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アリサ・リリーベル・シュタルクヘルト・7
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「襲撃の時、私、泣いていたんです」
「泣いてた……?」
「泣いていたんです。リネン室で。自分の不甲斐なさを……」
襲撃の日、アリサはリネン室で泣いていた。
結局、医学の知識がないアリサは、雑用しか出来なかった。
備品を倉庫から運んでは補充して、大量の洗濯物を干しては、畳んで、それを仕舞って。
食事の用意を手伝って、配膳も行った。
着替えを手伝い、徹夜で看病もした。
アリサの名前で、軍に支援を求めたが、そんな余裕は無いと一蹴されてしまう。
父にも支援を求めたが、やはり無視をされてしまった。
そうしてアリサが支援を求めている間にも、怪我人は続々と増えてーー死んでいった。
知らなかった。アリサがシュタルクヘルト家で息を潜めて生きている間も、前線で敵と戦い、怪我を負っては生死の境を彷徨っている者たちがいる事を。
一日中、休む間も無く、怪我の治療にあたっている者たちがいる事を。
ーー自分は、今までどれだけ恵まれた環境で生きていたんだろう。
命の危険に脅かされず、安全な場所で生きていた。
父に無視され、兄弟、姉妹、使用人たちに冷たくされるだけなんて、大した事ではなかった。
その日も、治療中だった若い兵が息を引き取った。
霊安室に運ばれる遺体を見ながら、アリサは掌を強く握りしめた。
ーー自分には一体、何が出来るんだろう。
アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトではなく、ただのアリサには何が出来るんだろう。
医学の知識もない、後ろ盾もない、何も持っていない、何もないアリサには。
そう考えながら、人気の無い部屋を探して医療施設内を歩いていると、誰もいないリネン室を見つけた。
アリサはリネン室の扉を開けると、電気を点けずに中に入った。
目が慣れてくると、棚には清潔なタオルやシーツが並んでいた。ーーアリサが洗濯して、畳んだものもあった。
「ううっ……ぐすっ……!」
棚と棚の間に、膝を抱えて座ると、アリサは涙を零した。
今日死んだ兵は、昨夜アリサが汗を拭いて、言葉を交わした兵であった。
怪我が原因で熱が出てしまい、兵は苦しそうにしていた。
アリサは兵の汗を拭きながら、話し相手になった。
その兵は、元々はシュタルクヘルトの王都にある美術大学の学生であった。
戦争を早く終わらせて、戦争の悲劇を後世に伝える為に兵になったそうだ。
大学を休学して、兵士として志願したのはいいが、実際に戦地に行くと、想像を遥かに超えた厳しさがあった。
生死、暴力、掠奪、陵辱。
平和なシュタルクヘルトの王都で育った者にとって、戦場がそんな人道に叛く行為が横行する場所だと知った時、衝撃は計り知れないものだった。
そうして、兵はショックを受けている間に、敵軍から銃撃を受けて、重症を負ってしまったらしい。
ここに運ばれて来た時は、生きているのがやっとの状態だったと、兵の死後に教えられたのだった。
兵はアリサを看護師の一人としか思っていなかったようだが、アリサには戦争とは無関係な場所に行って、好きな人と共に幸せになるように言い残した。
その後、症状が悪化して、翌日息を引き取ったのだった。
「泣いてた……?」
「泣いていたんです。リネン室で。自分の不甲斐なさを……」
襲撃の日、アリサはリネン室で泣いていた。
結局、医学の知識がないアリサは、雑用しか出来なかった。
備品を倉庫から運んでは補充して、大量の洗濯物を干しては、畳んで、それを仕舞って。
食事の用意を手伝って、配膳も行った。
着替えを手伝い、徹夜で看病もした。
アリサの名前で、軍に支援を求めたが、そんな余裕は無いと一蹴されてしまう。
父にも支援を求めたが、やはり無視をされてしまった。
そうしてアリサが支援を求めている間にも、怪我人は続々と増えてーー死んでいった。
知らなかった。アリサがシュタルクヘルト家で息を潜めて生きている間も、前線で敵と戦い、怪我を負っては生死の境を彷徨っている者たちがいる事を。
一日中、休む間も無く、怪我の治療にあたっている者たちがいる事を。
ーー自分は、今までどれだけ恵まれた環境で生きていたんだろう。
命の危険に脅かされず、安全な場所で生きていた。
父に無視され、兄弟、姉妹、使用人たちに冷たくされるだけなんて、大した事ではなかった。
その日も、治療中だった若い兵が息を引き取った。
霊安室に運ばれる遺体を見ながら、アリサは掌を強く握りしめた。
ーー自分には一体、何が出来るんだろう。
アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトではなく、ただのアリサには何が出来るんだろう。
医学の知識もない、後ろ盾もない、何も持っていない、何もないアリサには。
そう考えながら、人気の無い部屋を探して医療施設内を歩いていると、誰もいないリネン室を見つけた。
アリサはリネン室の扉を開けると、電気を点けずに中に入った。
目が慣れてくると、棚には清潔なタオルやシーツが並んでいた。ーーアリサが洗濯して、畳んだものもあった。
「ううっ……ぐすっ……!」
棚と棚の間に、膝を抱えて座ると、アリサは涙を零した。
今日死んだ兵は、昨夜アリサが汗を拭いて、言葉を交わした兵であった。
怪我が原因で熱が出てしまい、兵は苦しそうにしていた。
アリサは兵の汗を拭きながら、話し相手になった。
その兵は、元々はシュタルクヘルトの王都にある美術大学の学生であった。
戦争を早く終わらせて、戦争の悲劇を後世に伝える為に兵になったそうだ。
大学を休学して、兵士として志願したのはいいが、実際に戦地に行くと、想像を遥かに超えた厳しさがあった。
生死、暴力、掠奪、陵辱。
平和なシュタルクヘルトの王都で育った者にとって、戦場がそんな人道に叛く行為が横行する場所だと知った時、衝撃は計り知れないものだった。
そうして、兵はショックを受けている間に、敵軍から銃撃を受けて、重症を負ってしまったらしい。
ここに運ばれて来た時は、生きているのがやっとの状態だったと、兵の死後に教えられたのだった。
兵はアリサを看護師の一人としか思っていなかったようだが、アリサには戦争とは無関係な場所に行って、好きな人と共に幸せになるように言い残した。
その後、症状が悪化して、翌日息を引き取ったのだった。
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