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勝負の日・8
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「あ、あの人がスパイですって!?」
ティシュトリアが驚いた拍子に、テーブルが大きく揺れた。身体をぶつけたのだろう。
「その元高級士官が、我が国に潜む敵国のスパイと疑わしき者に情報提供をしている姿を見た兵が居るそうです。不審に思った軍が、監視をつけています」
アルフェラッツからの報告によると、下町のとある建物の一角に入って行く元高級士官の姿を見た兵がいたらしい。
その兵が調べたところ、そこは反国家組織が出入りしていると以前から噂があった建物であった。
後日、今度は別の兵がその建物に入っていく元高級士官を見つけた。
後をつけると、その建物の中で敵国のスパイと思しき者と話していたらしい。
眉唾物の噂ではあるが、元高級士官の経歴から、念には念を入れて、軍部は監視をつけるにしたのだった。
「軍部は現行犯での捕縛を考えているようですが、その間、他に逮捕出来る罪状はないかと余罪を追求しているようです」
「そ、それがどうしたのよ……?」
「それ以外でも、その元高級士官に情報提供をしている者がいるのではないかと、周囲の人間も調べているそうです。母上。当然、貴女も」
「そんな訳ないでしょう!? 私が敵国に情報を流しているとでも!!」
急に叫んだティシュトリアに驚いたのか、腕の中のアリーシャの身体が大きく揺れた。
その背を安心させるように撫でながら、呆れたように母を見つめ返す。
「それなら、どうしてそこまで取り乱すんですか」
「取り乱している? 私が!?」
「心当たりでもあるんですか?」
「心当たりなんて、ある訳……」
目を逸らしたティシュトリアの姿から、心当たりがあるのだとオルキデアは予想する。
「ということで、近々、母上の元にも兵が行くと思います。その際には、一兵士の母親として、相応しい行動とご協力をお願いします」
溜め息を吐くと、「もう、いいわ!」とティシュトリアは立ち上がる。
「あの人に確認してくるわ。縁談の話はそれまで延期よ!」
「構いませんよ。何度来たって、俺はアリーシャ以外を愛するつもりはありません」
「見送りますか」と尋ねるが、それを無視してティシュトリアは部屋を出て行く。
アリーシャを離して追いかけると、ティシュトリアは既に玄関から出ていた。
門の前に待機していた車ーー例の元高級士官に仕える者が運転する車だろう、に乗るとそのまま去って行ったのだった。
「行っちゃいましたね……」
後からやってきたアリーシャも、一緒に見送りながら呟く。
「そうだな。こうもあっさり帰るとは」
自分で試しておきながら、まさかここまで動揺するとは思わなかった。
余程、ショックだったのか。あるいは、心当たりかあったのか……。
「また来ると行っていましたが、どうしましょう?」
「ああは言っても、しばらくは軍に目をつけられて、自由に行動は出来ないだろう。母上は放っておいて問題ない」
一応、ティシュトリアの狼狽ぶりについては軍に報告をしておくべきだろう。
母は別として、本当に元高級士官がシュタルクヘルトの間諜だとしたら事は急を要する。
応接間に戻ってくると、アリーシャはティーセットを片付け始める。
ティシュトリアが座っていたソファーを見ると、持参した封筒が置かれたままになっていた。
手に取って中身を取り出すと、どの娘も爵位が高く、領地があり、資産に富んだ家柄であった。
ティシュトリアの魂胆があからさまな書類を仕舞うと、いつの間にか片付け終わったアリーシャがじっと見つめていた。
「どうした?」
「い、いえ。なんでもありません……」
何か言いたそうに、けれども何も言わないまま、アリーシャはティーセットを持って出て行った。
(何だったんだ?)
どこか腑に落ちない気持ちになりながらも、オルキデアは一人、応接間に取り残されたのだった。
ティシュトリアが驚いた拍子に、テーブルが大きく揺れた。身体をぶつけたのだろう。
「その元高級士官が、我が国に潜む敵国のスパイと疑わしき者に情報提供をしている姿を見た兵が居るそうです。不審に思った軍が、監視をつけています」
アルフェラッツからの報告によると、下町のとある建物の一角に入って行く元高級士官の姿を見た兵がいたらしい。
その兵が調べたところ、そこは反国家組織が出入りしていると以前から噂があった建物であった。
後日、今度は別の兵がその建物に入っていく元高級士官を見つけた。
後をつけると、その建物の中で敵国のスパイと思しき者と話していたらしい。
眉唾物の噂ではあるが、元高級士官の経歴から、念には念を入れて、軍部は監視をつけるにしたのだった。
「軍部は現行犯での捕縛を考えているようですが、その間、他に逮捕出来る罪状はないかと余罪を追求しているようです」
「そ、それがどうしたのよ……?」
「それ以外でも、その元高級士官に情報提供をしている者がいるのではないかと、周囲の人間も調べているそうです。母上。当然、貴女も」
「そんな訳ないでしょう!? 私が敵国に情報を流しているとでも!!」
急に叫んだティシュトリアに驚いたのか、腕の中のアリーシャの身体が大きく揺れた。
その背を安心させるように撫でながら、呆れたように母を見つめ返す。
「それなら、どうしてそこまで取り乱すんですか」
「取り乱している? 私が!?」
「心当たりでもあるんですか?」
「心当たりなんて、ある訳……」
目を逸らしたティシュトリアの姿から、心当たりがあるのだとオルキデアは予想する。
「ということで、近々、母上の元にも兵が行くと思います。その際には、一兵士の母親として、相応しい行動とご協力をお願いします」
溜め息を吐くと、「もう、いいわ!」とティシュトリアは立ち上がる。
「あの人に確認してくるわ。縁談の話はそれまで延期よ!」
「構いませんよ。何度来たって、俺はアリーシャ以外を愛するつもりはありません」
「見送りますか」と尋ねるが、それを無視してティシュトリアは部屋を出て行く。
アリーシャを離して追いかけると、ティシュトリアは既に玄関から出ていた。
門の前に待機していた車ーー例の元高級士官に仕える者が運転する車だろう、に乗るとそのまま去って行ったのだった。
「行っちゃいましたね……」
後からやってきたアリーシャも、一緒に見送りながら呟く。
「そうだな。こうもあっさり帰るとは」
自分で試しておきながら、まさかここまで動揺するとは思わなかった。
余程、ショックだったのか。あるいは、心当たりかあったのか……。
「また来ると行っていましたが、どうしましょう?」
「ああは言っても、しばらくは軍に目をつけられて、自由に行動は出来ないだろう。母上は放っておいて問題ない」
一応、ティシュトリアの狼狽ぶりについては軍に報告をしておくべきだろう。
母は別として、本当に元高級士官がシュタルクヘルトの間諜だとしたら事は急を要する。
応接間に戻ってくると、アリーシャはティーセットを片付け始める。
ティシュトリアが座っていたソファーを見ると、持参した封筒が置かれたままになっていた。
手に取って中身を取り出すと、どの娘も爵位が高く、領地があり、資産に富んだ家柄であった。
ティシュトリアの魂胆があからさまな書類を仕舞うと、いつの間にか片付け終わったアリーシャがじっと見つめていた。
「どうした?」
「い、いえ。なんでもありません……」
何か言いたそうに、けれども何も言わないまま、アリーシャはティーセットを持って出て行った。
(何だったんだ?)
どこか腑に落ちない気持ちになりながらも、オルキデアは一人、応接間に取り残されたのだった。
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