アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ

夜霞

文字の大きさ
186 / 357

これからも、ずっと……・1

しおりを挟む
子供の様に泣きじゃくるアリーシャを抱きしめながら、オルキデアは息を吐く。

(これまで、ずっと我慢していたんだな……)

母親が亡くなって、父親や他の兄弟姉妹とその母親たち、更には使用人からも酷い仕打ちを受けていたアリーシャ。

何も考える余裕がないくらいに困窮していたが、ここに来て本来の明るさや性格を取り戻してきたのだろう。
いつだって、誰かを、何かを見つめる時は、子供の様に純粋で、真っ直ぐで。
時にその姿は眩しいくらいであった。

(これからは、彼女らしく生きて欲しい)

この国で、父親や家に縛られることなく、自由に伸び伸びと暮らして欲しい。
その為ならば、いくらでも力を貸そう。

やがて、アリーシャが泣き止むと、またその手を引いて歩き出した。
今度は謝りもしなければ、啜り泣きもしなかった。
時折、嗚咽と鼻をすする音が聞こえてくるだけで、後は何も聞こえてこなかった。

屋敷の裏口の扉を開けると、雷は収まったが、まだ小雨が降っていた。
傘を撮りに戻るのも億劫だったので、なるべくアリーシャが濡れないように彼女を屋根側に歩かせながら、裏口から出てすぐの壁に設置している分電盤に向かう。

「懐中電灯を持って、足元を照らしてくれないか?」

アリーシャに懐中電灯を渡して、近くにあった古ぼけた梯子を分電盤の下に立てかける。
懐中電灯の光で確かめながら梯子に登ると、分電盤を照らすようにアリーシャに指示する。

「思った通りだ」

やはり、落雷の衝撃で電気系統が落ちてしまったようだった。
一度全ての電源を落として、もう一度、分電盤の電源を入れる。
すると、屋敷内に明かりが灯ったのだった。

「わあ!」

アリーシャの喜ぶ声を聞きながら梯子から降りると、元の場所に戻す。

「うちだけ消えたのか……」

周囲の家々には煌々と明かりが灯されていた。既に復旧したのか、うちだけ電気系統が落ちたのか……。

「くちゅん!」

考えていたオルキデアは、アリーシャのくしゃみで我に帰る。

「ああ、すまない。寒いから風邪を引くな。すぐに屋敷に戻ろう」

小雨が降っている秋の夜は寒い。
それなのに、オルキデアもアリーシャも、薄着で出て来てしまった。

「中に戻ったら、すぐ風呂に入って、暖かくして寝よう」

アリーシャを促すと、二人は屋敷の中に戻る。
部屋の前までアリーシャを送るが、オルキデアの側から離れられないようだった。
泣きそうな顔で見上げてくるアリーシャを見ていると、胸がかき乱された。

「……今夜も一緒に寝るか?」

こくりと頷いたアリーシャに、着替えを持って部屋までついて来るように伝える。
着替えを用意している間、部屋の中で待たせてもらうが、アリーシャの部屋に入ったのはこれが初めてだということに気がつく。

元々、屋敷にあった家具を利用して、マルテやセシリアたちが整えてくれたが、女子が喜びそうな色使いのカーテンや掛布も用意してくれたようだった。
大きな姿見も綺麗に磨かれて、テーブルやソファーだけではなく、カーペットも掃除されていた。
持ち主であるアリーシャも丁寧に扱っているのだろう。

本棚にはこの間買った本以外にも、料理や手芸、化粧などの女子向けの本や雑誌が並んでいた。
小説らしき本もあったが、タイトルからして若い女子向けの本のようだった。
セシリアが読み終わった本を置いていったのだろうか。

(化粧をするなら、鏡台があった方がいいな。倉庫になかったから、どこかで買ってきて……)

そう考えている内に、用意が終わったとアリーシャに声を掛けられる。
部屋を出ると、オルキデアの部屋に向かったのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

処理中です...