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10.アシャの封印(11)
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「アシャ?」
「……」
「ねえ」
「…………」
ユーノは困ってしまった。疲れ切っているならさっさと休みに行った方がいいだろうが、アシャは動く気がないようだし、ユーノを追い払う様子もない。側に居ていいものかどうかもあやふやだが、放って行って部屋に戻るのも気が引ける。
どうしようかと悩んだ末、つい口走ってしまった。
「…あのさ、金のオーラって、視察官(オペ)の認識票だと言ったよね? ……っ!」
がばりといきなりアシャが体を起こしてぎょっとした。乱れた金髪の下からユーノを見返す瞳が予想以上に厳しい。
「どうしてだ?」
「いや…ううん、その、ちょっとね、聞いて見たかっただけ」
答えながら、否応なく、アシャの体が依然淡く光っているのを意識する。
アシャは『魔』。ユカルの声が繰り返す。アシャは『魔』。アシャは『魔』…。
「…ユーノ」
胸で響いた声を聞き取ったかのように、アシャが瞳を和らげた。
「うん?」
「もし、俺が」
静かな声が届く。
「『運命(リマイン)』と同じような魔物(パルーク)だったら、どうする?」
「っ」
アシャの紫の瞳から目が離せなくなった。紫は死の色とも呼ばれる色、普通の人間には不似合いな魔性の色、宝石も紫水晶には人智を越えた力が宿るのであまりお勧めいたしません。そう断じたのは旅回りの宝石商だっただろうか。きらきらと色を変える紫の瞳、時に冷たく時に優しく、時に甘く時に憂いに煙って人の心を弄ぶ。
「…それでも」
気がつけば、口を開いていた。
「あなたはあなたじゃないか」
「…え?」
「あなたがどんなに優しかったか、私は覚えているよ」
胸に波立った想いを知られるまいと、ユーノは目を伏せた。
「私……『良い魔物(パルーク)』って知らないけどさ、あなたが魔物(パルーク)だと言うなら、きっと『そう』なんだろうね」
「ユーノ…」
茫然と呟いたアシャが、ふわりと浮かせた両手を慌てたように手摺に押し付ける。
「まるで…そいつは」
アシャは照れたように視線を逸らせた。
「レスの台詞だな」
「そうだね」
くすくすとユーノは笑った。
「でも、レスならこう言うよ、『アシャが魔物(パルーク)なら、魔物(パルーク)っていい人のことを言うの?』」
「違いない」
アシャが吹き出した。目をあげると、緊張がほぐれた顔で笑っている。ほっとして、ユーノも気分が緩んだ。ここが旅の空の下で、今が新しい国に入ったばかりで、これからどんなものを見てどんなことに出くわすのだろうと言う期待に満ちた夜のように。
けれど。
ユーノは唇を結んだ。改めて尋ねる。
「アシャ」
「ん?」
「勝算はどのくらい?」
簡単には答えが出ないだろうと思ったが、アシャは一瞬笑い止み、
「…五分五分……だが」
じっとユーノを見つめる。
「安心しろ。お前達を先に逝かせることはない」
「…ありがと…」
それを言い切る胆力に敬服する。
「…優しいね、アシャ」
アシャほどの手練れをもってしても、セシ公や『太皇(スーグ)』の後ろ盾があっても、勝算を五分としか答えられない状況の厳しさを、この男は平然と背負おうとしてくれている。
感謝しかない、たとえ性格が多少悪くとも。
「……」
「ねえ」
「…………」
ユーノは困ってしまった。疲れ切っているならさっさと休みに行った方がいいだろうが、アシャは動く気がないようだし、ユーノを追い払う様子もない。側に居ていいものかどうかもあやふやだが、放って行って部屋に戻るのも気が引ける。
どうしようかと悩んだ末、つい口走ってしまった。
「…あのさ、金のオーラって、視察官(オペ)の認識票だと言ったよね? ……っ!」
がばりといきなりアシャが体を起こしてぎょっとした。乱れた金髪の下からユーノを見返す瞳が予想以上に厳しい。
「どうしてだ?」
「いや…ううん、その、ちょっとね、聞いて見たかっただけ」
答えながら、否応なく、アシャの体が依然淡く光っているのを意識する。
アシャは『魔』。ユカルの声が繰り返す。アシャは『魔』。アシャは『魔』…。
「…ユーノ」
胸で響いた声を聞き取ったかのように、アシャが瞳を和らげた。
「うん?」
「もし、俺が」
静かな声が届く。
「『運命(リマイン)』と同じような魔物(パルーク)だったら、どうする?」
「っ」
アシャの紫の瞳から目が離せなくなった。紫は死の色とも呼ばれる色、普通の人間には不似合いな魔性の色、宝石も紫水晶には人智を越えた力が宿るのであまりお勧めいたしません。そう断じたのは旅回りの宝石商だっただろうか。きらきらと色を変える紫の瞳、時に冷たく時に優しく、時に甘く時に憂いに煙って人の心を弄ぶ。
「…それでも」
気がつけば、口を開いていた。
「あなたはあなたじゃないか」
「…え?」
「あなたがどんなに優しかったか、私は覚えているよ」
胸に波立った想いを知られるまいと、ユーノは目を伏せた。
「私……『良い魔物(パルーク)』って知らないけどさ、あなたが魔物(パルーク)だと言うなら、きっと『そう』なんだろうね」
「ユーノ…」
茫然と呟いたアシャが、ふわりと浮かせた両手を慌てたように手摺に押し付ける。
「まるで…そいつは」
アシャは照れたように視線を逸らせた。
「レスの台詞だな」
「そうだね」
くすくすとユーノは笑った。
「でも、レスならこう言うよ、『アシャが魔物(パルーク)なら、魔物(パルーク)っていい人のことを言うの?』」
「違いない」
アシャが吹き出した。目をあげると、緊張がほぐれた顔で笑っている。ほっとして、ユーノも気分が緩んだ。ここが旅の空の下で、今が新しい国に入ったばかりで、これからどんなものを見てどんなことに出くわすのだろうと言う期待に満ちた夜のように。
けれど。
ユーノは唇を結んだ。改めて尋ねる。
「アシャ」
「ん?」
「勝算はどのくらい?」
簡単には答えが出ないだろうと思ったが、アシャは一瞬笑い止み、
「…五分五分……だが」
じっとユーノを見つめる。
「安心しろ。お前達を先に逝かせることはない」
「…ありがと…」
それを言い切る胆力に敬服する。
「…優しいね、アシャ」
アシャほどの手練れをもってしても、セシ公や『太皇(スーグ)』の後ろ盾があっても、勝算を五分としか答えられない状況の厳しさを、この男は平然と背負おうとしてくれている。
感謝しかない、たとえ性格が多少悪くとも。
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