アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ

夜霞

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おれから見た親友・8

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「それは、どういうことですか!?」

クシャースラがセシリアの父親に詰め寄ると、「アンタも気づいているだろう」と返される。

「セシリアは学校を卒業してからずっと働き詰めだ。あのままじゃあ、身体を壊しちまう……。恋人はおろか結婚どころじゃない!」

見守っていたクシャースラは勿論のこと、どうやら両親もセシリアの働き方を心配していたらしい。

「俺や家内が何度休むように言っても、家と弟たちの為だと……。早く借金を返済して、弟たちを評判の良い学校に入れる為だと繰り返すばかりだ。朝も暗い内から働きだして、夜もほとんど寝ないで内職を続けている」
「そんなことが……」
「今はまだいい。けど今の生活を続けたら、あと二、三年で身体を壊す。俺たちはそれが心配なんだ……」

顔を伏せるセシリアの両親の姿から、これまで二人がどれほど説得を続けてきたのか痛いほど感じられた。

「ですが、おれの言葉をセシリアさんが聞いてくれるかどうかは……」
「アンタと話している時のセシリアは、いつも楽しげだった。俺たちと居る時よりずっと」

どうやら偶然を装ってセシリアと話していたクシャースラの姿を、セシリアの両親は見ていたらしい。
クシャースラは掌を強く握りしめる。

(そんなことになっていたのか……!)

悲痛な様子の二人を見ていられなかった。
やがてクシャースラは、「分かりました」と頷いたのだった。

「お役に立てるかはわかりません。ですが、おれもセシリアさんが心配です。一緒にセシリアさんを止めます」
「ありがとうございます……!」

セシリアの母親が涙を流しながら頭を下げる。安心して力が抜けたのか、今にも倒れそうなセシリアの母親の肩を、目尻に涙を溜めたセシリアの父親が支えたのだった。
家や家族の為に働くことも大切かもしれない。ただ身体を壊してもおかしなくらい、無茶な働き方するのは良くない。
更には両親に心配を掛けて、不安な顔にさせるのも良くないとセシリアに伝えたい。
けれどもそれ伝えるには、今の関係は遠すぎる。
ーーもっと近づかなくては。身も心もセシリアの側に。

その次の休みの日。
クシャースラは下町にやって来ると、とある花屋の前で立ち止まる。
花屋の店先には色とりどりの花と、それらを手入れするセシリアの姿があった。
そんなセシリアにクシャースラは近づいて行くと、うわずった声を上げる。

「セ、セシリアさんっ!」
「あら、オウェングス様。こんにちは」

顔を上げたセシリアは、クシャースラに気付くと笑みを向けてくる。
天使と形容したくなるような柔らかな微笑みと物腰に、ますます照れ臭い気持ちになって落ち着かなくなる。

「今日はお花を買いに?」
「は、はい! そうなんです!」

店内に案内されながら、クシャースラは自分の心臓がこれまで経験したことがないくらいに激しく鼓動を立てているのを感じる。
どうにかして静めようと、胸に片手を当てるとそっと息を吸う。
そんな緊張でぎこちないクシャースラの姿に、レジ奥に居たセシリアの母親と花屋の店主である五十代くらいの女性は、二人を見ていないフリをしつつ、忍び笑いをしていたのだった。

「女性に花をプレゼントをしたいのですが、どんな花を買えばいいのか分からなくて……」
「女性に、ですか?」
「はい。好きな女性にプレゼントしたいんです! セシリアさんはどんな花がお好きですか?」
「私ですか? でも、オウェングス様が好きな女性と同じ好みかどうか……」
「いいえ! セシリアさんと同じ方なんです! セシリアさんの選んだ花に間違いありません!」

ここまであからさまなクシャースラの態度に、密かに二人を見守っていた女性たちはとうとう我慢の限界に達したらしい。
二人に見えないように後ろを向くと、揃って肩を震わせていたのだった。

「そうですね……」

そんな女性たちの様子に気づくこともなく、セシリアは陳列された花を順繰りに眺める。

「カーネーションは好きですね」
「カーネーションですか?」
「はい。可愛らしい見た目に、愛らしい色をしているので」

花に疎いクシャースラの為に、セシリアはカーネーションの前まで案内してくれる。
赤、黄色、ピンク、オレンジ、白など何色ものカーネーション並んでおり、土の入った植木鉢に植えられた鉢花から、花束用の切り花まであったのだった。
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