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机に向かっているといらいらする。受験日はどんどん近づいて来ているっていうのに。
何をするのは無駄なのか、何から始めればいいのか、それだけを考えて時間がたつ。
自分が何もしていない、何も永久にできないと怯えるだけになってくる。
だから、僕はケータイを手にして、目をつぶっても押せる番号を押していく。
「もしもし」
『あ。ケン君?』
「あ…えーと、みやちゃん、かな」
『そう。今、みんなとケン君のこと、話してたよ』
悪名高く、ついでに料金も半端じゃない、複数で話し合えるパーティライン。
そこにいるのは、現実とは関わりのない僕と、電話の中にだけいる友人達。
こんなことをしてていいのか。
これは単なる逃避にしか過ぎない。こうしている間にも、お前はみんなに置いて行かれるぞ。
社会に適応できない落伍者になるんだ。
そんな心の声を無視するように、声の調子を上げる。
「うれしいな、みんな、来てるのかい?」
『きてまあーす。わっかるかなあー、ケン君』
「オオトモだろ」
『あたしもいます』
「桜子」
『さすが、リーダー。はずれなし、かよ』
「カタミチ。じゃあ、四人全員…」
言いかけた僕の声に、もう一つ、聞き覚えのない声が重なって響いた。
『へえ、なるほど、君は声だけで相手が誰だかわかるんだね。それとも、それが、ここのリーダーだという証明になるのかな?』
「……」
警戒して黙り込む僕をなだめるように、オオトモが口を挟んできた。
『ってこと。今日はね、新しいお客さんがいる、ってわけなんだよ、リーダー』
『自己紹介をしたほうがいいんだろうね。それとも、君達が勝手に、私に名前とイメージをくれるのかな、ケン、とか桜子、とか』
『仲間に入る気なら、ちゃんと礼儀をわきまえてほしいな。一応、ゴリッパな大人、なんだろ、おっさん』
『よそもの』のからかい口調に、カタミチが殺気立った声で応じた。
無理もない、とは思う。
つい最近も、私立探偵だか小説家だかしらないが、妙に慣れ慣れしげな男がラインに接触してきて、僕達は無防備にも話し込んでしまった。ところが、その連絡の後、あることないこと週刊誌にぶちまけてくれ、社会的に不適応な人間の関わりだとか、青少年に有害なデジタル環境だとかで追及された後、結果的に僕達は、貴重なラインを一つ失うことになってしまったのだ。
とは言え、そんなことで、こういった連絡網が消えるわけもなかった。
ここに連絡してくるものはみんな同じ、他にわかりあえる場所も人もいないから集まっているのだ。
ラインが切れたとたんに取った行動もお定まり、別口のラインを見つけだして、またいつの間にかこうして集まったというわけだ。
もっとも、それ以来、僕達は『よそもの』に関して、かなり疑い深くなっていた。
当然だろう。
『悪かったよ』
相手は意外にあっさり謝った。
『からかうつもりはなかったんだ。まあ、昔は、なんでこんなことをやっているのか、よくわからなかったがね。最近、しみじみとわかるような状況に追い込まれてね。……どうしても誰かと話したくなったんだ……私をまるっきり知らない誰かとね……それで、電話してみる気になったんだ。気を悪くしたなら、謝るよ』
『いいわよ』
みやがはきはきと応じた。
『メンバーを選んだり選ばれたりするのには、みんなうんざりしているの。それより、どうして、最近、こんなふうに集まる気持ちがわかったの、おじさん?』
いつもの思いやりのある声で、『よそもの』の話を促した。
そうなっては、このラインの仮にも『リーダー』と呼ばれている僕が黙っているわけにもいかない。
僕はゆっくりと言った。
「その前に、名前を聞いておこう。まあ、あんたさえいいなら、おっさんでも、おじさんでも構わないけど」
『おっさん、はあんまりだよ。そうだな…』
相手は少し口をつぐんだ。予想以上に長い沈黙で、こちらが不安になりかけたときに、妙に皮肉な口調で、
『ボックス、というのは、だめかな』
『どういうボックスですか?』
桜子が控えめに尋ねた。
自称、箱入り娘だから、気になったのかもしれない。
『ボックスはボックスだよ。「箱」だ。私のいるところだ』
『いいぜ、話しなよ。どうして、ここに電話する気になった? 女に振られて、部屋にでも閉じこもっているのか?』
カタミチのことばに、くすくす笑いが起こった。
カタミチは、星の数ほど女を泣かしている遊び人、ラインへの参加もデートの合い間だとか言うことで、あんまり頻回にはかけてきていない。
『実はね……私は監禁状態にあるんだよ』
ボックスのことばに、一瞬意味を計り兼ねて、みんなが口を閉ざした。
監禁。
大げさなのか、それとも、本当にそのことば通りに、どこかに閉じ込められているのか。
