51 / 357
アリサ・リリーベル・シュタルクヘルト・5
しおりを挟む
「そうだったのか……」
アリーシャから全ての話を聞き終えた頃には、陽はすっかり傾いていた。
アリーシャのーーアリサの過去が予想外の内容だったこともあり、オルキデアはどう声を掛けていいのかわからなかった。
元王族であり、今は資産家でもあるシュタルクヘルト家の娘なら、何不自由なく、幸せに暮らしてきたのだろうと思っていた。
けれども、そうではなかった。
アリーシャはーーアリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは、不遇な境遇の中にいたのだった。
「すまない。何と声を掛けたらいいのかわからないんだ」
「こちらこそ、変なことを話してしまい、すみません」
お互いに掛ける言葉も無く、だんまりとしてしまう。
そこで、オルキデアは話題を変えることにしたのだった。
「襲撃時に、軍事医療施設にいた理由を教えてくれないか。慰問で行っていたそうだな」
「はい。兄弟、姉妹たちを代表して、私が慰問に行きました」
「それは、父親に命令されたからか?」
アリーシャは首を振った。
「私から行くと言ったんです。当初は、妹が行く予定でしたが、妹の母が嫌がったんです。
『嫁入り前の娘を、戦場に近い医療施設に行かせられない。死んだらどうしてくれるんだ』って。
それで、代わりに誰が行くかという話になって、私が名乗り出ました」
「何故だ?」
「私はまだ嫁ぎ先が決まっていなかったからです」
姉妹の中で、アリーシャことアリサより上の姉妹は、皆、既に嫁いでおり、下の姉妹も婚約者がいるか、嫁ぎ先が決まっていた。
皆、父に懇意の家柄か、各々の母に関係する家であった。
けれども、母がいない、平民出身のアリサには、そんな話は一切無かった。
「それに」と、アリーシャは自嘲気味に微笑んだ。
「私なら、死んでも悲しむ人がいません。
母はいなくて、父は無関心、他に心配してくれる人もいません。私ならどうなっても構いません」
「そんなことは……」
「でも実際に、大々的に捜索をされていないですよね。シュタルクヘルト家の体裁を保つ為に、葬儀は国葬としてやってくれたようですが……」
そうして、アリーシャは菫色の目を伏せた。
「慰問に行ってもいいと言われた時……慰問用の白軍服を渡された時、嬉しかったんです。ようやく、私も父に認められたって……シュタルクヘルト家の一員になれたんだって」
王家が廃止されて相当の年数が経ったが、今でもシュタルクヘルト家が、シュタルクヘルトの市政に与える影響力は大きい。
昔は王家として、今は資産家として、一度は平民と同等の扱いになっても、資産家として昇りつめたという経歴があるからだろう。
資金面の援助だけではなく、国の行事にも参加を依頼されていたーーシュタルクヘルト家は昔から美男美女が多いというのもあるらしいが。
軍部への慰問も、そうした国からの依頼で行っていた。
いつもはもっと後方の基地に行かされるが、今回は軍だけではなく、国中の士気を上げたい、という理由で、国境に近い軍事医療施設への慰問を要請された。
ペルフェクトの国境に近い分、危険度も高く、また重傷者が非常に多いとのことで、アリサの弟妹ーー主にその母たちだが。が行きたがらなかったらしい。
アリーシャから全ての話を聞き終えた頃には、陽はすっかり傾いていた。
アリーシャのーーアリサの過去が予想外の内容だったこともあり、オルキデアはどう声を掛けていいのかわからなかった。
元王族であり、今は資産家でもあるシュタルクヘルト家の娘なら、何不自由なく、幸せに暮らしてきたのだろうと思っていた。
けれども、そうではなかった。
アリーシャはーーアリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは、不遇な境遇の中にいたのだった。
「すまない。何と声を掛けたらいいのかわからないんだ」
「こちらこそ、変なことを話してしまい、すみません」
お互いに掛ける言葉も無く、だんまりとしてしまう。
そこで、オルキデアは話題を変えることにしたのだった。
「襲撃時に、軍事医療施設にいた理由を教えてくれないか。慰問で行っていたそうだな」
「はい。兄弟、姉妹たちを代表して、私が慰問に行きました」
「それは、父親に命令されたからか?」
アリーシャは首を振った。
「私から行くと言ったんです。当初は、妹が行く予定でしたが、妹の母が嫌がったんです。
『嫁入り前の娘を、戦場に近い医療施設に行かせられない。死んだらどうしてくれるんだ』って。
それで、代わりに誰が行くかという話になって、私が名乗り出ました」
「何故だ?」
「私はまだ嫁ぎ先が決まっていなかったからです」
姉妹の中で、アリーシャことアリサより上の姉妹は、皆、既に嫁いでおり、下の姉妹も婚約者がいるか、嫁ぎ先が決まっていた。
皆、父に懇意の家柄か、各々の母に関係する家であった。
けれども、母がいない、平民出身のアリサには、そんな話は一切無かった。
「それに」と、アリーシャは自嘲気味に微笑んだ。
「私なら、死んでも悲しむ人がいません。
母はいなくて、父は無関心、他に心配してくれる人もいません。私ならどうなっても構いません」
「そんなことは……」
「でも実際に、大々的に捜索をされていないですよね。シュタルクヘルト家の体裁を保つ為に、葬儀は国葬としてやってくれたようですが……」
そうして、アリーシャは菫色の目を伏せた。
「慰問に行ってもいいと言われた時……慰問用の白軍服を渡された時、嬉しかったんです。ようやく、私も父に認められたって……シュタルクヘルト家の一員になれたんだって」
王家が廃止されて相当の年数が経ったが、今でもシュタルクヘルト家が、シュタルクヘルトの市政に与える影響力は大きい。
昔は王家として、今は資産家として、一度は平民と同等の扱いになっても、資産家として昇りつめたという経歴があるからだろう。
資金面の援助だけではなく、国の行事にも参加を依頼されていたーーシュタルクヘルト家は昔から美男美女が多いというのもあるらしいが。
軍部への慰問も、そうした国からの依頼で行っていた。
いつもはもっと後方の基地に行かされるが、今回は軍だけではなく、国中の士気を上げたい、という理由で、国境に近い軍事医療施設への慰問を要請された。
ペルフェクトの国境に近い分、危険度も高く、また重傷者が非常に多いとのことで、アリサの弟妹ーー主にその母たちだが。が行きたがらなかったらしい。
2
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
俺様御曹司に飼われました
馬村 はくあ
恋愛
新入社員の心海が、与えられた社宅に行くと先住民が!?
「俺に飼われてみる?」
自分の家だと言い張る先住民に出された条件は、カノジョになること。
しぶしぶ受け入れてみるけど、俺様だけど優しいそんな彼にいつしか惹かれていって……
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる