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第2章
7.彼女と彼(8)
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「そうか? 始めは何を考えてるかわからないと、石塚さんも牟田くんも俺にこぼしてたぞ」
石塚は高山と同期に入っている。他業種に居た高山が桜木通販に入ったと同時に、石塚が新入社員として入ってきて、お互いわけがわからないなりに頑張ってきたんだ、と酒の席で聞かされたことがある。
「最近もこぼしてますか」
微笑みながら聞いてやると、いやそれは、と口を濁したあたり、本当に最初のころの話だったのだろう。
確かに伊吹さんのクールさは誤解されやすいよね、と思いつつ、
「どういう編成になるかまだ未定ですし、ひょっとしたら事務だけではなく、商品開発のためにあちこち出かけてもらうかもしれませんしね」
だからすぐに動ける、心身ともに融通がききやすい人がいいんですが。
北岡が必ず夕方五時には引き上げて、介護をしている母親の元に急ぐことを知ったうえの切り返しに、高山が険しい顔で押し黙った。
「とりあえず叩き台ということでいいんじゃないですか」
細田が取りなして、高山は不愉快そうに眉をしかめたまま離れていった。
「まあ確かに、ドロップシッピングまでやるとなると、アルバイトじゃなあと思う気持ちはわかるが」
見送りながら細田が溜め息をつく。ゆっくり振り向いて、少し心配そうな顔になった。
「……『Brechen』、いや、大石がうんと言うかね?」
「言わせてみせますよ」
御安心を。
真崎は笑みを深める。
御安心をも何も、こける率のほうが高いぐらいだが、今ここでそれを指摘しても細田を不安に陥らせて、物事をややこしくするだけだ。
絶対の安定感を浮かべた表情で保証すると、細田も月曜日の企画提案に納得した。
「じゃあ月曜日に大会議室、九時だからな。資料は夕方に仕上がるな」
「メール便で送っておきます」
「頼む」
ほっとした顔で品質管理課の部屋へ細田が消えると、京介も吐息をついて流通管理課の扉を開けた。無意識に伊吹の席を見る。やっぱり来ていない。
「お昼、どうされます?」
「あ、僕、まとめなくちゃいけないものがあるから」
石塚さん、お先にどうぞ。
京介が微笑むと、何か言いたげな顔で石塚が動きを止めた。
「……何?」
「……伊吹さん、岩倉産業の大石さんと親しいんですか?」
「……どうして?」
さりげなく席についてパソコンを立ち上げながら尋ねてみる。
「何か連絡でも入った?」
「伊吹さんを、って……朝もお電話が」
「……そう」
ぴく、と震えたのはキーボードの上の指先だけ、それでも打つリズムは乱さないまま、京介は会話を続ける。
「伝言があるの?」
「いえ、直接話したいから、と」
「そう………じゃ、またかかってくるでしょう」
僕が聞いておくよ、そう言って笑い返しながら、誰も彼も伊吹さんが欲しいのかよ、と胸の奥で毒づいた。
石塚は高山と同期に入っている。他業種に居た高山が桜木通販に入ったと同時に、石塚が新入社員として入ってきて、お互いわけがわからないなりに頑張ってきたんだ、と酒の席で聞かされたことがある。
「最近もこぼしてますか」
微笑みながら聞いてやると、いやそれは、と口を濁したあたり、本当に最初のころの話だったのだろう。
確かに伊吹さんのクールさは誤解されやすいよね、と思いつつ、
「どういう編成になるかまだ未定ですし、ひょっとしたら事務だけではなく、商品開発のためにあちこち出かけてもらうかもしれませんしね」
だからすぐに動ける、心身ともに融通がききやすい人がいいんですが。
北岡が必ず夕方五時には引き上げて、介護をしている母親の元に急ぐことを知ったうえの切り返しに、高山が険しい顔で押し黙った。
「とりあえず叩き台ということでいいんじゃないですか」
細田が取りなして、高山は不愉快そうに眉をしかめたまま離れていった。
「まあ確かに、ドロップシッピングまでやるとなると、アルバイトじゃなあと思う気持ちはわかるが」
見送りながら細田が溜め息をつく。ゆっくり振り向いて、少し心配そうな顔になった。
「……『Brechen』、いや、大石がうんと言うかね?」
「言わせてみせますよ」
御安心を。
真崎は笑みを深める。
御安心をも何も、こける率のほうが高いぐらいだが、今ここでそれを指摘しても細田を不安に陥らせて、物事をややこしくするだけだ。
絶対の安定感を浮かべた表情で保証すると、細田も月曜日の企画提案に納得した。
「じゃあ月曜日に大会議室、九時だからな。資料は夕方に仕上がるな」
「メール便で送っておきます」
「頼む」
ほっとした顔で品質管理課の部屋へ細田が消えると、京介も吐息をついて流通管理課の扉を開けた。無意識に伊吹の席を見る。やっぱり来ていない。
「お昼、どうされます?」
「あ、僕、まとめなくちゃいけないものがあるから」
石塚さん、お先にどうぞ。
京介が微笑むと、何か言いたげな顔で石塚が動きを止めた。
「……何?」
「……伊吹さん、岩倉産業の大石さんと親しいんですか?」
「……どうして?」
さりげなく席についてパソコンを立ち上げながら尋ねてみる。
「何か連絡でも入った?」
「伊吹さんを、って……朝もお電話が」
「……そう」
ぴく、と震えたのはキーボードの上の指先だけ、それでも打つリズムは乱さないまま、京介は会話を続ける。
「伝言があるの?」
「いえ、直接話したいから、と」
「そう………じゃ、またかかってくるでしょう」
僕が聞いておくよ、そう言って笑い返しながら、誰も彼も伊吹さんが欲しいのかよ、と胸の奥で毒づいた。
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