163 / 357
上官の来訪・2
しおりを挟む
「誰だ?」
クシャースラやメイソンたちは、屋敷の呼び鈴を鳴らさない。
メイソンは屋敷の鍵を持っているから、勝手に鍵を開けて入ってくる。
クシャースラは玄関をドンドンと叩きながら、名前を名乗るので呼び鈴よりも、扉を叩く音が聞こえてくるはずだった。
そのどちらでもないなら、来客ということなのだろう。
(もしかして、もう来たのか?)
待ちに待ったティシュトリアが、息子の為に新しい縁談相手を持ってやって来たのだろうか。
それなら、アリーシャを連れて迎えなければならない。
しかし、ティシュトリア以外なら、オルキデア一人でも対応できるだろう。
押し売りくらいならともかく、ティシュトリアや、ティシュトリアが差し向けてきた危ない輩が相手なら、尚更、アリーシャを会わせるわけにはいかない。
(最初に様子を見に行くべきか)
オルキデアは椅子から立ち上がると、部屋を出る。
廊下に出ると、同じようにアリーシャが不安顔をして自室から廊下に出たところだった。
「来客ですか?」
オルキデアの姿に気づいたアリーシャが、駆け寄りながら尋ねてきたので、オルキデアは大きく頷く。
「おそらくは。君は部屋で待っていろ。相手が母上だとしたら、何かと用意が必要だろう」
「でも……」
「こっちは一人でも大丈夫だ。君は君の用意に専念するんだ」
アリーシャを部屋に返すと、オルキデアは階下に向かう。
部屋着のシャツ姿だが、相手がティシュトリアなら飲み物を淹れにいきながら、上着を着てくればいい。
そう考えながら、階段に向かった。
階段を降りている間も、呼び鈴は変わらず鳴り続けていた。
(来客か……。アリーシャと暮らし始めてからは、最初の来客だな)
思えば、オルキデアたちがこの屋敷に住み始めてから屋敷を訪れたのは、クシャースラやセシリア、メイソンやマルテだけであった。
そう考えれば、ティシュトリアと言えども、この屋敷の最初の来客になるだろう。最初がティシュトリアというのが、あまり良い気はしないが。
階段を降りると、玄関周りで武器になりそうなものを確認しつつ、玄関扉に手を掛ける。
覚悟を決めると、オルキデアは扉を開け放つ。
「誰だ」
「うわぁ!」
勢いよく開け放った扉の先には、「危ないじゃないか……」と小言を漏らすスーツ姿の中年の男がそこにいた。
「プロキオン中将、どうしてここに……」
「どうしたも何も……部下が結婚したと聞いて、祝いを持ってきたんだ」
「一体、誰から……」
プロキオンの後ろを見ると、申し訳なさそうな顔で立っているスーツ姿のアルフェラッツの姿があった。
どうやら、プロキオンの運転手兼付き添いで来たらしい。
「俺の部下から聞いたんですね」
「最近、何やらコソコソしていて、急に長期の休暇を取るから気になって聞いてみたんだ。結婚したから、しばらく奥さんとの時間を過ごすんだって?」
そのプロキオンから聞かれたであろうアルフェラッツが、「すみません」と口の動きだけで謝ってくる。
オルキデアはアルフェラッツに話を合わせて、肩を竦めたのだった。
「まぁ、そうですね」
「どんな奥さんなんだ。会ってもいいか?」
「あいにく、妻は部屋で休んでおりまして。俺でよければ妻について話しますが」
「休む……? 体調不良か?」
「ええ。まあ」
プロキオンとアリーシャは面識がない。
アリーシャが執務室に居た頃、プロキオンがオルキデアの執務室を訪ねてきたことが一度もなければ、アリーシャを連れてプロキオンの執務室に行ったこともない。
だがプロキオンも、オルキデアと同様に将官以上に配布されるシュタルクヘルトの新聞を読んでいるなら、アリーシャと顔を合わせた時に、アリーシャの正体がアリサ・リリーベル・シュタルクヘルトだと気づいてしまう可能性がある。
そうなってしまえば、この計画は意味をなくす。
プロキオンがアリーシャの存在を国や軍の上層部に報告してしまえば、ティシュトリアを追い払うどころか、オルキデアはアリーシャと引き離される。アリーシャは軍や国に利用されーー本人の望まむ扱いを受け、シュタルクヘルトに返されることになる。
アリーシャのことが知られてしまったなら、罰を受けるのは、オルキデアだけには留まらない。協力してくれたクシャースラやセシリア、オルキデアの部下たちにも迷惑がかかるだろう。それは何としても避けねばならない。
それもあって軍関係者には、出来る限り、アリーシャの存在を知られたくなかった。
オルキデアは遠回しに帰ってくれる様にプロキオンに伝えたが、「それは大変だ」と、逆に心配されてしまったのだった。
クシャースラやメイソンたちは、屋敷の呼び鈴を鳴らさない。
メイソンは屋敷の鍵を持っているから、勝手に鍵を開けて入ってくる。
クシャースラは玄関をドンドンと叩きながら、名前を名乗るので呼び鈴よりも、扉を叩く音が聞こえてくるはずだった。
そのどちらでもないなら、来客ということなのだろう。
(もしかして、もう来たのか?)
