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思い出の味・3
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当時、ラナンキュラス家で使用人をしていたマルテが、休憩時間に自分の分の昼食を用意していたところ、乳母の目を盗んで屋敷内を彷徨いていた幼いオルキデアが部屋にやって来たらしい。
部屋に入って来たオルキデアは、マルテが少し目を離した隙に、マルテが作った昼食を食べていたそうだ。
オルキデアに気づいたマルテが止めたが、その時にはほとんど食べ尽くされており、オルキデアは満足そうに部屋から出て行ったとのことだった。
その話をマルテが他の使用人にしたところ、それがオルキデアの乳母の耳に入り、結婚して使用人を辞めるまで、オルキデアの食事担当となったらしい。
料理人や乳母が作る料理と何も違わないはずだが、なぜかオルキデアはマルテが用意した食事やおやつしか食べなかったのだった。
「結婚して、セシリアが生まれてからも、たまに父に頼まれては、俺の様子を見に来てな。その時にセシリアと一緒にマルテが作ったおやつを食べた。プリンもその一つだ」
「思い出の味なんですね」
「あの頃のセシリアは今より我が儘でな。俺の方がプリンが大きい、プリンの飾りのフルーツの数が違うと騒いでな。よくプリンやフルーツを分けてやったよ」
おやつにプリンが出る時は、いつも生クリームやフルーツで飾りつけられて、プリンアラモードの様になっていた。
オルキデアには同じプリンに見えたが、セシリアの目にはオルキデアの分が自分の分より大きく見えたようで、度々騒いでは、オルキデアやマルテを困らせていたのだった。
「意外です。セシリアさんって子供の頃から、しっかりしているように思えたので」
「ひと回り近く、歳下の弟たちが生まれてからな。それまでは我が儘放題で、俺もマルテも手を焼いたさ」
オルキデアは空になったガラスの容器をそっと置く。
「だからこそ、セシリアがクシャースラと結婚すると聞いた時、妹が独り立ちする様で寂しさを覚えた。
だが、二人なら互いに寄り添い合えるだろうと思った……相性が合うだろうと」
「……お兄さんみたいですね。私も他の兄や姉たちと一緒に育って、もし私が結婚することになったとしたら、兄や姉たちからそう思われたのでしょうか」
アリーシャは生まれてすぐに母に連れられてシュタルクヘルト家を出て、十歳になるまで娼婦街で母と暮らしていた。
母が亡くなってからは、父によってシュタルクヘルト家に引き取られたが、もしシュタルクヘルト家でずっと育って、父の命に従って結婚するとなったら、他の兄や姉たちにそう思われたのだろうか。
「そうかもしれないが、本当にそれでいいのか?」
「えっ……?」
「シュタルクヘルト家で幸せに暮らしていたら、今頃、ここでこうして、プリンを食べていないだろう。……俺たちは出会っていなかった」
そもそも、アリーシャが襲撃場所となる軍事医療施設に行ったのも、他の弟妹が行きたがらなかった慰問に、爪弾き者のアリサーーアリーシャが行くように、父に言われたのがきっかけだった。
そこで襲撃に巻き込まれて、たまたま生き残ったアリーシャがオルキデアに保護されたことで、二人は出会った。もしあそこでアリーシャ以外の弟妹が慰問に行っているか、または襲撃でアリーシャが死んでいたら、今頃、こうして秋の花々が咲く美しい庭で、プリンを食べていなかっただろう。
「それは嫌です。オルキデア様と出会えないんて」
「俺も同じだ」
「それって……」
言いかけたアリーシャだったが、その先を聞くのが怖くて思い止まる。
「そう、ですか……」
「今度、またプリンを作ってくれるか」
顔を上げたアリーシャは、力強い濃い紫色と目が合う。
「セシリアから作り方を教わったのだろう。また作って欲しい。そうしたら、また即席のテラス席を用意する。一緒に食べよう」
足を組んで、椅子の背に寄りかかったオルキデアは微笑を浮かべていた。
アリーシャは目を見開くと、すぐに笑みを浮かべる。
「はい! また作ります。そうしたら、また一緒に食べましょう!」
