、京介は歯を食いしばった。急いで相手の名前をアドレスから削除する。
「、は、あ…っ」
荒くなっていた息を一気に吐き出し、ずきずきしている感覚に眉を寄せた。
「…めんど…うだな…」
確かに男として伊吹を抱けるのはわかった。
けれど、男として伊吹を望まないで平然と過ごすことが、どんどん難しくなっているのを感じる。
ましてや、今日みたいに下手に他人の欲望に触れたり晒されたりすると、あっさり揺れて堕ちそうな自分を制するのに、どうしても伊吹のことを思い出すし、思い出せばそれはすぐに体に繋がるようになってしまっていて。
「きつ……」
何度か強く息を吐き出したけれど、上がった熱が去ってくれない。
「……トイレ…いこ…」
立ち上がった矢先、手にしていた携帯が震えてどきりとした。
「…あ」
表示された名前に押さえつけていた熱が一気に上がる。
「…もしもし、伊吹さん?」
『京介? ……どうかしたんですか?』
「……ううん。なんで?」
蕩けた熱が全身に零れ落ちてくるのに、椅子にへたりこんだ。携帯を耳に当てつつ、額の汗を拭った手を降ろし、指先が触れた部分にびくりとする。
『なんか声が苦しそうですよ?』
「……ああ……ちょっと,今…」
ばたばたしてたから。
呟くように応えつつ、指をゆっくり上下させた。
「伊吹さんは? 今…どこ…?」
最低かもしれない、僕。
薄笑いしつつ、始めたものは止まらない。耳元に響く声が甘くて、気持ちよく体が浮いていく。
『今映画を見終わりました。これからご飯食べに行きますけど』
「うん…」
競り上がってくる感覚に息が途切れそうになる。
「映画は…おもしろかった……?」
映画の中の真犯人も、こんなことをやってたんだろうか。
『そうですね……切なかったです』
「……そ…、」
切ない、の伊吹の声が吐息まじりで煽られて、思わず意識が光った。息を止めて堪えてしのぐ。
『それで、京介』
「う…ん…っ」
もうだめかも。
『一緒に行く?』
「、っっ」
優しい声で囁かれたそのことばがどれほど衝撃だったのか、伊吹にはおそらくわからなかっただろう。
『京介?』
「は…い…」
ああ、やっちゃった。
『忙しいですか?』
「え?」
『だから、今からご飯食べに行きますけど、京介も一緒に行きますか?』
「……えええっ!」
『…何』
「あ…いや…その…」
京介は呆然と自分のスラックスを眺めた。
「あの……ごめん……僕」
何やってんだろう?
情けなくて半泣きになりながら、体を起こしてがっくりする。
「僕……ちょっと今すぐは行けない…かも…」
『お仕事ですか?』
「うん……」
心配そうな伊吹の声に、そっと、今夜僕のところへ来ない、と誘ってみたが。
『あ…ごめんなさい。今夜はだめです』
「……わかった……」
僕ってかなりの馬鹿だよね?
さらりと断られて、京介は深く溜め息をついた。
まだ番号は入っているはずだ。電話を待っている相手はすぐに出るだろう。京介の連絡を喜び、場所を決め、京介と会うために子供も夫も放ってやってくるだろう。
指先でアドレスを開くと、そこに同じ名前がある。
「………」
くるくると動かすと、別の名前が浮かび出る。
『伊吹美並』
「……今まだ上映してる」
自分に言い聞かせるように呟いて指を動かす。
「二人で居るんだから」
邪魔しちゃだめだよね?