待ちに待ったティシュトリアが、息子の為に新しい縁談相手を持ってやって来たのだろうか。
それなら、アリーシャを連れて迎えなければならない。
しかし、ティシュトリア以外なら、オルキデア一人でも対応できるだろう。
押し売りくらいならともかく、ティシュトリアや、ティシュトリアが差し向けてきた危ない輩が相手なら、尚更、アリーシャを会わせるわけにはいかない。
(最初に様子を見に行くべきか)
オルキデアは椅子から立ち上がると、部屋を出る。
廊下に出ると、同じようにアリーシャが不安顔をして自室から廊下に出たところだった。
「来客ですか?」
オルキデアの姿に気づいたアリーシャが、駆け寄りながら尋ねてきたので、オルキデアは大きく頷く。
「おそらくは。君は部屋で待っていろ。相手が母上だとしたら、何かと用意が必要だろう」
「でも……」
「こっちは一人でも大丈夫だ。君は君の用意に専念するんだ」
アリーシャを部屋に返すと、オルキデアは階下に向かう。
部屋着のシャツ姿だが、相手がティシュトリアなら飲み物を淹れにいきながら、上着を着てくればいい。
そう考えながら、階段に向かった。
階段を降りている間も、呼び鈴は変わらず鳴り続けていた。
(来客か……。アリーシャと暮らし始めてからは、最初の来客だな)
思えば、オルキデアたちがこの屋敷に住み始めてから屋敷を訪れたのは、クシャースラやセシリア、メイソンやマルテだけであった。
そう考えれば、ティシュトリアと言えども、この屋敷の最初の来客になるだろう。最初がティシュトリアというのが、あまり良い気はしないが。
階段を降りると、玄関周りで武器になりそうなものを確認しつつ、玄関扉に手を掛ける。
覚悟を決めると、オルキデアは扉を開け放つ。
「誰だ」
「うわぁ!」
勢いよく開け放った扉の先には、「危ないじゃないか……」と小言を漏らすスーツ姿の中年の男がそこにいた。
「プロキオン中将、どうしてここに……」
「どうしたも何も……部下が結婚したと聞いて、祝いを持ってきたんだ」
「一体、誰から……」
プロキオンの後ろを見ると、申し訳なさそうな顔で立っているスーツ姿のアルフェラッツの姿があった。
どうやら、プロキオンの運転手兼付き添いで来たらしい。
「俺の部下から聞いたんですね」
「最近、何やらコソコソしていて、急に長期の休暇を取るから気になって聞いてみたんだ。結婚したから、しばらく奥さんとの時間を過ごすんだって?」
そのプロキオンから聞かれたであろうアルフェラッツが、「すみません」と口の動きだけで謝ってくる。
オルキデアはアルフェラッツに話を合わせて、肩を竦めたのだった。
「まぁ、そうですね」
「どんな奥さんなんだ。会ってもいいか?」
「あいにく、妻は部屋で休んでおりまして。俺でよければ妻について話しますが」
「休む……? 体調不良か?」
「ええ。まあ」
プロキオンとアリーシャは面識がない。
アリーシャが執務室に居た頃、プロキオンがオルキデアの執務室を訪ねてきたことが一度もなければ、アリーシャを連れてプロキオンの執務室に行ったこともない。
だがプロキオンも、オルキデアと同様に将官以上に配布されるシュタルクヘルトの新聞を読んでいるなら、アリーシャと顔を合わせた時に、アリーシャの正体がアリサ・リリーベル・シュタルクヘルトだと気づいてしまう可能性がある。
そうなってしまえば、この計画は意味をなくす。
プロキオンがアリーシャの存在を国や軍の上層部に報告してしまえば、ティシュトリアを追い払うどころか、オルキデアはアリーシャと引き離される。アリーシャは軍や国に利用されーー本人の望まむ扱いを受け、シュタルクヘルトに返されることになる。
アリーシャのことが知られてしまったなら、罰を受けるのは、オルキデアだけには留まらない。協力してくれたクシャースラやセシリア、オルキデアの部下たちにも迷惑がかかるだろう。それは何としても避けねばならない。
それもあって軍関係者には、出来る限り、アリーシャの存在を知られたくなかった。
オルキデアは遠回しに帰ってくれる様にプロキオンに伝えたが、「それは大変だ」と、逆に心配されてしまったのだった。
1
あなたにおすすめの小説
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる