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アリーシャ【上】・3
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「……私も、ラナンキュラス様と一緒に行きたいです。でも一つだけ教えて下さい」
澄んだ菫色の瞳にじっと見つめられる。ここまで異性から純粋な目で、真っ直ぐ見つめられたことは無かったので、目を逸らしてしまいそうになる。
「私のことで何かあったんですか? それとも……私がペルフェクト語がわかるからですか?」
「……何故、そう思った?」
「ラナンキュラス様は前に言いましたよね? 私のことは信頼出来る者に託す、と。それなのに、今日になって一緒に行くか聞いてくるということは、それが出来なくなったんじゃないですか?」
「そうとは限らないだろう」
「それならどうして今日聞いたんですか? もっと早く行っても良かったはずです。今日言ったのは、何かが急に変更になったからじゃないんですか?」
アリーシャの鋭い観察眼にオルキデアは舌を巻きそうになる。
ただ従順なだけではなく、その理由を考えようとする姿に感心すると、ソファーに深く座り直す。
「ただ単に俺が、君を……アリーシャを連れて行きたいだけかもしれないぞ?」
「そ、それは……」
言葉に詰まるアリーシャに、オルキデアは「冗談だ」と口元を緩める。
「だが君が言っていることは、ほぼ間違っていない」
「それって……」
「ああ。さっき基地の上層部に呼ばれてきた。この間の薬を盛った兵のことでな……。やはり、相手には反省の見込みがないらしい」
先日アリーシャに薬を盛った兵の共犯車である見張りの兵を特定しようと、軍に常駐している部隊ーーオルキデアが信頼出来ると判断して引き継いでいた。が兵の尋問を行なった。
共犯者である見張りの名前ーー実は複数人いたらしい、はすぐに白状したが、それ以外の自らの行いを正当化し、遂には反省を拒否したのだった。
平民出身の兵たちは、この兵を処罰するべきだと主張した。
軍の治安を正す為にも、身分に関係なく処断するべきだと。
けれども、それに反対する者がいたーー貴族出身の兵たちだった。
普段から険悪だった両者は、この一件でますます溝を深め、昨夜はとうとう殴り合いに発展したそうだ。
先に手を出した貴族出身は減給と謹慎処分となったが、今度はその兵を擁護する他の貴族出身の兵まで現れる次第だった。
「このまま、君をここに置いても、第二、第三の同じ事態が起こりかねない……いや、もっと酷いことが起こるかもしれない。それを防ぐためにも、連れて行きたいんだ。……君の身を守る為にも」
「私がこの基地の……争いの火種になっているんですね……」
平民出身の兵と貴族出身の兵の対立は、目下、軍の悩みのタネの一つだった。
身分が違うだけで、考え方、思想まで大きく変わってしまう。
同じ閉鎖された環境の中で生活すると、どうしても両者の違いが出てしまい、それを理解出来ない者たちの間で、対立が止まないのであった。
「……そうだな。こちらの事情に巻き込んでしまってすまない」
「いいえ、ラナンキュラス様は悪くありません! ここまで、便宜を図って頂いてしまって……記憶が無いので、お役に立てないのが申し訳ないくらいです」
ふるふると首を振って、辛そうに眉を潜めるアリーシャに胸が痛くなる。
ーーそんな顔をさせたくなかった。だから理由を話したくはなかった。
オルキデアは不甲斐ない自分自身に腹が立ったのだった。
澄んだ菫色の瞳にじっと見つめられる。ここまで異性から純粋な目で、真っ直ぐ見つめられたことは無かったので、目を逸らしてしまいそうになる。
「私のことで何かあったんですか? それとも……私がペルフェクト語がわかるからですか?」
「……何故、そう思った?」
「ラナンキュラス様は前に言いましたよね? 私のことは信頼出来る者に託す、と。それなのに、今日になって一緒に行くか聞いてくるということは、それが出来なくなったんじゃないですか?」
「そうとは限らないだろう」
「それならどうして今日聞いたんですか? もっと早く行っても良かったはずです。今日言ったのは、何かが急に変更になったからじゃないんですか?」
アリーシャの鋭い観察眼にオルキデアは舌を巻きそうになる。
ただ従順なだけではなく、その理由を考えようとする姿に感心すると、ソファーに深く座り直す。
「ただ単に俺が、君を……アリーシャを連れて行きたいだけかもしれないぞ?」
「そ、それは……」
言葉に詰まるアリーシャに、オルキデアは「冗談だ」と口元を緩める。
「だが君が言っていることは、ほぼ間違っていない」
「それって……」
「ああ。さっき基地の上層部に呼ばれてきた。この間の薬を盛った兵のことでな……。やはり、相手には反省の見込みがないらしい」
先日アリーシャに薬を盛った兵の共犯車である見張りの兵を特定しようと、軍に常駐している部隊ーーオルキデアが信頼出来ると判断して引き継いでいた。が兵の尋問を行なった。
共犯者である見張りの名前ーー実は複数人いたらしい、はすぐに白状したが、それ以外の自らの行いを正当化し、遂には反省を拒否したのだった。
平民出身の兵たちは、この兵を処罰するべきだと主張した。
軍の治安を正す為にも、身分に関係なく処断するべきだと。
けれども、それに反対する者がいたーー貴族出身の兵たちだった。
普段から険悪だった両者は、この一件でますます溝を深め、昨夜はとうとう殴り合いに発展したそうだ。
先に手を出した貴族出身は減給と謹慎処分となったが、今度はその兵を擁護する他の貴族出身の兵まで現れる次第だった。
「このまま、君をここに置いても、第二、第三の同じ事態が起こりかねない……いや、もっと酷いことが起こるかもしれない。それを防ぐためにも、連れて行きたいんだ。……君の身を守る為にも」
「私がこの基地の……争いの火種になっているんですね……」
平民出身の兵と貴族出身の兵の対立は、目下、軍の悩みのタネの一つだった。
身分が違うだけで、考え方、思想まで大きく変わってしまう。
同じ閉鎖された環境の中で生活すると、どうしても両者の違いが出てしまい、それを理解出来ない者たちの間で、対立が止まないのであった。
「……そうだな。こちらの事情に巻き込んでしまってすまない」
「いいえ、ラナンキュラス様は悪くありません! ここまで、便宜を図って頂いてしまって……記憶が無いので、お役に立てないのが申し訳ないくらいです」
ふるふると首を振って、辛そうに眉を潜めるアリーシャに胸が痛くなる。
ーーそんな顔をさせたくなかった。だから理由を話したくはなかった。
オルキデアは不甲斐ない自分自身に腹が立ったのだった。
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