空になったガラス容器を片付け、飲み物を淹れ直すと、二人は本を広げる。
時折、本の内容やアリーシャがテレビを観て知った話をしながら、二人は穏やかな白昼を過ごしたのだった。
部屋に入って来たオルキデアは、マルテが少し目を離した隙に、マルテが作った昼食を食べていたそうだ。
オルキデアに気づいたマルテが止めたが、その時にはほとんど食べ尽くされており、オルキデアは満足そうに部屋から出て行ったとのことだった。
その話をマルテが他の使用人にしたところ、それがオルキデアの乳母の耳に入り、結婚して使用人を辞めるまで、オルキデアの食事担当となったらしい。
料理人や乳母が作る料理と何も違わないはずだが、なぜかオルキデアはマルテが用意した食事やおやつしか食べなかったのだった。
「結婚して、セシリアが生まれてからも、たまに父に頼まれては、俺の様子を見に来てな。その時にセシリアと一緒にマルテが作ったおやつを食べた。プリンもその一つだ」
「思い出の味なんですね」
「あの頃のセシリアは今より我が儘でな。俺の方がプリンが大きい、プリンの飾りのフルーツの数が違うと騒いでな。よくプリンやフルーツを分けてやったよ」
おやつにプリンが出る時は、いつも生クリームやフルーツで飾りつけられて、プリンアラモードの様になっていた。
オルキデアには同じプリンに見えたが、セシリアの目にはオルキデアの分が自分の分より大きく見えたようで、度々騒いでは、オルキデアやマルテを困らせていたのだった。
「意外です。セシリアさんって子供の頃から、しっかりしているように思えたので」
「ひと回り近く、歳下の弟たちが生まれてからな。それまでは我が儘放題で、俺もマルテも手を焼いたさ」
オルキデアは空になったガラスの容器をそっと置く。
「だからこそ、セシリアがクシャースラと結婚すると聞いた時、妹が独り立ちする様で寂しさを覚えた。
だが、二人なら互いに寄り添い合えるだろうと思った……相性が合うだろうと」
「……お兄さんみたいですね。私も他の兄や姉たちと一緒に育って、もし私が結婚することになったとしたら、兄や姉たちからそう思われたのでしょうか」
アリーシャは生まれてすぐに母に連れられてシュタルクヘルト家を出て、十歳になるまで娼婦街で母と暮らしていた。
母が亡くなってからは、父によってシュタルクヘルト家に引き取られたが、もしシュタルクヘルト家でずっと育って、父の命に従って結婚するとなったら、他の兄や姉たちにそう思われたのだろうか。
「そうかもしれないが、本当にそれでいいのか?」
「えっ……?」
「シュタルクヘルト家で幸せに暮らしていたら、今頃、ここでこうして、プリンを食べていないだろう。……俺たちは出会っていなかった」
そもそも、アリーシャが襲撃場所となる軍事医療施設に行ったのも、他の弟妹が行きたがらなかった慰問に、爪弾き者のアリサーーアリーシャが行くように、父に言われたのがきっかけだった。
そこで襲撃に巻き込まれて、たまたま生き残ったアリーシャがオルキデアに保護されたことで、二人は出会った。もしあそこでアリーシャ以外の弟妹が慰問に行っているか、または襲撃でアリーシャが死んでいたら、今頃、こうして秋の花々が咲く美しい庭で、プリンを食べていなかっただろう。
「それは嫌です。オルキデア様と出会えないんて」
「俺も同じだ」
「それって……」
言いかけたアリーシャだったが、その先を聞くのが怖くて思い止まる。
「そう、ですか……」
「今度、またプリンを作ってくれるか」
顔を上げたアリーシャは、力強い濃い紫色と目が合う。
「セシリアから作り方を教わったのだろう。また作って欲しい。そうしたら、また即席のテラス席を用意する。一緒に食べよう」
足を組んで、椅子の背に寄りかかったオルキデアは微笑を浮かべていた。
アリーシャは目を見開くと、すぐに笑みを浮かべる。
「はい! また作ります。そうしたら、また一緒に食べましょう!」
空になったガラス容器を片付け、飲み物を淹れ直すと、二人は本を広げる。
時折、本の内容やアリーシャがテレビを観て知った話をしながら、二人は穏やかな白昼を過ごしたのだった。
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