『闇を闇から』

segakiyui

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第2章

5.上司と部下(5)

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 三カ所目は意外なところ、少し離れたところにある向田市役所だ。
「今日はお休みなんじゃ」
「いいんだよ」
 真崎が立ち寄ったのは市役所前にある「情報ボックス」と呼ばれるコーナーだ。
「んー…」
 そこにはいろんなチラシやパンフレットが並べられている。
 一つ一つを見ていきながら、真崎は数枚のチラシとパンフレット、それに市の広報を抜き取った。
「イベント、ですか?」
「まあね」
 それより、伊吹さん。
「ここへ来るまでの周囲の反応はどうだった?」
「えーと」
 まるで探偵の助手になったみたいだと思いながら、美並はさっきと同じ要領で周囲の動きを思い返す。
「今度は結構見ている人がいました」
 10~20代の人が多かったし、30~40代の人も、それより上の人も気にしていました。
「性別の差はあまりなかったけど……そうですね」
 気のせいかもしれないけれど、と美並は断って付け加えた。
「年輩の方はちらっと見るけど、すぐに目を逸らせてしまうって感じもありました」
「うん、そうだった」
 真崎はチラシとパンフレットにざっと目を通しては袋に入れている。
「……もう一回、ここに来るか」
「え?」
「やっぱりきちんと確認しておく必要がありそうだし」
 広報もろともに片付けて、次へ行こうか、と向きを変え、その一瞬、微かに体を揺らせる。
「課長?」
「はい?」
「一旦戻りましょうか」
「大丈夫だよ」
「熱、薬で抑えてるんじゃないですか?」
「……鋭いね」
 肩越しに見遣ってきた瞳が軽く潤んでいる。目元が淡く染まった顔は、熱っぽいというよりは溶けそうなストロベリークリームを思わせる妖しさだが、本人に自覚はないのだろう、にっこりと笑った。
「でも、もうちょっと頑張らないと」
「……熱、上がってませんか?」 
 側に寄って腕に触れてどきりとした。腕まで熱いということは、結構苦しいはずだ。
「12時間もつって書いてあったけど?」
「薬効のことじゃありません」
 朝、食べたって言いましたよね、と確認する。
 出かける前にトースト食べる、と美並にはすすめてくれたけれど、自分は食べたと言い張るばかり、冷蔵庫には何もなかったですよ、と言い返すと、カロリーブランがあったんだよ、と躱されたままになっている。
「嘘ついてません?」
「ついてないよ?」
「カロリーブラン、幾つ食べたの?」
「えーと……一箱」
「………ゴミ箱にはなかったですよね?」
「違うところに捨てたんだよ」
「……課長」
「……大丈夫だよ」
 じろりと睨むと、困ったように笑う。
「慣れてるから」
「慣れてる、じゃねえ」
「伊吹さんの体じゃないでしょ」
「課長一人の体でもないです」
「え」
「あ」
「………それって」
「…………心配してるんです」
「……うん……」
 すううっと赤みを昇らせていく真崎が異常に可愛らしく見える。
「あり…がと」
「……わかりました、じゃあ次へ行きましょう」
 美並は近寄って、真崎の側に腕を抱えてくっついた。あたった体のあちこちから、すぐに滲むような熱が伝わってきて思わず唇を引き締める。
「その前に薬局へ寄ります」
「え?」
「解熱剤買って呑みましょう……何か食べられる?」
「……おにぎり……」
「は?」
「………伊吹さんの……おにぎり、食べたい…」
 掠れた声で呟いて懐いてきた相手を一瞬ぎゅっと抱き締める。
「帰ったら作ります。で、今は?」
「……あんぱん…ぐらい?」
「コンビニ行きましょうか」
「うん」
 すり、と頭に頬を擦って甘えた真崎が、小さく溜め息をついて体を起こす。気を張っているだけでかなり苦しいのかも知れない。
「後はどこ?」
「後は……鳴海工業、だな」
「鳴海工業?」
「岩倉産業の下請け会社」
 この帽子作ってるところだよ、と真崎は美並の頭を軽く叩いた。
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