アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ

夜霞

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アリサ・リリーベル・シュタルクヘルト・5

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「そうだったのか……」

アリーシャから全ての話を聞き終えた頃には、陽はすっかり傾いていた。
アリーシャのーーアリサの過去が予想外の内容だったこともあり、オルキデアはどう声を掛けていいのかわからなかった。

元王族であり、今は資産家でもあるシュタルクヘルト家の娘なら、何不自由なく、幸せに暮らしてきたのだろうと思っていた。
けれども、そうではなかった。
アリーシャはーーアリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは、不遇な境遇の中にいたのだった。

「すまない。何と声を掛けたらいいのかわからないんだ」
「こちらこそ、変なことを話してしまい、すみません」

お互いに掛ける言葉も無く、だんまりとしてしまう。
そこで、オルキデアは話題を変えることにしたのだった。

「襲撃時に、軍事医療施設にいた理由を教えてくれないか。慰問で行っていたそうだな」
「はい。兄弟、姉妹たちを代表して、私が慰問に行きました」
「それは、父親に命令されたからか?」

アリーシャは首を振った。

「私から行くと言ったんです。当初は、妹が行く予定でしたが、妹の母が嫌がったんです。
『嫁入り前の娘を、戦場に近い医療施設に行かせられない。死んだらどうしてくれるんだ』って。
それで、代わりに誰が行くかという話になって、私が名乗り出ました」
「何故だ?」
「私はまだ嫁ぎ先が決まっていなかったからです」

姉妹の中で、アリーシャことアリサより上の姉妹は、皆、既に嫁いでおり、下の姉妹も婚約者がいるか、嫁ぎ先が決まっていた。
皆、父に懇意の家柄か、各々の母に関係する家であった。
けれども、母がいない、平民出身のアリサには、そんな話は一切無かった。

「それに」と、アリーシャは自嘲気味に微笑んだ。

「私なら、死んでも悲しむ人がいません。
母はいなくて、父は無関心、他に心配してくれる人もいません。私ならどうなっても構いません」
「そんなことは……」
「でも実際に、大々的に捜索をされていないですよね。シュタルクヘルト家の体裁を保つ為に、葬儀は国葬としてやってくれたようですが……」

そうして、アリーシャは菫色の目を伏せた。

「慰問に行ってもいいと言われた時……慰問用の白軍服を渡された時、嬉しかったんです。ようやく、私も父に認められたって……シュタルクヘルト家の一員になれたんだって」

王家が廃止されて相当の年数が経ったが、今でもシュタルクヘルト家が、シュタルクヘルトの市政に与える影響力は大きい。
昔は王家として、今は資産家として、一度は平民と同等の扱いになっても、資産家として昇りつめたという経歴があるからだろう。
資金面の援助だけではなく、国の行事にも参加を依頼されていたーーシュタルクヘルト家は昔から美男美女が多いというのもあるらしいが。

軍部への慰問も、そうした国からの依頼で行っていた。
いつもはもっと後方の基地に行かされるが、今回は軍だけではなく、国中の士気を上げたい、という理由で、国境に近い軍事医療施設への慰問を要請された。
ペルフェクトの国境に近い分、危険度も高く、また重傷者が非常に多いとのことで、アリサの弟妹ーー主にその母たちだが。が行きたがらなかったらしい。
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