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第2章
10.ブラインド・ベット(6)
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こうなると明はめったなことではしゃべらない。やれやれと溜め息をついて美並は話を変える。
「七海さんが、何を心配してるの?」
「ああ、うん」
ぎゅっと握った手でパスタを二つ折りにして鍋に煮立った湯に放り込む。明得意のスープスパゲッティを作ってくれるつもりらしい。まかせて着替え、ざっと顔を洗って部屋に戻ってくると、テーブルにはもう皿とフォーク、スプーンが並べられている。
「自分のせいで戻ってこないんじゃないかって」
「違うよ」
思わず反論した。
「そんなことは関係ない」
「俺もそうだと言った。姉ちゃんは目が見えないとか、そういう『その他』のことで七海を拒んだりしないって」
明の彼女が視力を失っていることを知ったのは最近だ。両親は早くに亡くなったらしいが、おばさんと言うのが彼女の音楽系の素質を見抜いてくれ幼い頃から訓練してくれ、今ではハープ奏者としてイベントや結婚式で活躍している。
「だけど、って言うんだ、家のことができないとか、子供が産まれたらとか、そういうことを心配されたりするのは当然だって…ほい、パスタ。食べよう」
「あ、ありがと」
どさりと腰を降ろした明は炊飯器の具合を見ながら、この後のことを算段している顔、くるりと振り返ってにやっと笑った。
「だから、姉ちゃんがずっと帰ってこないと、俺はずっと七海を悲しませなくちゃならないから、凄く辛いんだけど」
「戻るってば」
「いつ」
「う…」
「日にちを七海に教えてやりたい」
「……えーと、あっちの都合も聞かなくちゃならないし」
「あっち?」
「だから、その、付き合ってる、人の」
「ああ、なるほど」
くるくるんと巻き付けたパスタをぱくぱく口に運びながら明が頷く。
「じゃあ、今週の土日とかでどう」
「いきなり?」
「先延ばしして何かある?」
この先って12月にかかってったらイベントだらけだし、七海も時間取れなくなるし。
「忙しいの?」
「うん。前はデパートとかのホールが多かったけれど、今ファミリーコンサートみたいなのによく呼ばれてる」
「そっか……」
目が見えなくても七海には七海の仕事があり立派に社会人としてやっている、それが偉いと褒めた父親に、明は『見えなくても』って何だよ、と食ってかかったことがある。眼鏡かけてても社会人として働いてて立派だなんて言わないだろ、と。思わぬ明の剣幕に、両親ともにそういう意味ではない、と慌てて弁解したものの、そう言い返してしまうほど、明は七海の過ごしてきた日々を寄り添ってきたのだとよくわかる出来事だった。
そして今、その大事な相手を不安がらせている身内に直談判しに来たのだ、そう思って美並はちょっとくすぐったくなる。
大きくなっちゃったなあ、あの小さな『あきくん』が。
「わかった、土日大丈夫か、聞いてみる」
「約束な」
「うん」
今日の様子ではそれほど強く嫌がらないんじゃないかと思うんだけど、そう美並が考えていると、御飯が炊けたと明が卵チャーハンを作りに立ちながら尋ねてきた。
「そうだ、相手の名前もまだ聞いてないな。なんて言う人」
「えーと、真崎、京介……今勤めてる課の課長、なんだけど」
「げ」
「明?」
ぎくん、と明が固まって思わずフォークを止めた。
「七海さんが、何を心配してるの?」
「ああ、うん」
ぎゅっと握った手でパスタを二つ折りにして鍋に煮立った湯に放り込む。明得意のスープスパゲッティを作ってくれるつもりらしい。まかせて着替え、ざっと顔を洗って部屋に戻ってくると、テーブルにはもう皿とフォーク、スプーンが並べられている。
「自分のせいで戻ってこないんじゃないかって」
「違うよ」
思わず反論した。
「そんなことは関係ない」
「俺もそうだと言った。姉ちゃんは目が見えないとか、そういう『その他』のことで七海を拒んだりしないって」
明の彼女が視力を失っていることを知ったのは最近だ。両親は早くに亡くなったらしいが、おばさんと言うのが彼女の音楽系の素質を見抜いてくれ幼い頃から訓練してくれ、今ではハープ奏者としてイベントや結婚式で活躍している。
「だけど、って言うんだ、家のことができないとか、子供が産まれたらとか、そういうことを心配されたりするのは当然だって…ほい、パスタ。食べよう」
「あ、ありがと」
どさりと腰を降ろした明は炊飯器の具合を見ながら、この後のことを算段している顔、くるりと振り返ってにやっと笑った。
「だから、姉ちゃんがずっと帰ってこないと、俺はずっと七海を悲しませなくちゃならないから、凄く辛いんだけど」
「戻るってば」
「いつ」
「う…」
「日にちを七海に教えてやりたい」
「……えーと、あっちの都合も聞かなくちゃならないし」
「あっち?」
「だから、その、付き合ってる、人の」
「ああ、なるほど」
くるくるんと巻き付けたパスタをぱくぱく口に運びながら明が頷く。
「じゃあ、今週の土日とかでどう」
「いきなり?」
「先延ばしして何かある?」
この先って12月にかかってったらイベントだらけだし、七海も時間取れなくなるし。
「忙しいの?」
「うん。前はデパートとかのホールが多かったけれど、今ファミリーコンサートみたいなのによく呼ばれてる」
「そっか……」
目が見えなくても七海には七海の仕事があり立派に社会人としてやっている、それが偉いと褒めた父親に、明は『見えなくても』って何だよ、と食ってかかったことがある。眼鏡かけてても社会人として働いてて立派だなんて言わないだろ、と。思わぬ明の剣幕に、両親ともにそういう意味ではない、と慌てて弁解したものの、そう言い返してしまうほど、明は七海の過ごしてきた日々を寄り添ってきたのだとよくわかる出来事だった。
そして今、その大事な相手を不安がらせている身内に直談判しに来たのだ、そう思って美並はちょっとくすぐったくなる。
大きくなっちゃったなあ、あの小さな『あきくん』が。
「わかった、土日大丈夫か、聞いてみる」
「約束な」
「うん」
今日の様子ではそれほど強く嫌がらないんじゃないかと思うんだけど、そう美並が考えていると、御飯が炊けたと明が卵チャーハンを作りに立ちながら尋ねてきた。
「そうだ、相手の名前もまだ聞いてないな。なんて言う人」
「えーと、真崎、京介……今勤めてる課の課長、なんだけど」
「げ」
「明?」
ぎくん、と明が固まって思わずフォークを止めた。
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