2 / 357
再会・2
しおりを挟む
「愛していたんですか? 私のこと……」
その声にクシャースラが振り向くと、開け放たれたままになっていた扉の前に「彼女」が立っていた。
「アリーシャ、聞いていたのか?」
クシャースラの言葉に、何も身につけていない、白くほっそりした手で口元を押さえていた「彼女」ーーアリーシャは、こくりと頷いた。
そんなアリーシャの姿に気づいたオルキデアは、濃い紫の目を見開くと、いつになく険しい顔をしてクシャースラの襟元を掴んできたのだった。
「貴様っ! どういうつもりだ!?」
「お前さんがどんな状態になっているかわからないから、呼ぶまで廊下で待っていて欲しいと、おれは言ったんだがな」
ここまで激昂した親友を、クシャースラは始めて見た。
出会った頃から、オルキデアという親友は常にどこか冷めた目で周囲を眺めていた。
時には、冷徹なまでに。
そんなオルキデアの心を、一人の女性が動かした。
オルキデアから「アリーシャ」という名前を与えられた、一人の女性が。
「そうじゃない! なぜ、ここに連れて来た!? こんな俺のところに……!?」
「止めて下さい! オルキデア様! クシャースラさんは悪くないんです……!」
クシャースラの襟元にかかるオルキデアの手を、アリーシャは掴んだ。
「アリーシャ……」
「私からお願いしたんです! これが最後になってもいいから、どうしてもオルキデア様にお会いしたくて……。
クシャースラさんに無理を言って、ペルフェクトに連れて来てもらったんです……」
悲痛な顔のアリーシャの菫色の両眼から、涙が溢れ落ちる。
はっとすると、二人は手を離したのだった。
「すまなかった。オルキデア」
「いや、俺も悪かった。クシャースラ」
お互いにバツが悪くなって、顔を逸らす。
ハンカチを取り出して、涙を拭いていたアリーシャに近づくと、オルキデアはおずおずと声を掛ける。
「久しいな。アリーシャ。その……変わりはないか?」
「ええ。とりあえずは。オルキデア様は大丈夫ですか? その、謀叛は?」
「ああ。まあ……。それより、謀叛の話は、アリーシャも知っていたのか?」
「はい。国に帰った後に、新聞で知りました」
ぎこちない様子の二人に、クシャースラはやれやれと肩を竦める。
(お互い、相手に伝えたいことがあるだろうに……)
それをなかなか言わない姿に、クシャースラはもどかしさを感じたのだった。
やがて、アリーシャの方から、話を切り出したようだった。
「オルキデア様、どうして、私を国に帰したのですか?
それも、私が寝ている間にこっそり」
「それは……。お前に話したら、絶対に嫌がって、反対されると思ったからだ。
出会ったばかりの頃と同じように」
「そんなことは……」
二人がどうやって出会ったのかは、クシャースラも親友自身から聞いている。
あの時も、アリーシャを国に帰そうとしたオルキデアに対して、アリーシャ本人が「嫌です」と拒否したらしい。
「アリーシャ。お前のことは愛しているし、大切にも想っている。
けれども、俺たちは住んでいる国が違うんだ。……俺じゃ、お前を幸せに出来ない」
「そんな……」
「それに、今の俺には国家反逆の謀叛の疑いがかかっている。お前を巻き込む訳にはいかないんだ」
「それでも、私は貴方の側に居たかった!」
真っ直ぐにオルキデアを見つめるアリーシャの姿に、オルキデアだけではなく、クシャースラまでもが息を飲んだのだった。
その声にクシャースラが振り向くと、開け放たれたままになっていた扉の前に「彼女」が立っていた。
「アリーシャ、聞いていたのか?」
クシャースラの言葉に、何も身につけていない、白くほっそりした手で口元を押さえていた「彼女」ーーアリーシャは、こくりと頷いた。
そんなアリーシャの姿に気づいたオルキデアは、濃い紫の目を見開くと、いつになく険しい顔をしてクシャースラの襟元を掴んできたのだった。
「貴様っ! どういうつもりだ!?」
「お前さんがどんな状態になっているかわからないから、呼ぶまで廊下で待っていて欲しいと、おれは言ったんだがな」
ここまで激昂した親友を、クシャースラは始めて見た。
出会った頃から、オルキデアという親友は常にどこか冷めた目で周囲を眺めていた。
時には、冷徹なまでに。
そんなオルキデアの心を、一人の女性が動かした。
オルキデアから「アリーシャ」という名前を与えられた、一人の女性が。
「そうじゃない! なぜ、ここに連れて来た!? こんな俺のところに……!?」
「止めて下さい! オルキデア様! クシャースラさんは悪くないんです……!」
クシャースラの襟元にかかるオルキデアの手を、アリーシャは掴んだ。
「アリーシャ……」
「私からお願いしたんです! これが最後になってもいいから、どうしてもオルキデア様にお会いしたくて……。
クシャースラさんに無理を言って、ペルフェクトに連れて来てもらったんです……」
悲痛な顔のアリーシャの菫色の両眼から、涙が溢れ落ちる。
はっとすると、二人は手を離したのだった。
「すまなかった。オルキデア」
「いや、俺も悪かった。クシャースラ」
お互いにバツが悪くなって、顔を逸らす。
ハンカチを取り出して、涙を拭いていたアリーシャに近づくと、オルキデアはおずおずと声を掛ける。
「久しいな。アリーシャ。その……変わりはないか?」
「ええ。とりあえずは。オルキデア様は大丈夫ですか? その、謀叛は?」
「ああ。まあ……。それより、謀叛の話は、アリーシャも知っていたのか?」
「はい。国に帰った後に、新聞で知りました」
ぎこちない様子の二人に、クシャースラはやれやれと肩を竦める。
(お互い、相手に伝えたいことがあるだろうに……)
それをなかなか言わない姿に、クシャースラはもどかしさを感じたのだった。
やがて、アリーシャの方から、話を切り出したようだった。
「オルキデア様、どうして、私を国に帰したのですか?
それも、私が寝ている間にこっそり」
「それは……。お前に話したら、絶対に嫌がって、反対されると思ったからだ。
出会ったばかりの頃と同じように」
「そんなことは……」
二人がどうやって出会ったのかは、クシャースラも親友自身から聞いている。
あの時も、アリーシャを国に帰そうとしたオルキデアに対して、アリーシャ本人が「嫌です」と拒否したらしい。
「アリーシャ。お前のことは愛しているし、大切にも想っている。
けれども、俺たちは住んでいる国が違うんだ。……俺じゃ、お前を幸せに出来ない」
「そんな……」
「それに、今の俺には国家反逆の謀叛の疑いがかかっている。お前を巻き込む訳にはいかないんだ」
「それでも、私は貴方の側に居たかった!」
真っ直ぐにオルキデアを見つめるアリーシャの姿に、オルキデアだけではなく、クシャースラまでもが息を飲んだのだった。
2
あなたにおすすめの小説
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる