『闇を闇から』

segakiyui

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第3章

5.夢現(1)

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 瞬きをして、美並は記憶から戻った。
 左肩に甘えて眠る真崎を確認してほっとする。
 何もかもを美並に委ねて、温かな布団の中で、今にも眠り込みそうになりながら真崎が打ち明けた話はひどかった。
 駅ですれ違った大輔。美並のマフラーで縛られて、誘い込まれて弄ばれて。
『ごめん……マフラー、駄目にして』
 そう真崎は謝った。
 そんな立場に追い込まれても、それほど真崎が『ニット・キャンパス』にこだわったのは、きっと美並と一緒に居ることを選んだせいだ。
 真崎は、大輔には応じない、『ニット・キャンパス』以外の手を考える、そうも言っていた。
 けれど、そんなこと、本当にできるのだろうか。
 美並の指先で駆け上がった真崎の声を思い出すと、煽られると同時に不安にもなる。
 あれほどの真崎の華を大輔もまた見ている。諦められるのだろうか、遮られたからといって。
 思わずまた左肩を振り向いた。
 真崎は美並の身体に頬を埋め、依然無防備な顔で眠っている。目の下にさすがに隈ができているが、表情はゆったりと穏やかで寛いでいる。脚にあたっているものと同じく、自分の一番脆いところを美並に預けて、きっと初めて重荷を降ろし切っているのだ。
 守りたい。
 もう十分苦しんで傷ついてきたのだから、この先はただひたすらに自分のために生きさせてやりたい。
 それに。
 苦笑しながらも自分の中に生まれてしまった、真崎への執着を認める。
 美並もまた手放したくない、真崎が美並を拒まない限り。
 そのために美並に何ができるだろう。
 何をすればいいんだろう。
「『ニット・キャンパス』…」
 真崎は他の手を考えると言ったけど、あれは面白そうな企画だ。真崎もきっとそう思っている。
 何とか参加できる手立てはないか、大輔の手を通さずに。明や七海、それにゲンナイとか言う男性や高校生ぐらいの少年も関係者だったようだ。そういう伝手は利用できないのか。
 でも、ただ頼んだからと言って参加させてはくれるまい。
 そう思った瞬間、また微かな記憶が美並の意識を掠めた。
『あかい』
「あれ…?」
 耳に蘇ったのは、幼い男の子の口調。小さな頭の日向臭さ。
 断定的な、特徴のあるその物言いを、どこかで確かに聞いている。
 けれど、どこで?
「あかい……?」
「……ん……なに…みなみ……」
 呟いた声に、真崎が瞬きして薄く眼を開けた。
「あ、ごめんなさい」
 なんでもありません、そう囁いて髪にキスすると安心したように微笑んで目を閉じる。
 柔らかな微笑を見ながら、ふつふつと強い何かが胸の中に湧くのを感じた。
 頑張ろう。
 何ができるか、今はまだわからない。
 けど、今まで貯えてきたもの、今まで培ってきたもの、その全てを注ぎ込む時があるとしたら、きっと今この時に違いない。腕の中で艶やかに羽根を伸ばしたこの相手を、守り切るためのものに違いない。
 
 そのまま再び眠り込んだのだろう。
 次に目が覚めた時は朝だった。
 微かな衣擦れの音に目を開けると、カーテンの隙間から差し込む光に背中を照らされて、真崎が服を着替えていた。
 くしゃくしゃに乱れた髪で眠そうに服を取り上げる姿はまだ全裸、美並が起きているとは思っていないのか、下着を引き上げていく身体が光を跳ねながらゆっくり伸びる。
 気持ちよさそうな滑らかな動きだった。
 夕べの我を失った表情はない。腰でボクサーパンツから手を離し、何を思ったのか指先を下に滑らせる。押さえつけた部分で指を止め、微かに笑った。甘やかな優しい笑みでそのまま指先を滑らせて撫で上げていく。ふ、と吐息を漏らしたのは脇腹のあたり、何かを確かめるように何度か触れて微かに震える。
「ここ、も」
 低い声で呟いた。
「みなみ、に」
 ちら、と急に視線を投げられて、背ける間がなかった。
「っ」
 布団に横たわっていたまま見つめていた美並と目が合って、一瞬目を見開いた真崎が、こくり、と唾を呑む。
「おは…よう」
「おはよう、京介」
 にこり、と真崎は笑った。
「見てた?」
「うん」
「……ここ」
 少し近寄ってきた真崎が、パンツ一枚で美並の前に立つ。促された気がして、美並も起き上がる。
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