アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ

夜霞

文字の大きさ
90 / 357

移送作戦【当日・上】・4

しおりを挟む
「問題はいつもなら四ヵ所ある出入り口が、今日は閉鎖されて一ヶ所しかないことだが……」

軍部には四ヶ所の出入り口がある。
中央に当たる北扉を始め、軍部の東、南、西側にそれぞれ出入り口があった。
しかし演習日の様に軍部に所属する兵の大半が出払うような日は、警備担当の人数が少ない分、出入り口を封鎖していた。
クシャースラの懸念通り、今日は演習で警備する兵も出払っているので、中央の北扉しか開いておらず、他の三ヶ所は封鎖されていたのだった。

「軍部内に人が少ない分、おれやオルキデアがアリーシャ嬢を連れて出入りしたら目立つな」
「だが、これはそうならない為の作戦だ」

その為にクシャースラだけではなく、セシリアにも協力してもらった。
アリーシャをここから無事に連れ出す為にもーー。

「最初にアリーシャ嬢を連れて来た時はどうやったんだ?」
「アルフェラッツに頼んで、一番警備が手薄な南側出入り口から連れて来てもらった」 

王都への帰還時、アルフェラッツにはオルキデアが北扉から入っている間に、こっそり南側の扉から入ってもらった。そのまま人が少ない廊下を通って、オルキデアの執務室までアリーシャを連れて来てもらったのだった。

今回も、オルキデアの部下であるアルフェラッツとラカイユにはアリーシャを連れ出す協力をお願いしている。
二人には北扉まで車を回してもらった後、それぞれ合流し、目的地まで車を出してもらうつもりだった。
そこに辿り着く為にも、まずは軍部内からアリーシャを連れ出さねばならない。

「一応確認するが、同じ手は使えないんだよな?」
「ああ。アリーシャの顔が広まってしまった以上、どの出入り口から連れ出しても、問い詰められるのは間違いない」

ここに連れて来た時は、まだアリーシャのーー厳密には、アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトの顔だが。が掲載されたシュタルクヘルトの新聞が配信されたばかりで、あまり軍部内に広まっていなかった。
その為、まだアリーシャの知らない者も多く、オルキデアたちが連れて歩いても怪しまれなかった。
新聞の配信から時間が経ったとはいえ、まだアリーシャの顔を覚えている者も少なからずいるだろう。
もし警備担当の兵が、アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトの顔を覚えていた場合、アリーシャを連れ出す際に、身元の確認やアリーシャについて詳細を問い詰められる。
場合によっては上層部に報告されて、アリーシャの存在が軍部ーー引いては国に知られてしまうだろう。
そうなっては、これまでのオルキデアたちの努力が無駄になる。

「問い詰められた時にも備えて、アリーシャの偽の経歴書を用意した。だがあれは詳細を調べられてしまえば、偽物だとバレてしまう」

いくらこの国で生まれ育ったと言ったところで、この国にアリーシャの戸籍は存在しない。
いずれは用意しなければならないが、今はまだ無いので、調べられてしまえばすぐに経歴が偽物だと知られてしまうだろう。
そこから、アリーシャがアリサだと結びつけられるのも時間の問題になる。

「そうなれば、俺が罰せられるだけでは済まなくなる。……アリーシャは、その存在を利用される」
「軍だけではなく、国までもアリーシャ嬢を利用して、戦争を優位に進める気か」
「恐らくはな……」

アリーシャの正体を知ったら、国や軍部がその存在を利用しない手はない。
名目上はアリーシャを「保護した」として、実際はアリーシャを人質にして戦争を優位に進められる。長年の敵国であるシュタルクヘルトに対して。

「今日のこの作戦、何としても成功させる」
「ああ。よろしく頼む」

二人が今日の作戦について再度確認をしていると、ようやく仮眠室の扉が開いたのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

処理中です...