アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ

夜霞

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墓前へ・1

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あくる日、オルキデアはメイソンから車を借りると、アリーシャを乗せて、下町の片隅を走っていた。

「これからどこに行くんですか?」

助手席から話しかけてきたアリーシャは、薄手の茶色のコートを手に持ち、焦げ茶色のワンピース姿であった。
足元も黒のタイツに革のミニブーツと、全てオルキデアの希望で、派手ではない服装をしてもらった。

「結婚を報告しに行く。ただ、その前に準備が必要でな」

車の振動に合わせて、ハーフアップにしたアリーシャの藤色の髪が揺れる。
化粧は薄く施されており、本人によると、「オルキデア様に相応しい人になりたいので!」と、これまでほとんどしたことが無かった化粧を勉強しているそうだ。
自分は全く気にしていないどころか、化粧が必要ないくらいアリーシャは綺麗だと思っているのだが、そんな彼女の真面目な部分にも、いつの間にか惹かれていたのだろう。
食後に真剣な顔で化粧に関する本を読んでいるアリーシャを見ていると、いつも微笑ましい気持ちになったのだった。

「準備ですか?」
「花を買おうと思ってな。花屋なら道中、馴染みの良い店を知っている」

そうしている間に、車は一軒の店の駐車場に入って行った。
慣れた手つきで駐車をすると、「一緒に行くか?」と傍らに声を掛ける。

「一緒に行っていいんですか?」
「当たり前だろう」

当然のようにアリーシャを促して、車を降りる。 
二人揃って店に入ると、色とりどりの花と甘い香りが出迎えてくれた。
そして、馴染みの輝くような黄金色も二人を出迎えてくれたのだった。

「いらっしゃいませ。オーキッド様、アリーシャさん」

頭の上で稲穂の様な黄金色の髪を一つに結び、若葉を思わせる黄緑のエプロンを身につけたセシリアが、二人を出迎えてくれたのだった。

「祭りの準備で忙しいところすまない」
「いいえ。大事なお得意様ですもの」

発注書らしき用紙をレジカウンターに広げていたので気遣って言ったが、セシリアはいつもの笑みを浮かべて首を振った。

「それと月命日なので、きっと来店されると思っていました」
「なんだ。バレていたのか」

二人の話し声につられたのか、店の奥から店主の女性が出て来る。

「あら、セシリアちゃんの旦那さんのお友達じゃない」

オルキデアは店主に向かってそっと会釈をする。

「いつもの頼めるだろうか」
「はいはい」

一瞬、店主の女性はアリーシャに視線を移すと、意味ありげに笑ったのだった。
店主の女性がオルキデアの希望に沿って、花束を作っている間、物珍しそうに店内の花を見て回っていたアリーシャに、セシリアがそっと近く。
それに気づいたオルキデアも、女子二人の会話に聞き耳を立てたのだった。

「仲直り出来たようですね」

囁くように話すセシリアに、アリーシャも囁き返す。

「その節はありがとうございました。プリンも美味しかったです」
「どう仲直りしたのか、今度、詳しく教えて下さい。お祭りまでは忙しいですが、それさえ終われば、数日間のお休みを頂けるので」
「ありがとうございます。でも、お疲れではないですか?」
「これくらい、結婚前に比べたら平気です」

グッと肘を曲げて、力こぶをつくるセシリアに、アリーシャは笑ったのだった。

「あの……。もしかして、度々、屋敷の玄関に飾られていた花って」
「はい、私が買って飾っていました」
「やっぱり、そうだったんですね! 綺麗な花だなって思いながら、いつも見ていたんです!」

屋敷に来た日、屋敷の玄関にはオレンジのカーネーションが花瓶に飾られていた。
それ以降も、度々、季節の花が飾られていたが、セシリアが様子を見に来なくなってからは、何も飾っていなかった。

そんな空いてしまった花瓶に、今度はアリーシャが、先日、オルキデアが渡したオレンジのカーネーションを玄関に飾り出した。
けれども、どう世話をしたらいいのかわからなかったのか、覚束ない手つきーー本人曰く、昔読んだ園芸に関する本の記憶を頼りにやっているらしいが。で手入れをしているようだった。
花束なんて、受け取った後は適当に処分すれば良いと思っていたので、大切にしてくれるアリーシャに、どこか嬉しさと恥ずかしさが混ざった感情になる。
こんなことなら、以前、結婚祝いにラカイユがくれたプリザーブドフラワーの様に、手入れの必要がなく、ずっと形として残せるものにするべきだったと後悔する。
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