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アリサ・リリーベル・シュタルクヘルト・3
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シュタルクヘルト家に引き取られて、アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトとなってからのアリサの生活は苦労と我慢の日々であった。
父はアリサを引き取った最初の日しか、声を掛けてくれなかった。
アリサと同じ菫色の瞳に、濃紺色の短髪を頭に撫でつけた父は、それ以降ずっとアリサを無視し続けた。
アリサに与えられたのは、シュタルクヘルト家の別館にある小さな部屋ーーつい最近まで、倉庫として使われていた部屋だった。
かろうじて女の子らしい家具が置かれていたが、どれも姉妹たちのお下がりであり、新品は何も無かった。
用意されていた洋服も仕立ては良く、与えられた化粧品も有名なメーカー品ではあったが、やはり姉妹たちのお古であった。
父には十三人の子供がいて、アリサは九番目の子供であった。
上に兄が三人、姉が五人いて、下には弟が二人、妹が二人いた。
いずれも腹違いの兄弟や姉妹ではあったが、その中で平民の母親を持っていたのはアリサだけだった。
他の子供たちの母は、資産家や政治家、高級軍人や元貴族の家柄の娘、元大物役者などであった。
アリサと同じように母親が亡くなった子供は父の屋敷で、それ以外の子供たちは自分の母親と一緒に、屋敷近くの父が所有する別の屋敷にそれぞれ住んでいた。
母親が違っても子供たち同士は仲が良く、またその母親たちも仲良しであった。ーーアリサを除いてではあるが。
母親を亡くした子供たちも、近くに住んでいる子供とその母親も、各々の母親の実家から送られてくる裕福な仕送りや豪華な調度品、何人もの使用人に囲まれて、優雅に暮らしていた。
対して、アリサは父が付けてくれた老齢のメイドと、アリサを迎えに来た老齢の男ーー実は父の使用人だった、しかおらず、母の実家も知らないので仕送りも無かった。
娼婦街からも連絡はなく、アリサから連絡を取ることも禁止されていたので、その後、母の友人たちやアリサと仲の良かった子供たちがどうなったのか、今もわからないままだった。
いつもアリサは使用人が貰ってくる誰かのお古を使って生活していた。
型が古く、流行遅れの服やアクセサリー、誰かの使い掛けの道具。
そんなみすぼらしいアリサを兄弟姉妹とその母親たちは、存在しない者として扱ってきた。
その扱いは次第に他の使用人にも広がっていき、やがて嫌がらせや無視をされるようになった。
アリサにも聞こえる様なわざとらしい悪口は屋敷に来た時からされていたが、ある時から洋服を洗濯に出しても、戻ってこなくなった。
ようやく戻ってきても、汚れが増えていたことや洗濯されていなかったこともあった。
食事も忘れられる回数が増えた。
使用人を通じてようやく用意をしてもらっても、料理は冷めており、使用人やメイドたちと同じ質素な食事か、他の家族が食事した後と思しき、残飯のような食事であった。
部屋の掃除も忘れられていたので、アリサと老齢のメイドと手分けしてすることになったのだった。
アリサ付きの使用人を通じて、父に状況を知らせても、父は全く関心を寄せなかった。
それどころか、月に何回かある家族での食事会やイベントに、他の兄弟や姉妹、その母親たちを呼んでも、アリサだけは呼んでくれなかった。
この屋敷でアリサに関心を寄せてくれる者は、誰もいなかったのだった。
けれどもそんなことを気にする間もなく、アリサはシュタルクヘルト家の人間として相応しくなるように、教養を身につけなければならなかった。
立ち居振る舞いだけではなく、誰と結婚してもいいようにーーシュタルクヘルト家の顔に泥を塗らないように、知識、礼儀作法、言語以外にも、花嫁修行なのか裁縫や料理、掃除などといった家事全般も学ばされた。
下町特有の訛りのあったシュタルクヘルト語は矯正され、ハルモニア語を勉強させられた。
ペルフェクト語は問題なかったが、徹底的に読み書きを習わされた。
一つ一つ、立ち居振る舞いや発音を直される度に、アリサは母との絆や思い出を壊されているようで寂しくなった。
けれども、自分はまだ恵まれている方だと思い続けた。
屋根のある場所で眠り、飢えることもない。
着る服も持っており、勉強もさせてもらえる。
世の中には食べ物も洋服もなく、勉強もさせてもらえない子供がいることを、アリサは母から教わって知っており、実際に娼婦街に住んでいた頃にそんな子供たちを見ていた。
