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第2章
8.カード・スピーク(4)
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「はい、できましたよ」
お風呂お先どうぞと促され、済ませて京介が出てくると、部屋の中にはいい匂いが広がっていた。寝室の小箱を入れた枕元のケースをちらっとみやって、キッチンに向かう。
「今夜、は無理かな」
体が本調子じゃないし、でも。
気分的には十分いけそうだなんて、それこそ何年ぶりだか。
「……できる、かな」
『美並の抱き方も知らないくせに』
大石のことばが耳の底を掠めて、無意識に眉を寄せた。
じゃあ、大石は知ってるってことだよね?
伊吹を抱いたことがあるってことだよね?
抱き方。
どんなふうに、伊吹の服を脱がせて。
どこから触れて。
どこまで指で、どこから唇で辿って、どこからもっと熱いもので。
「何ですか?」
ごくん、と唾を呑み込んだのに伊吹が不思議そうに顔を上げる。
「いや、おいしそうだと、思って」
熱に掠れた声をごまかすように淹れてもらったお茶を含み、海苔を巻いたおにぎりを掴む。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
微笑む伊吹の唇を見つめる。
ベッドの中でもそんなふうに、あっさり許してくれるだろうか。京介を拒まずに受け入れてくれるだろうか。
「どうですか?」
「え?」
「味……塩辛くない?」
「あっ…うん」
かあああっと一気に顔に血が昇ったのは、とんでもない連想から。
「だい、じょうぶ」
「ならいいんですけど」
「……ずっと食べたかったんだよね」
「え?」
「伊吹さんの、おにぎり」
「ずっと?」
「おいしそうだなあって、思ってた」
「おにぎり……? 見たことありましたっけ?」
「うん」
あの時は、自分がここまで伊吹に夢中になるとは思っていなかったけれど。
「味噌汁もおいしい」
「よかった」
ほっと吐息をつく伊吹の指先に薄い切り傷を見つける。
「怪我したの?」
「ん、包丁が滑って」
「見せて」
「大丈夫ですよ」
「見せてよ」
かなりお腹も膨れてきたし、と席を立って回り込む。
「ほら」
「あ、はい」
こくこくん、と味噌汁を呑み込んだ伊吹が指を差し出してくる。
「掠っただけです、血もほとんど出てないし」
「ほんと?」
「ほんと……っ、課長っ」
ちゅぷんと指を銜えた。慌てて手を引こうとした伊吹の手首を握って引き寄せ、そのまま指先の傷を舌で探る。
「こ、らっ」
「んっ」
「離して」
「んや」
「っあ」
軽く歯をたてて噛んでほくそ笑むと、伊吹が見る見る真っ赤になった。
わあい。
頭の中でぱぁん、と何かが弾け飛んだような気持ちになって、伊吹を見つめたまま舌を伸ばし絡めて指を舐め回す。
「課長っ」
「ん~」
「食べるのはおにぎりっ」
「ん、ん、ん」
「京介っ!」
「んっ……何すんの」
あやうくもう片方の手で殴られそうになって、仕方なしに指を離して身を引いた。
「血が出てないか確かめたんでしょ?」
「違うだろ」
「ほんとだ、出てないね」
「違う、だろ」
手を抱えて睨み返してくる伊吹がうっすら瞳を潤ませているのに、にこにこ笑い返した。
「ごちそうさま。おいしかったよ」
お風呂お先どうぞと促され、済ませて京介が出てくると、部屋の中にはいい匂いが広がっていた。寝室の小箱を入れた枕元のケースをちらっとみやって、キッチンに向かう。
「今夜、は無理かな」
体が本調子じゃないし、でも。
気分的には十分いけそうだなんて、それこそ何年ぶりだか。
「……できる、かな」
『美並の抱き方も知らないくせに』
大石のことばが耳の底を掠めて、無意識に眉を寄せた。
じゃあ、大石は知ってるってことだよね?
伊吹を抱いたことがあるってことだよね?
抱き方。
どんなふうに、伊吹の服を脱がせて。
どこから触れて。
どこまで指で、どこから唇で辿って、どこからもっと熱いもので。
「何ですか?」
ごくん、と唾を呑み込んだのに伊吹が不思議そうに顔を上げる。
「いや、おいしそうだと、思って」
熱に掠れた声をごまかすように淹れてもらったお茶を含み、海苔を巻いたおにぎりを掴む。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
微笑む伊吹の唇を見つめる。
ベッドの中でもそんなふうに、あっさり許してくれるだろうか。京介を拒まずに受け入れてくれるだろうか。
「どうですか?」
「え?」
「味……塩辛くない?」
「あっ…うん」
かあああっと一気に顔に血が昇ったのは、とんでもない連想から。
「だい、じょうぶ」
「ならいいんですけど」
「……ずっと食べたかったんだよね」
「え?」
「伊吹さんの、おにぎり」
「ずっと?」
「おいしそうだなあって、思ってた」
「おにぎり……? 見たことありましたっけ?」
「うん」
あの時は、自分がここまで伊吹に夢中になるとは思っていなかったけれど。
「味噌汁もおいしい」
「よかった」
ほっと吐息をつく伊吹の指先に薄い切り傷を見つける。
「怪我したの?」
「ん、包丁が滑って」
「見せて」
「大丈夫ですよ」
「見せてよ」
かなりお腹も膨れてきたし、と席を立って回り込む。
「ほら」
「あ、はい」
こくこくん、と味噌汁を呑み込んだ伊吹が指を差し出してくる。
「掠っただけです、血もほとんど出てないし」
「ほんと?」
「ほんと……っ、課長っ」
ちゅぷんと指を銜えた。慌てて手を引こうとした伊吹の手首を握って引き寄せ、そのまま指先の傷を舌で探る。
「こ、らっ」
「んっ」
「離して」
「んや」
「っあ」
軽く歯をたてて噛んでほくそ笑むと、伊吹が見る見る真っ赤になった。
わあい。
頭の中でぱぁん、と何かが弾け飛んだような気持ちになって、伊吹を見つめたまま舌を伸ばし絡めて指を舐め回す。
「課長っ」
「ん~」
「食べるのはおにぎりっ」
「ん、ん、ん」
「京介っ!」
「んっ……何すんの」
あやうくもう片方の手で殴られそうになって、仕方なしに指を離して身を引いた。
「血が出てないか確かめたんでしょ?」
「違うだろ」
「ほんとだ、出てないね」
「違う、だろ」
手を抱えて睨み返してくる伊吹がうっすら瞳を潤ませているのに、にこにこ笑い返した。
「ごちそうさま。おいしかったよ」
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