開かない箱

segakiyui

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 疑問を口に出したのは、やはりみやだった。
『どういうこと?』
『話してもいいかな……話さないほうがいいかもしれない。君達に迷惑がかかるかもしれないし』
 言いかけたくせに、ボックスはそんなことを言った。そのくせ、電話の向こうで、にんまりとほくそえんでいるような奇妙な沈黙が続く。
 破ったのはカタミチだった。
『迷惑っても、どうやって迷惑をかけるんだ? 俺達はお互いまったく知らない他人同士だぜ。ここでのことをしゃべらない限り、俺達の間には何の関係もない。年齢も仕事も……住処も名前も……本当のことは、誰も知らない。俺が明日あんたとぶつかっても、あんたには俺だとはわからないぜ』
 みんなが無言で頷いた気配がした。
 それはそうだ。いや、むしろ、僕達はそれを求めて、このラインに参加していると言ってもいい。
 ラインに参加している僕と現実の僕は別物だ。
 ラインの中では、僕は冷静沈着なリーダーを演じているが、現実の僕は……ただの二浪している予備校生、ラインの参加費を稼ぐためにアルバイトに振り回されて、受験勉強もままならない男に過ぎない。
『じゃあ、話そう……あ、ちょっと待ってくれ……急に用事が入った……また、電話するよ』
 ボックスはいきなり慌てたように吐き、僕達が引き留める間もなく、ラインから離れる微かなチッという音が響いた。
『何だ、あいつ』
 すかされてあっけにとられたらしいカタミチの声が、不愉快そうに呟く。
『まあ、次の参加を待ってみようよ。なかなか、面白そうじゃないか』
『どうして、ボックスなのかしら』
 オオトモのことばに重ねるように、桜子が尋ねた。
『箱にいる、って言ってたな』
「箱、っていうのは何だろうな。建物か? コンテナ、とか」
 カタミチに応じた僕に、オオトモが笑いを含んだ声で、
『普通、コンテナにはすまないよねー、どこの港にいるんだろ?』
 むっとした僕が黙ると、みやが、
『ケータイよね、たぶん。何のために電話してきたのか…』
「犯罪がらみは困るな」
 僕はほっとして応じた。
「まあ、とりあえず、次の参加に注意しよう。かけてくるとは限らないし」
『わかった、じゃ、俺、デートだから』
 カタミチが同意した。
『じゃ、ね』
『またな』
『さよなら』
 次々切れていく声を名残惜しく聞いて、僕もケータイを切った。
 時計を見ると、もう夜中の三時を回っている。今ごろ、ほかの受験生は夢中になって参考書を見ているんだろう。
 焦りがじんわりとにじんでくるのを振り切るように、僕はベッドに転がり込んだ。
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