アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ

夜霞

文字の大きさ
129 / 357

不安と寂しさと・3

しおりを挟む
「風が強く吹いてきたな。さっきも庭の梯子が倒れたようだし、これからますます強くなるかもしれん……」

ふと、アリーシャを見つめると、ソファーの端を掴んで、ギュッと何かを耐えている様子であった。

「どうした?」
「……いえ、大したことでは」

オルキデアから顔を背けたアリーシャが言いかけた時、また強く風が吹いて、大きく肩を震わせる。
何かを探すように、顔を背けたままソファーの上を探すアリーシャの手に、オルキデアはそっと自らの手を重ねる。

「オルキデア様?」

アリーシャがそっと振り向く。

「怖いのか?」
「いえ……」
「大丈夫だ」

ハッと、菫色の瞳が大きく開かれる。

「これくらいの風で屋敷は壊れん。窓もな。君が不安になる必要はない」
「それもそうですが、そうじゃないんです」
「そうじゃない?」

アリーシャは伺うように、下からじっと上目遣いに見つめてくる。

「屋敷内が静かなので、不安になるんです。まるで、私だけがこの屋敷に取り残された気持ちになってしまって……。シュタルクヘルトあっちも、軍も、もっと人の気配があったので」

人の気配はないのに、風の音や物音ばかり聞こえてきて、アリーシャはだんだん不安になった。

ーーもしかしたら、今までの出来事は全て夢であって、既に自分はあの襲撃で死んでいるのではないかと。

「それもあって、だんだん不安で目が冴えてしまって……。でも、オルキデア様の顔を見たら安心しました。これを飲み終わったら、部屋に戻りますね」
「……君もか」
「えっ? 私も?」
「いや、何でもない。……不安なら、俺と一緒に寝るか?」
「ええっ!」
「冗談だ」

だが、オルキデアの部屋もアリーシャの部屋のベッドも、二人は寝れるくらいの大きさがあった。
アリーシャが望むなら、と思ったが、さすがにそれは考えていなかったのだろう。

「ああ。でも。一人が寂しいなら、俺のベッドで寝ていいぞ」
「そうしたら、オルキデア様はどこで寝るんですか?」
「ソファーだ。いつものことだから問題ない。ゆっくり寝られるだけまだいい方だ」

実際、執務室でもずっとソファーに寝ていたのだ。
ソファーに限らず、前線の戦場にもいた経験のあるオルキデアは、地面に寝た事もある。
地面に寝れただけでもまだいい方で、敵に囲まれて、数日間一睡も出来なかったこともある。
そう思って言ったつもりだったが、しかしアリーシャは「問題ありますよ!」と打てば響くように返してきたのだった。

「そこまでしてまで、ベッドをお借りする訳にはいきません。それなら、私は自分の部屋で寝ます」
「一人で大丈夫なのか?」
「それは……」

口ごもるアリーシャに、オルキデアは大きく息を吐き出す。

「二人くらいなら余裕で寝れるだろう……隣で寝てもいいか? 勿論、ただ隣で寝るだけだ」
「……はい」

そうして、カップが空になると、どちらともなくベッドに入ったのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

処理中です...