開かない箱

segakiyui

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 数日後、僕は、バイトから帰るなりケータイを取り出していた。
 ここのところバタバタと忙しくて、なかなかラインに参加できなかった。
 ボックスの話が終わってしまっていたらどうしよう。みんなの話題から、僕一人が取り残されてしまう。
 いらつきながら番号を押し、二度も掛け間違えて、ようやくラインに参加する。
『ケン君? ひさしぶり』
「桜子か……ほかは?」
『まだよ……ああ、入って来たみたい』
『ちわ』
『……よっす、あいつは?』
『ボックス、加わってる?』
 ラインに参加してきたみんなが、あれからまだ誰もボックスの話の続きを聞いていないようで、僕はほっとした。
 待つこと数分、微かな接続音とともにボックスが加わり、間があいたことの詫びを言って話し始めた。
『私の仕事はいろいろだ。あるものの販売ルートを設定することもあるし、それらの開発にも取り組んでいる。また、他所から出た製品の性能を検証することもある。もちろん、新製品の開発にも努力している。まあ、一種の企画開発、といったところだ』
 企業戦士か、と僕は心の中で呟いた。
 バブルが弾けてからこっち、いろんな価値観が交じり合って、それでも成功こそが人生の究極の目的だという神話は消えていない。むしろ、バブルが弾けたからこそ一層、絶対に崩れない成功は、なんてことが大真面目に追及されている気がする。
 けれど、そんなものが、本当にあるんだろうか。
 いずれは僕も遅かれ早かれ、そういう渦の中に飲み込まれ溺れていくに違いない。他のどんな可能性も考えることもなく、死ぬ前に成功することだけを夢見て。
 もっとも、今はそんなセイカツさえなじめないけど。
『集められた部下は優秀、開発した製品は順調な売れ行きを見せている。家族は残念ながらないが、私は十分幸せだった』
 ボックスは淡々と話を続けた。
『そんな私のところへ、ある日、一つの古びた箱が持ち込まれてきた。縦十センチメートル、横二十センチメートル、高さ十センチメートル。ちょうどオルゴールのような、留め金を外すと跳ね上がる蓋がついている木の箱だ。なんでも、海底の古代遺跡から発見されたものだという。よくある話だが、その古びた箱の中にはとてつもないものが眠っている、という。それが明らかにされれば、人類の歴史が変わるかもしれない。私達は興奮して研究にとりかかった』
 ボックスは吐息をついて、すぐにことばを継いだ。
『箱には鍵穴が一つあるだけだった。それも穴の周囲の金属が腐食し始めているような代物だ。簡単な仕事のように思えた。だが、箱の分析結果は予想を越えていた。粗末な木箱に見えているのは見かけだけのこと、内側によくわからない金属の層があることが確認された。ただし、その金属の層も、外側についている鍵穴となんらかの方法で連動しているらしく、鍵を開けるか、もしくは鍵を破壊してしまうかしなければ開かないこともわかった。依頼主に確認すると、方法はどうでもいいが、できるだけ中身を傷つけないようにしてほしいという。鍵穴は金属の腐食が激しくて使えそうにない。残ったのは鍵穴を壊すことだけだ。ところが、このぼろぼろの鍵穴はとんでもない代物だった。穴の形さえ定かでなくなりつつあるのに、壊すとなると何も歯がたたない』
『ガス・バーナーは?』
 カタミチが割って入った。力を得たように、じっと静かに聞き入っていた他の連中も、夢から醒めたように口を開く。
『レーザーとか』
 みやの声。
 その口調の妙にきっぱりしたものに、いつものように僕は違和感を感じた。
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