3 / 510
第1章
1.闇を見る眼(3)
しおりを挟む
「……本当は話したくないんです」
「見えるってこと?」
「課長と」
「あれ?」
レストランで向かい合い、真崎はきょとんと目を見張ってから、それは困ったなあ、と苦笑いした。
「僕は伊吹さんと話したかったよ?」
「……どういう意味ですか」
「……こういう意味」
楽しそうに笑いあうカップルで埋まっている店を見回して、無邪気そうににこりと笑う。
「食事相手が欲しかったんですか」
「食事相手だけでいいの?」
「課長も家に帰ると誰もいない口ですか」
「前は猫がいたんだけどね」
急にいなくなったと思ったら、玄関先に置かれてたよ、と運ばれてきたミニステーキをフォークに刺しながら真崎は続けた。
「首切られて血塗れで」
「う」
それをそういうもの食べながら言える神経がわからないって。
「何?」
「……恨み買ってるんですか」
「買う覚えはないけどなあ」
くすくす笑って肉汁に濡れた唇にワインを含む。
「……あ、そっか」
ふいにとてもいいことを思いついたように破顔した。
「まず僕を見てもらえばいいんだよね」
「はい?」
「『彼女』のことをあれこれする前に、まず僕を見てもらえば、伊吹さんの能力を確かめられるし」
「確かめなくていいですから」
「僕の問題も解決するし」
「引き受けると言ってませんから」
「じゃあ、そういうことをやったこともあるんだ?」
「っ」
ちろ、と眼鏡の上から上目遣いに見上げてきた瞳はとても楽しそうに細められる。
「やってません」
「お金もらわなかったの」
「だから」
「幾らでも取れたんじゃないの」
「…………失敗したから」
だめだ、これは、と美並はため息をついた。もがけばもがくほど、真崎の罠に嵌まって身動きとれなくなる気がする。
「失敗?」
「相手は納得しなかった。状況が悪化して、私のせいだと言われた。私は手を引いて……」
「……手を引いて?」
「………相手は自殺した、らしいです」
「ふぅん」
真崎は興味なさそうに付け合わせのレタスを口に入れた。しゃくしゃく食べて、や、旨いね、ここ、そう笑いながら、
「直接聞いたわけじゃないの」
「……相手の友達が、そう知らせてきて」
「くだらない」
「は?」
「くだらないよ、そんなこと」
「そんなことって」
人一人死んだんですよ、と思わず声を落として俯くと、デザートどれがいい、とメニューを広げた。
「あのね」
「おいしいもの食べて忘れなさい」
「………課長が聞いたんですよ」
「あー、そっか」
なるほど、とう頷く真崎に、この人って職場と全く違うじゃないかと美並は眉をしかめる。職場では優しくて親切で思い遣りがあって大人だと、悪い噂などほとんど聞かなかったのに、この人格の破綻と言ってもいいぐらいのむちゃくちゃさは何だろう。
「じゃあ、僕の責任もあるから、ここは奢ろう、うん」
だからデザート何でもいいよ?
邪気なく微笑まれて、思わずカフェプリンと指差してしまった。
「トッピングで生クリーム添えがあるから、そっちにするよ。ダイエットしてないよね?」
「あ、はい」
繊細なんだか無神経なんだか、と残ったラディッシュを真崎の代わりにぱくりと噛みつくと、じっと相手がこちらを見ている。
「……ぬぁに」
「僕は大丈夫だよ」
遠慮なくもぐもぐ口を動かしていると、どこかうっとりした顔で微笑んだ真崎は、静かな声で続けた。
「自分の負い目を君に押し付けたりしないから」
「……」
「それとも、僕にも何か見えるから、僕と話したくないの、伊吹さんは」
「………牟田さん」
「ん?」
「課長のこと、好きですよ」
「…………ふぅん」
運ばれてきたデザートを、半分あげるね、と返事も待たずに美並の皿に移しながら、
「くだらない」
真崎は冷ややかに吐き捨てた。
「見えるってこと?」
「課長と」
「あれ?」
レストランで向かい合い、真崎はきょとんと目を見張ってから、それは困ったなあ、と苦笑いした。
「僕は伊吹さんと話したかったよ?」
「……どういう意味ですか」
「……こういう意味」
楽しそうに笑いあうカップルで埋まっている店を見回して、無邪気そうににこりと笑う。
「食事相手が欲しかったんですか」
「食事相手だけでいいの?」
「課長も家に帰ると誰もいない口ですか」
「前は猫がいたんだけどね」
急にいなくなったと思ったら、玄関先に置かれてたよ、と運ばれてきたミニステーキをフォークに刺しながら真崎は続けた。
「首切られて血塗れで」
「う」
それをそういうもの食べながら言える神経がわからないって。
「何?」
「……恨み買ってるんですか」
「買う覚えはないけどなあ」
くすくす笑って肉汁に濡れた唇にワインを含む。
「……あ、そっか」
ふいにとてもいいことを思いついたように破顔した。
「まず僕を見てもらえばいいんだよね」
「はい?」
「『彼女』のことをあれこれする前に、まず僕を見てもらえば、伊吹さんの能力を確かめられるし」
「確かめなくていいですから」