何をされても、何を言われても、どんな目に遭っても、自分は恵まれている方だと言い聞かせることで、長い間、アリサは我慢をし続けたのだった。
父はアリサを引き取った最初の日しか、声を掛けてくれなかった。
アリサと同じ菫色の瞳に、濃紺色の短髪を頭に撫でつけた父は、それ以降ずっとアリサを無視し続けた。
アリサに与えられたのは、シュタルクヘルト家の別館にある小さな部屋ーーつい最近まで、倉庫として使われていた部屋だった。
かろうじて女の子らしい家具が置かれていたが、どれも姉妹たちのお下がりであり、新品は何も無かった。
用意されていた洋服も仕立ては良く、与えられた化粧品も有名なメーカー品ではあったが、やはり姉妹たちのお古であった。
父には十三人の子供がいて、アリサは九番目の子供であった。
上に兄が三人、姉が五人いて、下には弟が二人、妹が二人いた。
いずれも腹違いの兄弟や姉妹ではあったが、その中で平民の母親を持っていたのはアリサだけだった。
他の子供たちの母は、資産家や政治家、高級軍人や元貴族の家柄の娘、元大物役者などであった。
アリサと同じように母親が亡くなった子供は父の屋敷で、それ以外の子供たちは自分の母親と一緒に、屋敷近くの父が所有する別の屋敷にそれぞれ住んでいた。
母親が違っても子供たち同士は仲が良く、またその母親たちも仲良しであった。ーーアリサを除いてではあるが。
母親を亡くした子供たちも、近くに住んでいる子供とその母親も、各々の母親の実家から送られてくる裕福な仕送りや豪華な調度品、何人もの使用人に囲まれて、優雅に暮らしていた。
対して、アリサは父が付けてくれた老齢のメイドと、アリサを迎えに来た老齢の男ーー実は父の使用人だった、しかおらず、母の実家も知らないので仕送りも無かった。
娼婦街からも連絡はなく、アリサから連絡を取ることも禁止されていたので、その後、母の友人たちやアリサと仲の良かった子供たちがどうなったのか、今もわからないままだった。
いつもアリサは使用人が貰ってくる誰かのお古を使って生活していた。
型が古く、流行遅れの服やアクセサリー、誰かの使い掛けの道具。
そんなみすぼらしいアリサを兄弟姉妹とその母親たちは、存在しない者として扱ってきた。
その扱いは次第に他の使用人にも広がっていき、やがて嫌がらせや無視をされるようになった。
アリサにも聞こえる様なわざとらしい悪口は屋敷に来た時からされていたが、ある時から洋服を洗濯に出しても、戻ってこなくなった。
ようやく戻ってきても、汚れが増えていたことや洗濯されていなかったこともあった。
食事も忘れられる回数が増えた。
使用人を通じてようやく用意をしてもらっても、料理は冷めており、使用人やメイドたちと同じ質素な食事か、他の家族が食事した後と思しき、残飯のような食事であった。
部屋の掃除も忘れられていたので、アリサと老齢のメイドと手分けしてすることになったのだった。
アリサ付きの使用人を通じて、父に状況を知らせても、父は全く関心を寄せなかった。
それどころか、月に何回かある家族での食事会やイベントに、他の兄弟や姉妹、その母親たちを呼んでも、アリサだけは呼んでくれなかった。
この屋敷でアリサに関心を寄せてくれる者は、誰もいなかったのだった。
けれどもそんなことを気にする間もなく、アリサはシュタルクヘルト家の人間として相応しくなるように、教養を身につけなければならなかった。
立ち居振る舞いだけではなく、誰と結婚してもいいようにーーシュタルクヘルト家の顔に泥を塗らないように、知識、礼儀作法、言語以外にも、花嫁修行なのか裁縫や料理、掃除などといった家事全般も学ばされた。
下町特有の訛りのあったシュタルクヘルト語は矯正され、ハルモニア語を勉強させられた。
ペルフェクト語は問題なかったが、徹底的に読み書きを習わされた。
一つ一つ、立ち居振る舞いや発音を直される度に、アリサは母との絆や思い出を壊されているようで寂しくなった。
けれども、自分はまだ恵まれている方だと思い続けた。
屋根のある場所で眠り、飢えることもない。
着る服も持っており、勉強もさせてもらえる。
世の中には食べ物も洋服もなく、勉強もさせてもらえない子供がいることを、アリサは母から教わって知っており、実際に娼婦街に住んでいた頃にそんな子供たちを見ていた。
何をされても、何を言われても、どんな目に遭っても、自分は恵まれている方だと言い聞かせることで、長い間、アリサは我慢をし続けたのだった。
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