『闇を闇から』

segakiyui

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第2章

7.彼女と彼(7)

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「…しかしなあ」
 第二会議室を京介に続いて出てきながら、細田は呆れ返っている。
「ここでドロップシッピングと来るとはなあ」
「だって」
 くすりと京介は笑って、溜め息を繰り返す相手の顔を見た。
「ウチは流通なんですから」
「あそこまで岩倉がやってきていて、だぞ?」
「だからってこっちが乗らなくちゃならないことはないでしょう」
「さすが真崎大明神だな」
 細田の後ろから高山が口を挟んできた。
「大胆なことをおっしゃるわけだ」
 じろりと真崎を見遣ってきた目には暗い険がある。
「それとも、プライドがないのかな、君には」
 人事課課長、高山新作は五十過ぎだがまだまだエネルギッシュなところがある。女性への興味もその一環で、自分より年齢が下の相手は基本的に自分を好意的に見るべきだと思っている節があって、それが結構煙たがられているのを薄々は感じているらしく、女性に評判のいい新人社員に絡むのも多い。
「プライドじゃ仕事はできませんからねえ」
 さらりといつも通りに流した真崎に、細田がその場を去るに去れずに足を止める。
「男がプライドなくしたらおしまいだろうが」
「高山課長」
 珍しいな、と言う顔で細田が首を傾げた。
「真崎の提案、まずかったんですか」
 高山と細田はほぼ同期の入社、昇進程度も足並み揃えているから、うるさ方に入る高山も細田には一歩引く、それを踏まえての確認らしい。
「私も悪くないと思ったんですが」
「そうですか、いや、今細田さんは真崎君の提案に不満だったように聞こえたので」
 人事が同席していたのは『開発管理課』の人員配置も摺り合わせたせいだ。総務の富崎、経理の赤来と一通り経営部門系も資料を受け取って帰り、問題があれば日曜午後までに連絡をいれてくることになっている。
「ドロップシッピングまで扱うんなら、アルバイトには荷が重いんじゃないかと心配したまでですよ」
 高山が神経質そうな視線を真崎に走らせた。
『伊吹美並、あれ、こっちにもらえませんか』
 開発管理課のスタッフをどう揃えていくかというところで、高崎、石塚を入れるのは流れとして、もう一人事務系アシスタントに伊吹を入れたい、そう主張した真崎に、高山がしらっと切り出してきたのはついさっきだ。
『開発管理となると、もっと熟練した事務がいるでしょう。こっちのスタッフと入れ替えた方がいいんじゃないですか』
 そう言って高山が名前を上げてきたのは、ベテランの北岡、確かに事務処理は優れているが定年まで後数年を残す人間に商品開発の発想は難しいんじゃないか、そう細田に突っ込まれて、年齢で仕事をするんじゃないと思うが、と苦い顔になっていた。
『公私混同も困るからね』
 真崎を見遣ってきた視線にはねっとりするような底光りするものがあって、思い出したのは伊吹のことを拾いものだった、と羨ましがった顔で。
 会議が始まる前にこっそりと赤来が「伊吹さんを高山さんが狙ってますから注意したほうがいいですよ」と教えてくれた。何でも伊吹の卒なく的確な仕事ぶりをえらく気に入っていて、流通管理課にはもう石塚がいるんだから、あそこに伊吹は必要ないだろうとあちこちで言い回っているらしい。
 ただ伊吹を入れるときに高山自体が渋ったのを真崎が拾った経過があるから、それほど大っぴらに動かせなかったというだけで、機会があれば何とか人事課に引き抜けないかとずっと考えているようだ、と聞かされて、真崎は苦笑した。
 高山の意図は見え見えで、それこそ熟練していない無能なスタッフを人事に欲しがるわけもなく、つまりは伊吹を手元に置きたいということ、それが仕事のことだけではなさそうなのが気に触った。
「伊吹さんはよくやってくれている、そうだろう?」
「ええ、もちろん」
 細田が振り向くのに、真崎は極上の笑みで答える。
「石塚さんも頼りにしてますから、いいコンビですよ」
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