『ラズーン』番外編

segakiyui

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『ヤらせろ』

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 白い靄が漂う中を、アシャは必死に走っている。
 早く早く見つけ出さなくては。
 鳥籠に捕まったままの仲間。
 アシャ。
 呼ばれて振り返る。
「そこか!」
 慌てて戻っていきながら、心のどこかがわくわくと跳ねる。
 なぜならこれは『しゃべり鳥(ライノ)』の鳥籠。救い出すためにはキスが必要。そして捕まっているのは。
「ユーノ!」
 手を伸ばす。揺れている鳥籠は、中で暴れていることを示すのだろう。
「大丈夫だから! 今開いてやるからじっとしてろ!」
 不安に怯えているのだろうか、こんな得体の知れない靄まで降りてきたから。
「ユーノ?」
 側に来ない相手を訝って覗き込んだその瞬間、がきっと腕を掴まれた。
「へ?」
「助けに来てくれたんだな!」
「げ」
「アシャ!」
 がばりと顔を突き出した相手にかろうじて顔を背ける。
「い、イルファぁっ?!」
「おおそうだ、待ってたぞ、今すぐほら!」
「ほらって何だ!」
「決まってるだろ、ほらぶちゅうっと!」
 ヤらせろ。
 目の前に迫った肉厚の濡れた唇に抗うこともできずに引っ張り寄せられて。

「うわああっっっっ!!!」
「ぴ!」
「なにっ!」
 跳ね起きた瞬間、側に居たレスファートが怪物に襲われた小動物よろしく飛び上がってユーノに飛びつく。とっさに抱きとめたユーノが剣を構えてレスファートを庇う。抜刀していないのはせめてもの仲間意識か。
「あー…夢…か」
「夢?」
「いや……もうそりゃとんでもない夢……を…」
 言いかけて妙な感触に視線を落とすと自分の腰をしっかり抱えているイルファのごつい腕。
「どわあああ」
「うるさいぞおアシャ静かにしろって」
 いつの間にやら寄り添って眠っていたイルファががしりと脚まで固めてきて、アシャはきっとユーノを振り返る。
「あ、あのさ、ほら、寒かっただろ、それでイルファ誰かと一緒に寝たいよなーレスファート一人じゃ寒いからなーとか」
 ユーノが引き攣った顔で曖昧に笑った。
「ユーノ……」
「……だって!」
 ボクが添い寝するわけにいかないだろがっ!
「う”」
「……今からでも交代する?」
 むつっとしながら問いかけるユーノに深々と溜め息をつく。
「……そんなこと言えるか」
 まあ、俺が貞操の危機ってこともないしな。
 諦めてごろりと横になり、溜め息まじりにそっちも寝ろよ、と手で合図すると、難しい顔をして首をひねっていたレスファートがぱむ、と可愛らしく手を叩いて言った。
「あ、そーか、アシャにはていそーがないからだいじょうぶなんだね!」
「っ、わはははははっっ!」
「………レスっっっっっ!」
 いきなり吹き出して大笑いし始めるユーノに、ひょっとすると一緒に旅をしていることは何より誰よりレスファートの王子様教育によろしくないかもしれないと、アシャは思った。
 
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