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第2章
6.バッド・ビート(5)
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「おいおい」
「こいつはいいから」
戸惑った顔をしてくまを見送る伊吹を一気に腕の中におさめて、まだ熱くておさまりきれない腰を押し付けた。
「僕を抱いてよ」
「うっ」
あたったのは確実に伝わったらしく、伊吹がひくりと唇を引きつらせて見上げてくる。微かに怯えた瞳に微笑む。
可愛い。
「……元気ですね」
警戒するように目を細める相手を覗き込む。
「うん、元気でしょ」
「……そっちのことは言ってない」
微かに逃げかけた腰を引き寄せてぎゅ、っと抱いた。対照的に無邪気な顔で笑ってみせる。
ちょうだい、そうねだってんだけど、もっと直接的に欲しがってもいいの?
京介の内側の声が聞こえたように伊吹が首筋からじわじわと赤みを昇らせていく。
「風邪はっ」
「治った」
「嘘つけ」
「ほんと。知らないの、伊吹さん?」
人肌っていいんだよ、そう言いながら、ジッパーが降りたままのジャージの中についた跡が、薄く染まった肌により鮮やかに浮かび上がるのを楽しんだ。
まるで桜湯の中で紅梅が開くみたいだよね。
ベッドの中のことをゆっくり思い出して、少し安心して落ち着いてきた。
「あったかくてしっとりしてて気持ちよかったよ」
おいしかった、と言いかけて寸前ことばを変える。
「ごちそうさま」
「っ、まさかっ」
とん、と弾かれて思わず手を緩めると、伊吹はうろたえた顔で洗面所に走っていった。まもなく、
「あ~~」
不安定な声に思わずくすくす笑って、京介は椅子に置いていた鞄から二つのニット帽を手にして眺める。
本当は一人で行こうと思ってたけど。
無意識に携帯が震えてないかを確認した。
一緒に行っても、いいよね、まだ僕は婚約者、のはずだから。
ひょっとしたら、本当は夕べが最後の夜で、京介はそれを逃した大馬鹿者なのかもしれないけど。
それ以上を考えまいとして、ニット帽を手に洗面所の鏡に向かってひきつっている伊吹に話しかけて帽子を被せた。
あ、なんだ、こういうのも似合うんじゃないか。
鏡の中の伊吹は戸惑った顔で見返してくる。鎖骨近くに小さな赤い痕の花をアクセサリーみたいに飾っているのが、きょとんとした表情と相反する妖しさだ。真後ろに立っている自分とまたもやきつくなってくる下半身に、背中に被さって抱き込んで、それから何をするかなんて、男だったら誰だって同じことを考えるだろうと思ってしまった。
たぶん、きっと大石も、こんな風に煽られたに違いない。
邪気なく見つめてくる瞳を酔わせて潤ませたいと願って、身動きできないように両手を押さえつけただろう。
「これを被ってデートしましょう、伊吹さん。僕と初ペアルックだよね」
縛っておけないなら世界に見せつけてやりたい。この人は京介のものなのだ、と。
「げ」
げ、って何。
伊吹の強ばった顔に少し傷ついた。
「こいつはいいから」
戸惑った顔をしてくまを見送る伊吹を一気に腕の中におさめて、まだ熱くておさまりきれない腰を押し付けた。
「僕を抱いてよ」
「うっ」
あたったのは確実に伝わったらしく、伊吹がひくりと唇を引きつらせて見上げてくる。微かに怯えた瞳に微笑む。
可愛い。
「……元気ですね」
警戒するように目を細める相手を覗き込む。
「うん、元気でしょ」
「……そっちのことは言ってない」
微かに逃げかけた腰を引き寄せてぎゅ、っと抱いた。対照的に無邪気な顔で笑ってみせる。
ちょうだい、そうねだってんだけど、もっと直接的に欲しがってもいいの?
京介の内側の声が聞こえたように伊吹が首筋からじわじわと赤みを昇らせていく。
「風邪はっ」
「治った」
「嘘つけ」
「ほんと。知らないの、伊吹さん?」
人肌っていいんだよ、そう言いながら、ジッパーが降りたままのジャージの中についた跡が、薄く染まった肌により鮮やかに浮かび上がるのを楽しんだ。
まるで桜湯の中で紅梅が開くみたいだよね。
ベッドの中のことをゆっくり思い出して、少し安心して落ち着いてきた。
「あったかくてしっとりしてて気持ちよかったよ」
おいしかった、と言いかけて寸前ことばを変える。
「ごちそうさま」
「っ、まさかっ」
とん、と弾かれて思わず手を緩めると、伊吹はうろたえた顔で洗面所に走っていった。まもなく、
「あ~~」
不安定な声に思わずくすくす笑って、京介は椅子に置いていた鞄から二つのニット帽を手にして眺める。
本当は一人で行こうと思ってたけど。
無意識に携帯が震えてないかを確認した。
一緒に行っても、いいよね、まだ僕は婚約者、のはずだから。
ひょっとしたら、本当は夕べが最後の夜で、京介はそれを逃した大馬鹿者なのかもしれないけど。
それ以上を考えまいとして、ニット帽を手に洗面所の鏡に向かってひきつっている伊吹に話しかけて帽子を被せた。
あ、なんだ、こういうのも似合うんじゃないか。
鏡の中の伊吹は戸惑った顔で見返してくる。鎖骨近くに小さな赤い痕の花をアクセサリーみたいに飾っているのが、きょとんとした表情と相反する妖しさだ。真後ろに立っている自分とまたもやきつくなってくる下半身に、背中に被さって抱き込んで、それから何をするかなんて、男だったら誰だって同じことを考えるだろうと思ってしまった。
たぶん、きっと大石も、こんな風に煽られたに違いない。
邪気なく見つめてくる瞳を酔わせて潤ませたいと願って、身動きできないように両手を押さえつけただろう。
「これを被ってデートしましょう、伊吹さん。僕と初ペアルックだよね」
縛っておけないなら世界に見せつけてやりたい。この人は京介のものなのだ、と。
「げ」
げ、って何。
伊吹の強ばった顔に少し傷ついた。
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