犯罪がらみは嫌だな。
そんな雰囲気が広がった。
何をするのは無駄なのか、何から始めればいいのか、それだけを考えて時間がたつ。
自分が何もしていない、何も永久にできないと怯えるだけになってくる。
だから、僕はケータイを手にして、目をつぶっても押せる番号を押していく。
「もしもし」
『あ。ケン君?』
「あ…えーと、みやちゃん、かな」
『そう。今、みんなとケン君のこと、話してたよ』
悪名高く、ついでに料金も半端じゃない、複数で話し合えるパーティライン。
そこにいるのは、現実とは関わりのない僕と、電話の中にだけいる友人達。
こんなことをしてていいのか。
これは単なる逃避にしか過ぎない。こうしている間にも、お前はみんなに置いて行かれるぞ。
社会に適応できない落伍者になるんだ。
そんな心の声を無視するように、声の調子を上げる。
「うれしいな、みんな、来てるのかい?」
『きてまあーす。わっかるかなあー、ケン君』
「オオトモだろ」
『あたしもいます』
「桜子」
『さすが、リーダー。はずれなし、かよ』
「カタミチ。じゃあ、四人全員…」
言いかけた僕の声に、もう一つ、聞き覚えのない声が重なって響いた。
『へえ、なるほど、君は声だけで相手が誰だかわかるんだね。それとも、それが、ここのリーダーだという証明になるのかな?』
「……」
警戒して黙り込む僕をなだめるように、オオトモが口を挟んできた。
『ってこと。今日はね、新しいお客さんがいる、ってわけなんだよ、リーダー』
『自己紹介をしたほうがいいんだろうね。それとも、君達が勝手に、私に名前とイメージをくれるのかな、ケン、とか桜子、とか』
『仲間に入る気なら、ちゃんと礼儀をわきまえてほしいな。一応、ゴリッパな大人、なんだろ、おっさん』
『よそもの』のからかい口調に、カタミチが殺気立った声で応じた。
無理もない、とは思う。
つい最近も、私立探偵だか小説家だかしらないが、妙に慣れ慣れしげな男がラインに接触してきて、僕達は無防備にも話し込んでしまった。ところが、その連絡の後、あることないこと週刊誌にぶちまけてくれ、社会的に不適応な人間の関わりだとか、青少年に有害なデジタル環境だとかで追及された後、結果的に僕達は、貴重なラインを一つ失うことになってしまったのだ。
とは言え、そんなことで、こういった連絡網が消えるわけもなかった。
ここに連絡してくるものはみんな同じ、他にわかりあえる場所も人もいないから集まっているのだ。
ラインが切れたとたんに取った行動もお定まり、別口のラインを見つけだして、またいつの間にかこうして集まったというわけだ。
もっとも、それ以来、僕達は『よそもの』に関して、かなり疑い深くなっていた。
当然だろう。
『悪かったよ』
相手は意外にあっさり謝った。
『からかうつもりはなかったんだ。まあ、昔は、なんでこんなことをやっているのか、よくわからなかったがね。最近、しみじみとわかるような状況に追い込まれてね。……どうしても誰かと話したくなったんだ……私をまるっきり知らない誰かとね……それで、電話してみる気になったんだ。気を悪くしたなら、謝るよ』
『いいわよ』
みやがはきはきと応じた。
『メンバーを選んだり選ばれたりするのには、みんなうんざりしているの。それより、どうして、最近、こんなふうに集まる気持ちがわかったの、おじさん?』
いつもの思いやりのある声で、『よそもの』の話を促した。
そうなっては、このラインの仮にも『リーダー』と呼ばれている僕が黙っているわけにもいかない。
僕はゆっくりと言った。
「その前に、名前を聞いておこう。まあ、あんたさえいいなら、おっさんでも、おじさんでも構わないけど」
『おっさん、はあんまりだよ。そうだな…』
相手は少し口をつぐんだ。予想以上に長い沈黙で、こちらが不安になりかけたときに、妙に皮肉な口調で、
『ボックス、というのは、だめかな』
『どういうボックスですか?』
桜子が控えめに尋ねた。
自称、箱入り娘だから、気になったのかもしれない。
『ボックスはボックスだよ。「箱」だ。私のいるところだ』
『いいぜ、話しなよ。どうして、ここに電話する気になった? 女に振られて、部屋にでも閉じこもっているのか?』
カタミチのことばに、くすくす笑いが起こった。
カタミチは、星の数ほど女を泣かしている遊び人、ラインへの参加もデートの合い間だとか言うことで、あんまり頻回にはかけてきていない。
『実はね……私は監禁状態にあるんだよ』
ボックスのことばに、一瞬意味を計り兼ねて、みんなが口を閉ざした。
監禁。
大げさなのか、それとも、本当にそのことば通りに、どこかに閉じ込められているのか。
犯罪がらみは嫌だな。
そんな雰囲気が広がった。
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