掠れた声が耳に遠い。
『真崎恵子』
彼女なら待ってる。
きゅ、と唇を噛んで指を動かした。
『伊吹美並』
追い詰めて嫌がられてしまうかもしれない。
もう一度呼び出す。
『真崎恵子』
きっとわかりはしない、携帯を切って、恵子と転がり込むベッドはきっと温かい。
今夜も一人じゃまた眠れなくなるに決まっている。
指を動かす。
『伊吹美並』
プログラムされた感覚。
京介のトラウマは伊吹を苦しめるだけだろうか。
『真崎恵子』
彼女は苦しまない。楽しんで京介を突き落とし、ずたずたにしてくれる、跡形もないぐらい。
『伊吹美並』
眠れない。
「伊吹……さん…」
ふいに自分が何を欲しがっているのか自覚した。
伊吹の声じゃない、姿でもない、記憶じゃない期待じゃない、体が欲しい、伊吹の熱が。
「伊吹、さん」
疼く部分や速度を上げ始める心臓や、微かに乱れてくる呼吸を感じてうっとうしい。
今ここで伊吹を抱きたい。
今伊吹の中に入りたい。
今。
「君の中で」
眠りたい。
指先が止まった先の名前を凝視する。
『真崎恵子』
きっとここも温かい。眠ることはできるはずだ。
「……、、っ」
今にも押しそうな指を必死に堪えて、京介は歯を食いしばった。急いで相手の名前をアドレスから削除する。
「、は、あ…っ」
荒くなっていた息を一気に吐き出し、ずきずきしている感覚に眉を寄せた。
「…めんど…うだな…」
確かに男として伊吹を抱けるのはわかった。
けれど、男として伊吹を望まないで平然と過ごすことが、どんどん難しくなっているのを感じる。
ましてや、今日みたいに下手に他人の欲望に触れたり晒されたりすると、あっさり揺れて堕ちそうな自分を制するのに、どうしても伊吹のことを思い出すし、思い出せばそれはすぐに体に繋がるようになってしまっていて。
「きつ……」
何度か強く息を吐き出したけれど、上がった熱が去ってくれない。
「……トイレ…いこ…」
立ち上がった矢先、手にしていた携帯が震えてどきりとした。
「…あ」
表示された名前に押さえつけていた熱が一気に上がる。
「…もしもし、伊吹さん?」
『京介? ……どうかしたんですか?』
「……ううん。なんで?」
蕩けた熱が全身に零れ落ちてくるのに、椅子にへたりこんだ。携帯を耳に当てつつ、額の汗を拭った手を降ろし、指先が触れた部分にびくりとする。
『なんか声が苦しそうですよ?』
「……ああ……ちょっと,今…」
ばたばたしてたから。
呟くように応えつつ、指をゆっくり上下させた。
「伊吹さんは? 今…どこ…?」
最低かもしれない、僕。
薄笑いしつつ、始めたものは止まらない。耳元に響く声が甘くて、気持ちよく体が浮いていく。
『今映画を見終わりました。これからご飯食べに行きますけど』
「うん…」
競り上がってくる感覚に息が途切れそうになる。
「映画は…おもしろかった……?」
映画の中の真犯人も、こんなことをやってたんだろうか。
『そうですね……切なかったです』
「……そ…、」
切ない、の伊吹の声が吐息まじりで煽られて、思わず意識が光った。息を止めて堪えてしのぐ。
『それで、京介』
「う…ん…っ」
もうだめかも。
『一緒に行く?』
「、っっ」
優しい声で囁かれたそのことばがどれほど衝撃だったのか、伊吹にはおそらくわからなかっただろう。
『京介?』
「は…い…」
ああ、やっちゃった。
『忙しいですか?』
「え?」
『だから、今からご飯食べに行きますけど、京介も一緒に行きますか?』
「……えええっ!」
『…何』
「あ…いや…その…」
京介は呆然と自分のスラックスを眺めた。
「あの……ごめん……僕」
何やってんだろう?
情けなくて半泣きになりながら、体を起こしてがっくりする。
「僕……ちょっと今すぐは行けない…かも…」
『お仕事ですか?』
「うん……」
心配そうな伊吹の声に、そっと、今夜僕のところへ来ない、と誘ってみたが。
『あ…ごめんなさい。今夜はだめです』
「……わかった……」
僕ってかなりの馬鹿だよね?
さらりと断られて、京介は深く溜め息をついた。
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