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アリーシャ【下】・2
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「私は生まれてすぐに母に連れられて、シュタルクヘルト家を出ました。それからは、母が亡くなるまで娼婦街に住んでいました」
「そうだったな」
アリーシャの向かいのソファーに座り直しながら、オルキデアは頷く。
「娼婦街って、実はシュタルクヘルトのーー国の手が届いていない場所なんです。娼婦だけでなく、犯罪者やならず者、脱走兵など身を隠したい人が多く住んでいました」
ペルフェクト軍だけでは無く、当然、シュタルクヘルト軍にも脱走兵は存在する。
親元に戻れば迷惑がかかるからと娼婦街を始めとして、ならず者たちが集まる場所に身を隠す者は多い。
脱走兵は生きる為に犯罪に手を染め、次第に犯罪者となっていく。
女性兵の場合は、娼婦街にやって来て、娼婦になる者もいる。
始めは恥じらいを感じる彼女たちも、生きる為と割り切って、次第に娼婦に染まっていくのだった。
彼らを支援する者はおらず、国や政府の支援の範囲では無いので、そのままにされることが多い。
そんな男女の間に生まれた子供は、やはり国の支援からはみ出てしまう。ーーそもそも、戸籍を持っているかさえ怪しい。
支援からはみ出てしまえば、教育や医療の保障の対象外となり、学校に通えず、病院で診察も受けられない。医師免許や教員免許、車の運転免許証も取得できず、選挙権さえ与えられなかった。
「娼婦街で産まれた子供の大半は、戸籍を持っていません。
戸籍がなければ、国の支援の対象外となり、学校に通えず、病院で診察も受けられませんーー私もその一人だと思っていました」
父の遣いによって、シュタルクヘルト家に連れて行かれて、アリーシャはーーアリサは自分に戸籍があることを始めて知った。
それまでアリーシャも娼婦街に住む子供たちと同じで、自分も戸籍が無いと思っていた。
だからこそ、学校に通えず、体調を崩しても病院に連れて行ってもらえないのだと、信じて疑わなかったらしい。
「学校や病院という施設があるという話は、母や他の娼婦、母の常連客から聞いて知っていました。……いつか行ってみたいとも思っていました」
「シュタルクヘルト家に引き取られた時に、学校に通わせてもらえなかったのか?」
アリーシャが首を振ると頭の動きに合わせて、後ろで一つにまとめていた藤色の髪が悲しげに揺れた。
「父は私と関わりたがらなかったので……。私から言い出したこともありません。そもそも、娼婦との間に産まれたアリサという娘が存在していること自体、あまり知られたくなかったようです……。はっきりと聞いたことはありませんが」
アリーシャの話によると、母が亡くなった時にアリサを引き取ったのは、アリサの存在を知っている使用人による説得が大きかったらしい。
アリサは自分の父がシュタルクヘルト家の人間だと知らなかった。
母が亡くなった後も迎えが来なければ、父について知ることはなく、娼婦街で生きていき、やがて生きる為に娼婦になると信じて疑っていなかったらしい。
そうなる前に父がアリサを引き取ったのは、何かがきっかけでアリサが自身の父について知った時、それを利用して父にとって不都合なことをされる前に防ごうとしたのではないか。
また、資産家である父を失脚させたがる者たちがアリサの存在を知った時、アリサを利用して父の評判を落とそうとするのを防ごうとしたのではないかと、アリーシャは考えていた。
ただ、説得されて引き取ったはいいが、娼婦との間に生まれた子供をそのまま世間に公表する訳にもいかず、だからといって、そのまま養子や嫁に出せば父のーー引いてはシュタルクヘルト家の名に傷をつけることになる。
その為、アリサの扱いについて、父は慎重にならざるをえなかった。
または、父はアリサの存在を持て余していたと考えるのが自然だった。
その証拠に、アリサは学校に通わせてもらえず、屋敷の外にも滅多に出させてもらえなかった。
「そうだったな」
アリーシャの向かいのソファーに座り直しながら、オルキデアは頷く。
「娼婦街って、実はシュタルクヘルトのーー国の手が届いていない場所なんです。娼婦だけでなく、犯罪者やならず者、脱走兵など身を隠したい人が多く住んでいました」
ペルフェクト軍だけでは無く、当然、シュタルクヘルト軍にも脱走兵は存在する。
親元に戻れば迷惑がかかるからと娼婦街を始めとして、ならず者たちが集まる場所に身を隠す者は多い。
脱走兵は生きる為に犯罪に手を染め、次第に犯罪者となっていく。
女性兵の場合は、娼婦街にやって来て、娼婦になる者もいる。
始めは恥じらいを感じる彼女たちも、生きる為と割り切って、次第に娼婦に染まっていくのだった。
彼らを支援する者はおらず、国や政府の支援の範囲では無いので、そのままにされることが多い。
そんな男女の間に生まれた子供は、やはり国の支援からはみ出てしまう。ーーそもそも、戸籍を持っているかさえ怪しい。
支援からはみ出てしまえば、教育や医療の保障の対象外となり、学校に通えず、病院で診察も受けられない。医師免許や教員免許、車の運転免許証も取得できず、選挙権さえ与えられなかった。
「娼婦街で産まれた子供の大半は、戸籍を持っていません。
戸籍がなければ、国の支援の対象外となり、学校に通えず、病院で診察も受けられませんーー私もその一人だと思っていました」
父の遣いによって、シュタルクヘルト家に連れて行かれて、アリーシャはーーアリサは自分に戸籍があることを始めて知った。
それまでアリーシャも娼婦街に住む子供たちと同じで、自分も戸籍が無いと思っていた。
だからこそ、学校に通えず、体調を崩しても病院に連れて行ってもらえないのだと、信じて疑わなかったらしい。
「学校や病院という施設があるという話は、母や他の娼婦、母の常連客から聞いて知っていました。……いつか行ってみたいとも思っていました」
「シュタルクヘルト家に引き取られた時に、学校に通わせてもらえなかったのか?」
アリーシャが首を振ると頭の動きに合わせて、後ろで一つにまとめていた藤色の髪が悲しげに揺れた。
「父は私と関わりたがらなかったので……。私から言い出したこともありません。そもそも、娼婦との間に産まれたアリサという娘が存在していること自体、あまり知られたくなかったようです……。はっきりと聞いたことはありませんが」
アリーシャの話によると、母が亡くなった時にアリサを引き取ったのは、アリサの存在を知っている使用人による説得が大きかったらしい。
アリサは自分の父がシュタルクヘルト家の人間だと知らなかった。
母が亡くなった後も迎えが来なければ、父について知ることはなく、娼婦街で生きていき、やがて生きる為に娼婦になると信じて疑っていなかったらしい。
そうなる前に父がアリサを引き取ったのは、何かがきっかけでアリサが自身の父について知った時、それを利用して父にとって不都合なことをされる前に防ごうとしたのではないか。
また、資産家である父を失脚させたがる者たちがアリサの存在を知った時、アリサを利用して父の評判を落とそうとするのを防ごうとしたのではないかと、アリーシャは考えていた。
ただ、説得されて引き取ったはいいが、娼婦との間に生まれた子供をそのまま世間に公表する訳にもいかず、だからといって、そのまま養子や嫁に出せば父のーー引いてはシュタルクヘルト家の名に傷をつけることになる。
その為、アリサの扱いについて、父は慎重にならざるをえなかった。
または、父はアリサの存在を持て余していたと考えるのが自然だった。
その証拠に、アリサは学校に通わせてもらえず、屋敷の外にも滅多に出させてもらえなかった。
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