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第2章
5.上司と部下(6)
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コンビニで買ったあんぱんを真崎は半分も食べられなかった。ミネラルウォーターで解熱剤を呑み、それが効く前に移動を始める。
「フル稼動してくれてるはずだから」
時間外とか無闇に邪魔したくないんだよね、と真崎はほてった顔で笑った。
なぜ笑えるのだろう。
電車の隣で座って、少しだけでもと目を閉じている真崎に体を寄せながら、美並は思う。
大石もそうだった。自分がしんどい状況にあって、甘えてもいいとこちらが腕を伸ばしても、どうしても崩れてこない意地というか気概というか、仕事に賭けようとする男性の踏み込みの強さに時々深く気持ちを持っていかれる。
空元気、いじっぱり、強情、そういうことばだけではなくて、自分がやり遂げようとすることに一歩も引かないつもりだけれど、それをこちらに投げてこないと決める頑固さ、というか。
「笑わなくて…いいのに」
苦しいなら苦しいと言えばいいのに。
辛いなら辛いと言えばいいのに。
頑張っているのは知っているから、それ以上追い詰めたりしないのに。
「……男、だから?」
大石はそう言った。
男だから譲れないところはあるんだよ。優しくされたくない場所って言うか、優しくされると返って困る時って言うか。
「美並……」
「……はい?」
「…重く…ない?」
「大丈夫ですよ」
「…ん」
少し目を開けた真崎がほっとした顔で頷く。自分が美並、と呼び捨てているのも気付いていないほど、へたってるのに。
「……気持ちいいな…」
「そうですか」
「……あったかくて……気持ちいい」
蕩けた声が柔らかく耳に届く。
「……夕べも気持ちよかった…」
「あ」
「人肌っていいねえ……」
ぴく、と目の前に立っていた会社員が顔を引きつらせた。
「美並って、どこもかしこもあったかいし」
「ちょ、ちょっと」
「僕、もうとろとろになりそうで」
「か、」
課長、と呼び掛けて美並は焦る。こんな状況で課長と呼んでいいものか。
「どんどん汗かいちゃうし…」
「あ、あの」
「でも、夕べのでかなりすっきりしたかも」
「え、と、あの」
「今夜も一緒だもんね…?」
「……」
おーい、ちょっと待てこら。
会社員が居心地悪そうにもじもじし始めた。見るまいと思っても視線が落ちてしまう、そういう顔で見下ろしてきて、まともに美並の目にぶつかってうろたえた顔で目を逸らせる。浅黒い肌でしっかりした眉、大輔とは違った体育会系で、快活と言うより武骨という感じだ。
「美並…?」
「あ、はい」
呼ばれて視線を動かすと、左肩にもたれた真崎が一瞬鋭い視線で射抜いてきて、あれ、と思った。
「何見てるの」
「何?」
ちらりと眼鏡の奥で動かした視線につられて振り向けば、目の前に立った男が慌てたように顔を背ける。
「何がですか?」
まだ見ていたのか、そんなにこの人は他人に興味あるのかと思っただけで、すぐに真崎を振り向くと、
「鈍感」
「はい?」
おもむろに詰られた。
「課長?」
「……ありがとう。ずいぶん楽になった。もう降りる駅だよね」
「あ、はい」
よいしょ、と立ち上がる真崎に付き添って席を立ち、降りる人波に流されるように歩いていく相手に寄り添って改札に向かった。
「フル稼動してくれてるはずだから」
時間外とか無闇に邪魔したくないんだよね、と真崎はほてった顔で笑った。
なぜ笑えるのだろう。
電車の隣で座って、少しだけでもと目を閉じている真崎に体を寄せながら、美並は思う。
大石もそうだった。自分がしんどい状況にあって、甘えてもいいとこちらが腕を伸ばしても、どうしても崩れてこない意地というか気概というか、仕事に賭けようとする男性の踏み込みの強さに時々深く気持ちを持っていかれる。
空元気、いじっぱり、強情、そういうことばだけではなくて、自分がやり遂げようとすることに一歩も引かないつもりだけれど、それをこちらに投げてこないと決める頑固さ、というか。
「笑わなくて…いいのに」
苦しいなら苦しいと言えばいいのに。
辛いなら辛いと言えばいいのに。
頑張っているのは知っているから、それ以上追い詰めたりしないのに。
「……男、だから?」
大石はそう言った。
男だから譲れないところはあるんだよ。優しくされたくない場所って言うか、優しくされると返って困る時って言うか。
「美並……」
「……はい?」
「…重く…ない?」
「大丈夫ですよ」
「…ん」
少し目を開けた真崎がほっとした顔で頷く。自分が美並、と呼び捨てているのも気付いていないほど、へたってるのに。
「……気持ちいいな…」
「そうですか」
「……あったかくて……気持ちいい」
蕩けた声が柔らかく耳に届く。
「……夕べも気持ちよかった…」
「あ」
「人肌っていいねえ……」
ぴく、と目の前に立っていた会社員が顔を引きつらせた。
「美並って、どこもかしこもあったかいし」
「ちょ、ちょっと」
「僕、もうとろとろになりそうで」
「か、」
課長、と呼び掛けて美並は焦る。こんな状況で課長と呼んでいいものか。
「どんどん汗かいちゃうし…」
「あ、あの」
「でも、夕べのでかなりすっきりしたかも」
「え、と、あの」
「今夜も一緒だもんね…?」
「……」
おーい、ちょっと待てこら。
会社員が居心地悪そうにもじもじし始めた。見るまいと思っても視線が落ちてしまう、そういう顔で見下ろしてきて、まともに美並の目にぶつかってうろたえた顔で目を逸らせる。浅黒い肌でしっかりした眉、大輔とは違った体育会系で、快活と言うより武骨という感じだ。
「美並…?」
「あ、はい」
呼ばれて視線を動かすと、左肩にもたれた真崎が一瞬鋭い視線で射抜いてきて、あれ、と思った。
「何見てるの」
「何?」
ちらりと眼鏡の奥で動かした視線につられて振り向けば、目の前に立った男が慌てたように顔を背ける。
「何がですか?」
まだ見ていたのか、そんなにこの人は他人に興味あるのかと思っただけで、すぐに真崎を振り向くと、
「鈍感」
「はい?」
おもむろに詰られた。
「課長?」
「……ありがとう。ずいぶん楽になった。もう降りる駅だよね」
「あ、はい」
よいしょ、と立ち上がる真崎に付き添って席を立ち、降りる人波に流されるように歩いていく相手に寄り添って改札に向かった。
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