アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ

夜霞

文字の大きさ
1 / 357

再会・1

しおりを挟む
「オルキデア、ここにいたのか」
「なんだ。クシャースラか」

濃い紫の瞳を向けられたクシャースラは、肩を竦めて小さく息を吐いた。

「なんだ、は無いだろう。半年ぶりの再会だというのに」
「もう、そんなに時間が経ったのか。あまり気にしていなかったな」

窓辺に座って、外を眺める親友のオルキデアには、どこか哀愁が漂っていた。

「まだ、謀叛の疑いは解けないのか?」
「そうだな。どうも仕事も無く、代わり映えのしない生活が続くと、時間の感覚が無くなるようだ」

ラナンキュラスの屋敷の中は、しーんと静まり返っていた。
約一年と少し前までは、オルキデアと「彼女」の笑い声が屋敷中に響いていたというのに。

「なあ、オルキデア。おれは思うんだ。
お前は、その気になれば謀叛の疑いを解く事など容易いはずだ。
それなのに、なぜそれをしない?」
「必要ないからだ。軍が、国が、俺をそう思ったのなら、その通りなんだろう」
「お前さん自身はどう思っているんだ? 謀叛について」
「どうも考えてないさ。謀叛を起こす気などさらさらない」

外を見たまま、はっきりと断言するオルキデアに、クシャースラは訝しむ。

「それなら、なぜ『彼女』を帰した? 国に謀叛を起こして、最悪は自分の命だけで済むように、『彼女』を国に帰したんじゃないのか?」
「『彼女』は、元々国に帰すつもりだった。謀叛は関係ない」

オルキデアの言葉に、クシャースラの輝くような金髪の頭にかっと血が上った。
つかつかと歩み寄ると、親友の襟元を掴んで、壁に叩きつけたのだった。

「お前……! 自分が何を言っているのか、わかっているのか!?」
「……ああ」
「それなら! なぜ『彼女』と結婚した!? なぜ……『彼女』を抱いた!?」
「『契約』結婚をしたからな。俺たちは」

声を荒げながら、いくら身体を揺すっても、オルキデアは目さえ合わせてくれなかった。
いつも以上に生気のない目をして、虚空を見つめていたのだった。

「それなら、契約結婚のままでよかったはずだ!!
お前は契約結婚を一度解消した後に、『彼女』と結婚した!! 
それは『彼女』を……心の底から愛していたからじゃないのか!? 」

「愛」という言葉に、オルキデアはビクリと震える。
その言葉に、親友がどれだけ苦しめられたのか、どれだけ辛い思いをしたのか、クシャースラは知っている。
けれども、オルキデアの親友として、クシャースラは言わなければならなかった。

「お前のその中途半端な『愛』に、『彼女』がどれだけ苦しめられたと思っている!?
一人で悩んで、苦しんで、頼る者もおらず、一人で国に帰されて……」
「仕方がないだろう!!」

とうとう、オルキデアは目を合わせると、襟元を掴むクシャースラの手を払い退けた。

「俺だって、『彼女』を愛していた。愛していたさ……!! 
けれども、俺じゃ駄目だったんだ……。
謀叛の疑いをかけられた俺じゃ、彼女を幸せには出来ないんだ!! 
彼女を俺たちの事情に巻き込むだけだった……。
彼女のためにも、国に返すしかなかったんだ……」

俯いて悲痛な声で話すオルキデアを、クシャースラはただ見ていることしか出来なかった。

親友が『彼女』を……一人の女性を愛して、こんなに苦しんでいたのに気づけなかった。
半年前、戦地に行っている間、この地に残す妻の身をお願いしようと、この屋敷に来た時に気づいていれば、こうはならなかったのだろうか。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

俺様御曹司に飼われました

馬村 はくあ
恋愛
新入社員の心海が、与えられた社宅に行くと先住民が!? 「俺に飼われてみる?」 自分の家だと言い張る先住民に出された条件は、カノジョになること。 しぶしぶ受け入れてみるけど、俺様だけど優しいそんな彼にいつしか惹かれていって……

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...