「僕の問題も解決するし」
「引き受けると言ってませんから」
「じゃあ、そういうことをやったこともあるんだ?」
「っ」
ちろ、と眼鏡の上から上目遣いに見上げてきた瞳はとても楽しそうに細められる。
「やってません」
「お金もらわなかったの」
「だから」
「幾らでも取れたんじゃないの」
「…………失敗したから」
だめだ、これは、と美並はため息をついた。もがけばもがくほど、真崎の罠に嵌まって身動きとれなくなる気がする。
「失敗?」
「相手は納得しなかった。状況が悪化して、私のせいだと言われた。私は手を引いて……」
「……手を引いて?」
「………相手は自殺した、らしいです」
「ふぅん」
真崎は興味なさそうに付け合わせのレタスを口に入れた。しゃくしゃく食べて、や、旨いね、ここ、そう笑いながら、
「直接聞いたわけじゃないの」
「……相手の友達が、そう知らせてきて」
「くだらない」
「は?」
「くだらないよ、そんなこと」
「そんなことって」
人一人死んだんですよ、と思わず声を落として俯くと、デザートどれがいい、とメニューを広げた。
「あのね」
「おいしいもの食べて忘れなさい」
「………課長が聞いたんですよ」
「あー、そっか」
なるほど、とう頷く真崎に、この人って職場と全く違うじゃないかと美並は眉をしかめる。職場では優しくて親切で思い遣りがあって大人だと、悪い噂などほとんど聞かなかったのに、この人格の破綻と言ってもいいぐらいのむちゃくちゃさは何だろう。
「じゃあ、僕の責任もあるから、ここは奢ろう、うん」
だからデザート何でもいいよ?
邪気なく微笑まれて、思わずカフェプリンと指差してしまった。
「トッピングで生クリーム添えがあるから、そっちにするよ。ダイエットしてないよね?」
「あ、はい」
繊細なんだか無神経なんだか、と残ったラディッシュを真崎の代わりにぱくりと噛みつくと、じっと相手がこちらを見ている。
「……ぬぁに」
「僕は大丈夫だよ」
遠慮なくもぐもぐ口を動かしていると、どこかうっとりした顔で微笑んだ真崎は、静かな声で続けた。
「自分の負い目を君に押し付けたりしないから」
「……」
「それとも、僕にも何か見えるから、僕と話したくないの、伊吹さんは」
「………牟田さん」
「ん?」
「課長のこと、好きですよ」
「…………ふぅん」
運ばれてきたデザートを、半分あげるね、と返事も待たずに美並の皿に移しながら、
「くだらない」
真崎は冷ややかに吐き捨てた。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
俺様御曹司は十二歳年上妻に生涯の愛を誓う
ラヴ KAZU
恋愛
藤城美希 三十八歳独身
大学卒業後入社した鏑木建設会社で16年間経理部にて勤めている。
会社では若い女性社員に囲まれて、お局様状態。
彼氏も、結婚を予定している相手もいない。
そんな美希の前に現れたのが、俺様御曹司鏑木蓮
「明日から俺の秘書な、よろしく」
経理部の美希は蓮の秘書を命じられた。
鏑木 蓮 二十六歳独身
鏑木建設会社社長 バイク事故を起こし美希に命を救われる。
親の脛をかじって生きてきた蓮はこの出来事で人生が大きく動き出す。
社長と秘書の関係のはずが、蓮は事あるごとに愛を囁き溺愛が始まる。
蓮の言うことが信じられなかった美希の気持ちに変化が......
望月 楓 二十六歳独身
蓮とは大学の時からの付き合いで、かれこれ八年になる。
密かに美希に惚れていた。
蓮と違い、奨学金で大学へ行き、実家は農家をしており苦労して育った。
蓮を忘れさせる為に麗子に近づいた。
「麗子、俺を好きになれ」
美希への気持ちが冷めぬまま麗子と結婚したが、徐々に麗子への気持ちに変化が現れる。
面倒見の良い頼れる存在である。
藤城美希は三十八歳独身。大学卒業後、入社した会社で十六年間経理部で働いている。
彼氏も、結婚を予定している相手もいない。
そんな時、俺様御曹司鏑木蓮二十六歳が現れた。
社長就任挨拶の日、美希に「明日から俺の秘書なよろしく」と告げた。
社長と秘書の関係のはずが、蓮は美希に愛を囁く
実は蓮と美希は初対面ではない、その事実に美希は気づかなかった。
そして蓮は美希に驚きの事を言う、それは......
教師と生徒とアイツと俺と
本宮瑚子
恋愛
高校教師1年目、沢谷敬介。
教師という立場にありながら、一人の男としては屈折した感情を持て余す。
そんな敬介が、教師として男として、日に日に目で追ってしまうのは……、一人の女であり、生徒でもあった。
★教師×生徒のストーリーながら、中身は大人風味の恋愛仕立て。
★未成年による飲酒、喫煙の描写が含まれますが、あくまでストーリー上によるものであり、法令をお守り下さい。
★こちらの作品は、他サイトでも掲載中のものに、加筆・修正を加えたものです。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる